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聖者の半分  作者: 落花生
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聖騎士の試験

 ついに、この時が来た。


 聖騎士の採用試験の時である。

 俺は、もう十五歳になっていた。

 聖騎士として採用されるには、この試験に合格した者だけである。でもって、試験内容は筆記試験と剣による試合のみ。面接とか小論文はない。筆記試験のほうは、昨日終了したところだった。今日は、剣術による試合である。


 この試合はトーナメント方式で、今までの結果から見るに上位三人は毎年必ず合格している。十位以内となると筆記試験の内容も加味されているらしく、場合によっては落とされている。二十位以下となると、合格することはまずない。


 俺の目標は、五位以内にはいること。


 だって、ここはただの通過点でしかないのだから。


「さて、行きますか」


 試合場所は、聖騎士の鍛錬場である。屋外での試験になるから、雨天の場合は次の日に行なわれることになる。そうなると足元がすべって大変らしいが、今年は快晴恵まれた。

 武器や武具も協会側から支給されたものであり、剣の刃は潰してあった。俺たち受験生はいかに相手より先に兜を吹き飛ばすか、相手に地を付けるか、で勝敗が決まるのだ。

 試合会場である訓練場は、白い線でもって三つのスペースに区切られていた。受験生が多いために、それぞれのスペースで試合をさせているのである。しょっぱなから強い奴と当たるのは嫌だなと思いつつ、俺は対戦相手を待った。


 最初の相手は、俺より小柄な男だった。


 ラッキーと思ったが小柄でも聖騎士を希望したということは、剣術の腕前には自信があるということである。魔法使いであっても、剣術のみで見極めるのが聖騎士の試験である。油断は、禁物だ。


「開始」


 その言葉と共に、相手が俺のほうに突っ込んでくる。

 全身鎧兜姿なのに、俺よりも早い。だが、打ち込んでくる剣は軽かった。俺は、その剣を振り払う。なんか、妙だ。聖騎士希望者のくせに相手の剣術は妙につたなかった。

 嫌な予感がした。

 俺は、早々に相手の剣を弾き飛ばす。


「終了」


 審判の声が響く。

 相手は、立ち上がろうとしない。よく見てみると俺が剣を弾き飛ばしたせいで、手が震えていた。


「すみません。ちょっと、こいつが怪我したみたいなんで医務室につれていきます」


 俺は審判をやってくれていた聖騎士にそう告げて、試合相手を引っ張っていった。

 人通りがない場所までくると、俺は試合相手の兜を脱がせる。

 思ったとおり、出てきた顔には見覚えがあった。


「なんで、おまえが聖騎士の試験を受けてるんだよ」


 フリージアである。


「ちょっと気晴らしで」


「気晴らしで、採用試験にまぎれるな!こっちは人生かかってるんだぞ!!」


 それに危ないだろうが。

 岩さえもまともに投げられなかったのは十歳のころだったが、あの頃と比べてもフリージアの運動神経に劇的な進歩があったとはいえないようだ。そういえば、初めてあったときにモヤシと思ったっけ。


「ちゃんと気晴らし以外にも理由はある。今年はリズの姪が試験を受けるというから、見に来たんだ」


 誰だよ、リズって。

 聞いた事のない名前に、俺は眉間に皺を作った。


「普通に来い」


「普通にきたら、皆かしこまって見学にならないだろう」


 俺は一瞬、フリージアが聖者なことを忘れていた。

 というか、聖者らしいフリージアなんてほとんど見た事がなかったのだ。


「……ともかく、おまえは待ってろ。絶対に、近くに行くから」


 俺は、試験会場に戻ろうとした。


「エル!」


 だが、フリージアは俺を呼び止める。


「今年は……その合格がかなり難しいといわれている。リズの姪もそうだが、色々なところから腕に覚えのある若者が集まってきているんだ」


 フリージアは、若干申し訳なそうであった。

 俺と同い年の少年少女たち。俺のように幼少期からフリージアの存在を知っていて、彼を守ろうとここに集まってきた奴らだ。奴らも、俺と同じように努力をしたことだろう。

 彼らの胸の内にあるのは、信仰なのだろう。

 俺には、信仰心なんてない。

 神様は、いたら楽しいだろう程度にしか思っていない。

 だから、俺が聖騎士を目指すのはフリージアの夢のため。


「奴らは、神様とおまえを守りにきたんだろ。だったら、合格しちゃえば心強い味方になると……がんばって考えるようにしておく」


 最後のほうは、就職活動を思い出して強くは言えなかった。

 試験という言葉は、隣の人間がいとも簡単に敵に見えてくるから不思議だ。日本の就職活動のときなんて、全国の大学生だけじゃなくて企業でさえ敵に見えていたっけ。


「君、本当はすごく自信ないんだろ」


 フリージアは、俺をじっと見つめてきた。

 自信あるよ、と答えたかったが嘘だった。俺は日本にいたとき、就職関連の試験に落ちまくっていたのだ。自信満々になれるほうがおかしい。


 ただ、今回はこの試験が通過点でしかないってことはちゃんと理解している。それが、あのころの俺と今の俺との違いだった。


「自信はない。だから、おまえは安全なところで応援してろ。俺の不安材料を増やすな」


 今度こそ、俺は試験会場へと戻る。

 そして、次の試合が始まる直前に気がついた。

 もしかして、フリージアのアレって応援のつもりだったのだろうかと。


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