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聖者の半分  作者: 落花生
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君と出会って、君と死んだ日

 歩道橋を渡るために階段を上っていた俺のスマホに、もう何十通目かわからないお祈りメールが届いた。就職活動中の学生におくられてくる『あなたのこれからの活躍をお祈りしています』という文面のメールは、もう見飽きた。


 そんなにお祈りしているならば、入社させてくれと叫びたくなる。以前、大学の先輩が「合コンの成功率は、就職活動の成功率よりも高い」といっていたが、その言葉は現実味を帯びている。


 少なくとも合コンに来る女の子は、数百人……数千人の男の子からアプローチなんて受けないだろう。だが、企業という女の子が数百人、数千人の学生からアプローチを受けているわけである。

 なんてこった。


「就職なんて、俺なんかには無理なのかね」


 そんなことを言いながら、俺は歩いていたのだ。


 ――夜の歩道橋を。

 ――電車の時間を気にしながら、少し急いで。


 見つけなければ良かった。

 でも、見つけてしまった。


「おい、おまえ。何をやっているんだよ……」


 歩道橋の真ん中に、小学生がいた。

 その小学生は黒いランドセルを背負ったままで、歩道橋の柵を乗り越えていた。彼の足の下には、スピードを出して走る車の群れ。手には、近頃やたらとはやっていた歴史の本。

 企業へのアピールに読書好きってことを強調したくて、俺も最近読んだ本だった。たしか、書き出しにすごい救いがないことが書かれていたんだっけ。


「あなたの言っていたことを痛感したんだ」


 小学生は、ぽつりと呟く。


「自分なんかには無理だ……人間は救えない」


 何を言っているのか分からない。

 そう思っていた瞬間に、少年の体が動いた。


 「危ない!!」


 俺は小学生に向って手を伸ばし――そして記憶は途絶えている。



 たぶん、死んだのだろう。


 落ちていく俺が最後に思ったこと言えば、小学生が手に持っていた本の書き出しの言葉だった。


『人類の歴史には始まりから最初まで、戦争がつきまとうであろう』


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