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聖者の半分  作者: 落花生
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聖王就任

 フリージアは聖王になり、サウベリット教も国の宗教となった。


 大多数の国民はそれを喜んだが、ルフの国には他の宗派を信じる人間も少なからずおり、満場一致の歓迎ムードとまではいかなかった。俺はと言うと教会の聖騎士の大半が国の騎士へと移動させられることとなったので、部署変えに巻き込まれた。


 まだ新米だから、それで特に何か思うところはなかった。まぁ、俺の場合は志望理由も信仰心からじゃないわけだし。


 だが、リリアは不満でいっぱいだった。ちなみに、彼女も国の騎士へと移動している。いや、彼女の不満は所属が変わったことだけではないだろう。


「私は、教会を守るために騎士になったのに!」


「まぁ、一緒になっちゃったのはしょうがないよ。合併だと思おう」


「合併ってなによ!!そして、何であんたがちゃっかり出世してるのよ」


 リリアに怒られたが、一番しっくりくる言葉がコレだからしかたがない。現代日本の知識を無駄に持っている俺としては宗教と政治は合併しないほうがいいと思うのだが、王様の決めたことに口出しもできない。


リリアの唯一の救いは、フリージアの護衛に命じられたことであろう。だが、彼女にとって最悪だったのは俺も、フリージアの護衛の一人に任命されただと思う。


 俺は、リズとリリアの同僚となってしまったのである。かなりの大出世だったのだが、竜を倒した功績を認められて……という俺にとっては若干懐かしい話を持ち出されての出世であった。これで、気兼ねなくフリージアと会える身にはなったが、どうにもきな臭いので素直には喜べなかった。


 フリージアは聖王となったため、今まで生活していた教会を離れて城に住むこととなった。フリージアは五歳ごろまで城に住んでいたというが、彼が座る場所は今までとはまったく違う場所である。


 フリージアが、城へと移動する日。

 彼は自分の足で、教会を出た。


 王は馬車は、用意さえもさせなかった。護衛の俺としては非常に頭の痛くなる事態であったし、他の騎士達だってそうだったろう。


 フリージアは王の決めたことだから、自分の足で移動すると言って聞かなかった。他の騎士たちは、移動中にフリージアがなにか悪意のある人間に刃を向けられる可能性を危惧したのだ。


 俺は、もっと別の可能性を考えていた。

 フリージアのやつ、ちゃんと歩けるのだろうか。


 俺は長く歩くフリージアの姿を見たことはなかったし、人の目があるところで途中で休むわけにも行かないだろう。あまりにも格好が悪い。


「おい、大丈夫か?」


 俺は、フリージアに尋ねた。

 フリージアは、大丈夫としか答えない。


 本当に「大丈夫」としか答えなかった。


 それは――つまり、自分を信じろということなのだろう。城までの二十分を歩き続けることができるから、信じろとフリージアは言っているのだ。


 たった二十分を歩くことだけのことなのに、フリージアは信じろと言った。

 ならば、俺は仕事としてコレを守ろう。


 俺はフリージアの護衛として、彼の聖王の就任式を守った。俺は聖騎士時代と変わらぬ制服と剣を持ち、フリージアが歩く道のりを警護する。教会から城まで、歩きで二十分もかからない。だが、その道のりにはたくさんの民衆が集っていた。


 王都のほとんどの人口が、ここに集まっているのではないだろうかと言う光景であった。人々はフリージアを一目見ようと背伸びをしたり、ジャンプしたりしていた。だが、殆どの人間が最前列に並んでもフリージアに手を触れようとはしなかった。


 就任式の日、フリージアは聖者としての白い服を身にまとう。


 聖王として就任するために、彼の衣服には特別に豪奢な刺繍が施されていた。歩くたびに服に施された銀色の刺繍がきらきらと輝いて、普段とあまり変わらない服のはずなのに特別な服なのだと一目で理解できる衣服であった。


 触れてはいけない。

 そう人々に知らしめる、神聖な衣類であった。


 俺はお洒落といかそういうものは女にもてたりするための道具程度にしか考えたことはなかったので、正直なところ驚いた。フリージアがまとう衣類には、強いメッセージがこめられていた。

 

 ――穢れを許さない、聖なるもの。

 

 フリージアが身にまとう衣類は、彼をより一層聖者らしくみせていた。そして、一歩歩くごとにフリージアの衣装の裾やヴェールが風をはらんで膨らむ。

 

 王が、フリージアを歩かせた気持ちも分かる。

 

 この衣装は、歩いてこそ真価が分かる。馬車に乗ったままでは、風を受けて煌く布の光沢なんて分からなかっただろう。


 そして、大勢の人々がその光景を何かを感じた。


 人は単純である。

 綺麗なものには神聖なものが宿ると信じるし、醜いものには邪悪が宿ると信じる。だから、王はフリージアに美しい姿で歩いて見せた。彼が聖王である、印として。


 たくさんの人々が、それを見守った。


 フリージアが城に入る際に、それを出迎えたのはテサレシス王であった。単なる歳の離れた兄弟の再会ではすまないだろうと、俺は緊張してその光景を見ていた。フリージアもテサレシスも、外見上は楚々として自分たちの役割を演じている。


 この表向きの顔が怖い。

 こいつらは外見上は華やかに笑いながら、腹のそこで何を考えているのだろうかと思ってしまう。テサレシスは、フリージアに手を伸ばす。


 その光景が、テサレシスが王になった日と同じ光景に見えた。


 彼は一年越しで、自分の望みを叶えた。たとえ王であっても、自分の望みを叶えるのには時間がかかるのだ。ならば、フリージアの望みは一体いつ叶うのだろうか。


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