1話 海外単身赴任からの転移
初投稿です。
拙い文章でお目を汚すことになるかもしれないですが温かい目で見守ってください。
一応50話までは毎日投稿したいです。
よろしくお願い致します。
「あなた、行ってらっしゃい。」
早朝、妻の真莉はいつも通り玄関で俺を見送ってくれた。
「ああ、行ってくるよ。
大変だと思うけど次の長期休暇には帰ってくるから頼んだよ。」
そう、俺は今日から数年間の長期海外単身赴任。
妻と幼い子供2人の3人を日本に残して欧州にいく。
本当なら一緒に来て欲しい気持ちもあったのだが妻の実家の事情により単身赴任を選んだのだ。
「……。」
「スピー、スピー、」
上の子は4歳の男の子で名前は和章。
こんな朝早く起こされて不機嫌そうに俺を見上げている。
下の子は2歳の女の子で名前は裕美。
母親に抱かれながら可愛い寝顔を見せている。
「和章、お母さんと裕美のことよろしくな。」
「……ウン。」
息子は俺の問いかけに何とも言えない情けない顔で頷いているがやっぱり不安なんだろうな。
「帰ってきたらみんなでネズミの王国行こうな!
約束だぞ。」
少し強めに頭を撫でながら言ったら
「こないだ、じいちゃんと行ったし……。」
手痛いカウンターを食らってしまった。
真莉教えといてくれよ……。
自分の子供の近況すら把握していなかった事実に愕然としていると
「でも……行ってあげてもいいよ。
そのかわり早く帰ってきてね。」
ツンデレかよ。
パパはそういうの大好きだぞ。
「……ああ約束する。
絶対一緒に行こうな。
それじゃあ行ってきます。」
「……行ってらっしゃい。」
俺は後ろ髪引かれつつ、家族に見送られながら駅までの道を大きくはないスーツケースを押しながら歩いた。
早朝の住宅街にスーツケースのローラーが回る音が響く。
おれの年齢は35歳。
大学を卒業して2流の商社に就職。
営業一筋でやってきた。
今回の単身赴任を乗り切れば、ある程度の出世の道が歩める。
会社に、上司に恩を売れるのだ。
本来うちの社は若いうちに海外赴任をさせて経験を積ませる。
俺も入社2年目でアジアに赴任の経験がある。
そして今回欧州組の1人が心の病気を患ってしまい早々にリタイア、帰国してしまった。
しかも欧州では1番の顧客である大企業との共同プロジェクトの途中にだ。
これに会社の上層部は慌てた。
というか俺の直属の上司が慌てた。
そのリタイアした奴は上司のコネで入社した奴だからだ。
そんな慌てた上司に軽い気持ちで言ってしまったのが間違いだった。
「向こうの担当はアジア赴任時代に仲良くしてたんで自分が代わりに行きましょうか?」
本当に軽い気持ちだったんだよ。
まさか結婚して家庭のあるやつに決まらない。と、高を括って静観してたら、あれよ。あれよ。と言う間に俺の欧州行きが決まっていた。
しかも任期はプロジェクト終了まで…。
まぁ決まったことは仕方がない。
俺は少しビビりだけど女々しいことは嫌いなのだ。
頑張りますよ、と意気込んで本日に至るわけです。
今日は一日飛行機かぁ、と駅までの通い慣れた道を足早に歩いていく。
移動のみなのでカジュアルな服装。
足下も革靴ではなくスニーカー。
休みの日にしか履かないのでいつまでも真新しさが残っている。
人も少ない早朝の繁華街をスーツケースを押しながら歩いていると突然何かに強く躓いた。
歩き慣れた道で段差などなかったはず、と思い顔を上げると周囲は薄暗くなっていた。
わずかに見える壁は岩肌がむき出しの洞窟のような場所で、目の前には一抱えもある巨大なクリスタルが薄紫色に淡く発光しながら浮かんでいた。
「えっ!?」
突然の周囲の変化に声を上げて驚いてしまった。
「何だよ。これ?何処だよ。ここ?」
今さっきまで駅への道を歩いていたはずだ。
手には軽い荷物だけ入れてあるスーツケース。
今から俺は電車に乗って空港まで行くはずだった。
完全にパニックになる。
「おい!何だよこれ!何処だよ!」
つい大声で叫んでしまったが仕方ない。
叫ばないと突然の恐怖に飲まれてしまうと思った。
「誰かいないのか?何なんだよここ?」
俺は知らない場所に突然迷い込んだ恐怖に怯えながら、10分以上その場で何処にもいない誰かに声をかけ続けていた。