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勇者の活躍はこれからだ! 作者:Y.A
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第七十六話 テロ事件後日談と報復

「まさかここまで最悪の結果となるとは……」

「悪い要素が重なり過ぎましたね」

「鷹野の亡霊どもが!」



 今、世界中から日本が叩かれている。
 来日した聖リリタール王国の女王陛下が、首相官邸に到着する前にテロリスト達の襲撃を受けたからだ。
 犯行には、自動拳銃、携帯対空ミサイル、対戦車ライフルまで使用された。
 日本は銃規制が厳しくて治安がよく、そのような武器が多数使われるテロなど起こるはずがない。
 という安全神話は一気に崩壊した。

 武器の出所も、様々な国の物であったためいまだに判明していない。
 実はとっくにある国と高麗人民共和国からの密輸品だと世界中の国が勘付いているが、今は証拠がないので不明と言う他はなかったのだ。
 その肝心な証拠も、現在公安と保安部が大混乱しているので、すべてが揃うまで……少なくとも実行者を逮捕できるくらいになるには、もう少し時間がかかりそうであった。
 これだけの大惨事であるが、ちゃんと証拠を揃えて逮捕しないと、自称進歩的知識人やリベラルを気取るマスコミが、容疑者に対する不当逮捕、国家権力の暴走だと批判するからだ。
 こんな時にと思う人も多かろうが、平和ボケした日本人とはそんなものだ。
 少数でも声の大きな奴が騒ぐと、多数が碌にその意見が正しいのかも吟味せず釣られてしまう。
 戦前も、声の大きな精神論を唱えるバカ軍人が好き勝手できたのを見ればわかる。
 『もし本当に不当逮捕だと困るし、慎重に捜査してほしいよね』となるのだ。
 実はその間、日本の治安は危険な状態のままなのだが、もしそれで再び不都合が起こっても日本政府を批判すればそのウサも晴れる。
 運悪く自分や家族が犠牲になれば、それこそ『政権交代だ!』というレベルで日本政府を恨むようになるだろう。
 マスコミも、お得意の権力批判で商売繁盛で万々歳だ。
 その間、何も事が進まないのだが、それがわかっている日本人がどれだけいるのやら。

「鷹野の亡霊ども、憎たらしい事に優秀だな」

「公職追放の意味がない連中ですからね。今頃は作戦成功の祝杯をあげつつ、次の何かを企んでいるのでしょう」

 鷹野派は今回のテロを知りつつ、あえて黙認どころか、これまでの繋がりを利用して襲撃が成功するよう便宜を図った。
 さらにその隙に、別の公安と保安部の一部勢力が、女王陛下の護衛達を統率するミカゲ侯爵こと御影達也の逮捕を目論んだのだ。

 彼らの目的は御影達也が鷹野健一郎から奪った鷹野資金であり、それを裏で操ったのは鷹野健一郎との癒着で公安と保安部を追われた元幹部達であった。
 彼らは公職を追放されても両組織に大きな影響力を残し、首相直轄の極秘探索チームからも上手く逃れ、密かに設立していたダミー会社などから、資金と人手を得て今回の大事件を演出した。
 鷹野派からすれば、私の内閣は潰れてくれた方がありがたいというわけだ。
 政局の混乱を引き起こし、自分達の能力を高く売りつつ政権中枢に復帰する。
 これから間違いなく倒れるであろう、私の次に政権を担う者からすれば、戦後日本で情報を武器に大きな影響力を保持した鷹野派は喉から手が出るほど欲しいはず。
 そして一旦彼らを受け入れれば、逆に次の総理が彼らによって操られるようになるはずだ。

 日本人が苦手な『情報』を扱う鷹野派はやはり強い。

「御影達也拘束を狙った連中の取り調べはどうなっているのだ?」

「どうも連中も混乱しているようで、テロリストを操っていたと思われる鷹野派で捕まった者は一人もいません。財務省の連中と組んで御影達也を拘束しようとした連中ですが、彼らはあの愚挙を自分達だけで準備したと思っている。本当は鷹野派に操られた結果なのですが、それを意地でも認めないようで」

「無駄にプライドばかり高いのだな」

「とはいえ、彼らを唆しておきながら、今は知らぬ存ぜぬの財務省の方が害悪かもしれません」

「彼らが共犯だという証拠は?」

「残念ながら掴めないでしょう。あの連中がそんなヘマはしませんよ」

「トカゲの尻尾切りか……」

 財務省の連中、御影達也逮捕が失敗したらもう保身のために頬被りか。

「公安と保安部の連中もエリートですけど、彼らを利用して使い捨てできるのは財務省くらいでしょうね。鷹野派は別でしょうが」

 鷹野派が裏で操ったとされる、両組織の財務省と手を組んだ連中は拘束して取り調べをしているが、肝心の財務省の連中は白々しく『自分達は関係ない。我らも共犯などというと供述は、彼らが我々を貶め、自分達は主犯でないので罪を軽くしてほしいと願う身勝手な要望にすぎない。罪を擦り付けられるのは迷惑だ』と白々しく語っていた。
 残念ながら、今のところ財務省の罪を問えるほどの証拠は集まっていない。
 さすがというか、相変わらずというか。
 それよりも問題なのは、官僚達が政府の命令を聞かないどころか、すでに公職を追われたOBの命令に従いテロの手助けまでしていた事だ。

 大スキャンダルどころではなかった。
 さらに、その首謀者であった鷹野派は誰一人拘束に成功していない。
 日本政府が把握している連中が事件現場に顔を出し、逮捕されてしまうような証拠を残すようなヘマはしないからだ。
 捕まったのは御影達也逮捕を目論み、あのテロ事件を生き残った公安と保安部の人員であり、彼らは反鷹野派であったが、今回の事件で処分は間逃れないであろう。
 鷹野派の高笑いが聞こえてくるようだ。
 警備の警察官と合わせて犠牲者も多く……巻き込まれた機動隊などは死者も出たのでいい迷惑であろう……それはすなわち、捜査に当たる人員の減少も意味する。
 士気の低下も甚だしいはず。
 あとは、同じく御影達也に戦闘不能にされたテロリスト達か。
 彼らは〇本赤軍とか、〇マル派とか、極左系の反政府組織に、右翼団体に所属していた人物や金に困った元暴力団員とか、とにかく思想や所属がバラバラで、ただ日本人に女王陛下を襲わせたかったので金をかけて集めた節があった。
 その資金源は、間違いなくある国、高麗人民共和国、あとはロシアもか?
 これまでロシアは、聖リリタール王国との交流を一切していなかったが、ここにきて動き出したのかもしれない。
 とにかく事件の捜査や、黒幕を捕まえるための証拠集めを急ぎやらなければ……残念ながら、五十名近い警察官や自衛官が死傷してしまったため、世論もマスコミも我々を散々に叩いており、その対応もあるので捜査はなかなか進んでいなかったが。
 この手の事件で一番活躍しなければならないはずの公安が、半ば組織崩壊しているという事情もある。
 他の仕事を担当している者達をこのテロ事件に回すと、今度はそっちの手が回らずに日本の安全に重大な支障をきたす。
 結果、なかなかテロ事件の捜査は進まず、余計に世論とマスコミから対応の遅さを批判されるという悪循環に陥っていた。

「とはいえ、野党の連中も、マスコミにも首筋が寒い者もいます」

「こっちは、間抜けなのは多いな」

 逮捕されたテロリストの中に、数名、日本人ではない者達がいた。
 どうも彼らはある国から日本に密入国し、テロリスト達に火器を提供、簡単な射撃訓練と投薬を行っていたようだ。
 彼らはテロリスト達から少し離れた場所にいたが、呆気なく御影達也に見つかって意識を刈られ、そのまま気絶していたところを捕まった。
 さすがというか、それでもその数名が捕まったおかげで、野党議員やマスコミ関係者の中にも協力者がいる事実が判明している。
 こちらの捜査も始まっており、間違いなく数名の逮捕者が出るであろう。
 逮捕されたある国国籍らしい人物の中には、教育実習生扱いで入国していた者も多く、他にも武器を密輸する時に引き受け手になって税関の検査を間逃れた件でとある野党議員が関わっていたり、逮捕者の身元引受人になっていた議員もいて、彼らも今マスコミに『脇が甘い』と叩かれている。
 脇が甘いどころの不祥事ではないと思うが、実は野党議員には本当にただ利用されただけのアホがいるので困る。
 確信犯的に今回のテロ事件に関わっている者もいたが、まだそちらの方が実現するしないはともかく、野心があるだけ政治家としてはマシかもしれない。

 他にも、日本に支社があるある国資本の企業、日本で活動しているある国の自称ジャーナリスト、芸能人など。
 ここまで大々的にテロリスト達の支援を行ったからこそ、女王陛下襲撃は成功したわけだ。
 言い逃れができないほどテロリスト達に協力した者達が複数存在しており、その逮捕は秒読みと言われている。
 すででに一部外国に逃亡した者もおり、その中にはある国に逃げ出した者もいた。

「マスコミの連中、嬉しそうですね」

「政府、警察、公安、自衛隊、与党も野党も叩き放題。毎日この話題をワイドショーでやるだけで高視聴率だ」

「毎日同じような情報の繰り返しで、よく飽きないなとは思いますけどね」

「繰り返し流した方が覚えてもらえるからな。ヒットを狙う曲が、ドラマの主題歌になるだろう? それと同じだ。ドラマを最終回まで見れば、その主題歌も印象に残りやすいわけだ」

「まあ確かに」

 最近の大手マスコミの記者達は、あまり自分で取材なんてしないからな。
 下請けに取材させて情報を買い取るか、警視庁記者クラブの会見を聞き、自分の考えを混ぜて適当に書くだけだ。
 自分の考えを混ぜて書いた結果、とんでもない代物が掲載される事も多いが、新聞に事実なんて書いていないのは世界の常識。
 そこは割り切り、自分なりに読み解いてもらうしかない。
 マスコミの流す情報を盲信する人が多い日本人には難しいかもしれないが。
 今の大手マスコミは、ただ情報を多くの国民に流すインフラのような存在になり果てた。
 そこに、ジャーナリスト魂は存在しないというわけだ。
 そんなものに拘っても、一銭の得にもならないからな。

「マスコミの連中、ちょっとは我らに感謝してほしいどころだ」

「総理……」

 まあ、冗談だがな。
 冗談でも言わなければ、やってられない気分なのだ。

「総理、あまり支持率の事は気になさらない方が……」

「気にしても仕方がないが、それでもせめて今回の後始末が終わるまでは内閣を潰せないからな。ゼロは駄目だろう」

「さすがにゼロはないと思いますけど……」

 事件当日からずっとテレビや新聞で事件の情報が報道されているが、国民の目は冷たい。
 今まで安全だと思っていた、色々と複合的な事情はあるがそれが続いていたのに、私の政権で日本の安全神話は崩壊した。
 私は、史上稀に見る無能な総理大臣というわけだ。
 各マスコミがこぞって内閣支持率を調べて発表したが、その数値は支持するが八パーセントから十二パーセント。
 不支持率は七十五パーセントから八十二パーセント。
 それでも、今回の後始末が終わるまでは内閣を潰せない。
 今すぐ辞めなければ、権力に拘る器の小さい奴と批判されるのであろうが、この状態で政権を投げ出すわけにいかないのだ。
 本当に、総理大臣になんてなるものではないな。

 とにかく今は、テロ事件の真相を解明しつつ、崩壊した公安と保安部の組織立て直しをしないといけない。
 特に公安と保安部には野党やリベラル勢力から解体論まで噴き出しており、だがこれは政権を担当していない連中が口先だけ綺麗事を言っているにすぎない。
 もし本当にこの二つを解体してしまったら、今でも貧弱な日本の情報収集能力が致命傷を受けるであろう。
 鷹野健一郎の影響力が強い連中を排除し、組織を立て直す。
 非常に困難な仕事であり、我々は前途多難というわけだ。

 段々と事件の詳細がわかってきたが、日本は自己弁護のための嘘がつけない。
 なぜなら、聖リリタール王国は世界中に対し、今回の事件の映像を公表してしまったからだ。
 聖リリタール王国に電気で動く撮影機器は存在しないが、マナと魔力で動くそれは存在する。
 警護担当の数名が事件時の様子を撮影しており、それがノーカットで世界中に公表された。

 最悪なのは、大きな犠牲を出して失敗したテロリスト達に紛れるように、警察官数名が女王陛下を負傷させようとナイフを突き出したのだ。
 後の捜査で、彼らは本物の警察官ではない事が判明したが、彼らの着ていた制服は本物で、ではそれはどこから入手したのか。
 彼らは何者なのかという捜査が始まっているが、どうも鷹野派が裏資金で養っていた連中のようで公安にもその情報が一切存在せず、捜査は難航していた。
 こういう事に使われたので彼らは使い捨て要員の可能性が高く、調べてもあまり情報も得られないかもしれない。

 彼らの正体についてはこのまま調査を進める事にして、もう一つの問題は、まさかの事態に咄嗟に反応した御影達也の行動についてであった。
 彼は主君たる女王陛下の身を守っただけだが、一切に躊躇なく偽警官数名を処刑した。
 ノーカット版の映像では、ナイフでの襲撃に失敗し拳銃を抜こうとした警察官の首が剣で刎ねられる様子が映っている。

 それを見た野党や人権派の連中が、いかに犯罪者とはいえ、私的に日本人を処刑した御影達也に対して反感を募らせていた。
 早速人権派弁護士達が、御影達也を殺人の罪で逮捕すべきだと警察や検察に働きかけ始めた。
 多くのマスコミもこれに便乗し、彼らに賛同する進歩的知識人、芸能人も多い。
 加えて彼らは、テロリストがRPGで落としたマスコミのヘリが女王陛下の傍に落ちないよう御影達也が蹴り飛ばした件でも、ヘリに乗っていた記者やパイロットを殺したと、彼への批判を強めていたのだ。

 世界は、日本人に呆れている。
 その前に、国賓がテロリストに襲われたのに何も対応できなかった日本こそ非難されるべき。
 御影達也はまさしく騎士のように女王陛下を守っただけで、女王陛下を守れなかった日本の尻を拭ったのに、という意見が多かったのだ。

 国賓の警備失敗の代償は大きい。
 既に数ヵ国で、日本人が反政府組織やテロリストに誘拐されてしまった。
 間抜けな日本が相手なら、簡単に誘拐できていくらでも身代金を取れると踏んだわけだ。
 呆気なく誘拐されてしまい、これの対応でも日本政府は忙しい。

 東京の株式市場もこのところ上昇傾向にあったが、日本の危機管理能力のお粗末さと、今回の事件で聖リリタール王国が貿易を止めるであろうという観測から、大幅な下落に転じている。
 大幅に下落、少し買い戻して上昇、また大幅に下落をくり返ししており、各企業経営者から悲鳴があがっていた。
 私の政権は、財界からの支持も失ったというわけだ。
 株価が下がった理由は簡単で、要するに日本の治安維持能力、対テロ対応が拙いから。
 そんな危ない土地に大切な金を置いておけないというわけだ。

 早速、野党の自称経済通議員や、経済には欠片も詳しくなさそうな共産党などが、『我が国は憲法九条があるから大丈夫!』とテレビで言い、関係者内だけで勝手に盛り上がっていた。
 外国人投資家からすれば平和憲法なんてどうでもよく、ただ日本にちゃんとした防衛、治安維持能力があるかという話なのに、それがまったく伝わらず憲法九条の素晴らしさをテレビで説く様子はまるで宗教家のようであった。

 彼らが聖典(憲法九条)に拘る宗教家なのなら、現世でのトラブルに対応できないのは変ではないのか。

 外国人投資家達は、日本に金を預ける事に不安があるから株価が暴落している。
 これを解決するには、日本の警察、特に公安が早くその機能を取り戻す事。
 もしくは自衛隊の強化、法整備なども有効だが、それで世論の流れが憲法改正に進んだら、憲法九条を聖典扱いしている彼らからすれば都合が悪い。

 とはいえ、他に現実的な対策も存在せず、ただ憲法九条を維持すれば日本は平和なままだと、根拠もないのに言っているにすぎないのだ。
 問題は国内の治安、防諜、対テロ対策の問題なんだが、どうもテレビで騒いでいる連中はこの事件を機にすぐにも日本が自衛隊を正式な軍隊とし、軍備拡張がなされ、憲法が改正されるかもしれないと危機感を覚えている。

 だが、その心配は今のところは無用であろう。
 確かに与党勢力は三分の二以上を維持しているが、憲法改正論者であった私の政権はもう死に体だ。
 もし内閣解散に合わせて選挙があったら、与党の議席数がどうなるかもわからない。
 暫く日本は、今の憲法を変えられないであろう。
 それが、日本にとっていいのか悪いのか。
 私はいい事とは思わないが、もうどうしようもない。 

「それにしても、よく貿易を止められていないものです」

「向こうにも利がある話だからな」

 それとこれとは別よというのは、ある国と同じか。

 今のところ、聖リリタール王国が日本との貿易を止めるとは宣言していない。
 もっとも、これ以上の貿易拡大は暫く停止すると、聖リリタール王国は大石の在外公館に連絡していた。
 これから聖リリタール王国に農作物などを輸出しようとしていた農家や企業には大打撃というわけだ。
 彼らはテレビの前で私達を散々に批判していたが、気持ちはわかる。
 きっと私が彼らの立場でも文句を言ったであろう。

「国内への対応も重要だが、問題は聖リリタール王国への謝罪だな」

「いい機会だと、喜んで行きたがる人は多いでしょうね」

「問題なのは、行きたがる政治家ほど聖リリタール王国に嫌われているという点だな」

 彼らを行かせたら、余計に関係が拗れてしまうであろう。
 これは突っぱねるしかない。
 能力が致命的に欠けているのと、欲の皮が突っ張っているのを聖リリタール王国側に見透かされている人ばかりだからだ。

「こういう時、元総理大臣を派遣するという方法もあります。アメリカがよく政治特使で送りますよね」

「石和議員の意見だろう? 彼なら言いそうな事だ」

 どうせ世話役とかそういう理由で自分もついていき、聖リリタール王国政府関係者やマスコミの前で、自分が次期総理として聖リリタール王国との関係改善を目指すとか、大言を吐いて大いに宣伝するつもりなのであろう。
 彼も勉強した知識をテレビの前でひけらかし、実現できるかわからない綺麗事を言うだけの状態をやめてくれればな。
 私も、安心して次の総理の座を譲れるのだが。

「元総理連中で、聖リリタール王国政府に好印象を持たれている人はいない。これも却下だ」

 どいつもこいつも、聖リリタール王国利権に目の色を変えている亡者どもばかりだからだ。

「はあ……誰を送り込めばいいのか……私が行くしかないか……」

 とはいえ、今の忙しさでは聖リリタール王国に外遊している時間などまったく存在せず、どうしたらいいものか、私は悩み続けるのであった。





「最悪の結果になりましたね、井川議員」

「特区は、これまでどおりの売り上げと経済規模を確保できるのが救いですか。こうなると、私は二回生議員だから政権中枢にお呼びでない状態で助かりました」

「魔の二回生からは逃れられましたか」

「逃れられたかどうかはまだわかりませんが」

「安芸政権は、この大騒動の混乱を静めたら退陣ですか?」

「確実にそうなるでしょう。ただ、いつこの混乱が収まるかですよ。言っても、野党もテロリストを支援していた者もいたとかで、逮捕されるかもと大騒ぎです」

「労組関係者で、テロリストの入国を助けたりと支援していた人達がいたらしいですね」

「大きな労組に、極左テロ組織が入り込んでいるのは公然の秘密ですからね。彼らは社員から集めた組合費で好き勝手にやっていますよ。まさに、今の世の労働貴族ですな。生まれのせいか、上品さに欠け野蛮ですけどね」

「そんな話を聞いた事はあります」

「今回の襲撃事件でも大活躍だったそうで。大捕り物があるとかないとか。さすがに犠牲者の数などを考慮すると今回は逮捕するでしょう。いつもはそれを阻止する野党議員の中にも、一緒に捕まる奴がいますから」

「世の末な話ですね」

「むしろ、今まで日本政府が彼らを逮捕しないで放置していた方が問題ですよ」

 どこのチャンネルをつけても今回の事件報道しか流れていない中、熊野さんが私に話しかけてくる。
 彼も今外に出ればマスコミの取材攻勢に曝されてしまうのは確実で、それを避けるため私が在外公館を訪ねていたのだ。

「誰が総理でも同じ結末だったでしょう。半分以上の日本人は、何となくそれに気がついているのですよ」

「安芸総理は、なぜ女王陛下来日を強行したのでしょうか? いくらマスコミのミスリードと世論の支持があったからといって、事前にこうなる事はある程度予想されていたはず」

 予想よりも酷い結果になったが、公安と保安部の背信、ある国と高麗人民共和国の暗躍はわかっていた事だ。
 それなのに、安芸総理が女王陛下を日本に招待した理由が熊野さんにはわからないのであろう。
 聖リリタール王国もわざと女王陛下の来日を許可したという事実があるが、これは彼は知っているのかな?
 知っているとみていいのは確かか。

「我々は議員数で圧倒的多数を誇る与党ですが、それはすなわち、烏合の衆とも言えるのです。色々な考え方の人間が自分の考えを通そうと頑張りますからね。アメリカはともかく、台湾に女王陛下が来訪した件。『国でもない台湾如きに先を越されたのか!』と激怒する者もいたのです。彼は大陸ベッタリで有名な与野党の議員達ですけど」

「随分と失礼な物言いですね」

「あの連中の発言がおかしいのは、今日に始まった事ではないので」

 その議員達は、リベラル・左派と呼ばれる議員が多かった。
 普段から平和だの、人権だの、友好だのと言っているが、実はある国の影響下にある者が多い。
 日本よりも先に台湾に女王陛下が来訪した屈辱イコール、ある国様よりも先に台湾何かにに女王陛下が来訪したなのだ。
 彼らの人権・平等思想が、その時々によって色々と基準が変わるのはいつもの事であった。
 無理に理想を追求して、本当に怖い連中に睨まれるのは嫌なのだから。
 綺麗事にもコストがあるというわけだな。

「実は、女王陛下に来日してほしい勢力に右も左も関係ないのですが。一部野党にも望んでいる声は大きかったですからね。仕方なしに来日を許可したのでしょう」

 そして、女王陛下への襲撃を防ごうと安芸総理なりに努力してみたが、彼の努力をあざ笑うかのように、潜伏していた鷹野派と公安・保安部の一部勢力が逆らった。
 自分達の都合である御影達也逮捕のため、わざとテロリスト達を泳がせたのだ。

「圧倒的多数に押され、女王陛下の来訪を認めざるを得なかった。まるで太平洋戦争の時みたいですね」

「いつの世も、世論とは怖い物ですよ。例えそれが間違っていても、その選択肢を取らざるを得ない。失敗すれば責任は全部背負わされる。政治家とは難儀な生き物です」

 あれも、アメリカとまともに戦争すれば勝てないと考える上層部の人間は多かったが、軍部の跳ねっかえり、右翼、財界、マスコミが世論を煽り、日本は戦争へと向かった。
 安芸総理も、女王陛下来日という日本人達からの願いに逆らえなかったわけだ。

 もう一つ、女王陛下の来日すら国益のために利用しようとする、聖リリタール王国政府の罠から逃れられなかった。

「聖リリタール王国は、急遽ミカゲ侯爵を女王陛下の護衛に任じた。彼に任せれば、女王陛下が何者に襲われても無事だという確信があったのでしょう。だからこそ、女王陛下を囮に使った。日本では考えられない策ですし、女王陛下もそれをよしとした。どちらも非常に手強い。鳩川元総理とかは、彼女達の爪の垢でも煎じて飲めばいいのに」

「さっき、のん気に『僕に任せてくれれば大丈夫』って言ってましたよ」

「一番任せるのが不安な人なんですけどね……」

 世界中の人達は、もう一つの衝撃を受けた。
 それは、女王陛下を護衛していた聖リリタール王国軍人達の戦闘能力についてだ。
 彼らは魔法で、銃弾は勿論対戦車ライフルまでを防いだ。
 日本政府に言われて一切の火器を所持していないにも関わらず、その戦闘力は驚異的であった。
 まあ元から聖リリタール王国は火器を所持していないが。
 あと、他国の護衛に武器の所持を禁じておきながら、無様に女王陛下が襲撃され、さらにその緊急事態に何も対応できなかった日本の警察と自衛隊を世界は冷笑していた。
 普段、日本のマスコミは警察と自衛隊の優秀さについて自画自賛していたからな。
 装備は優秀で、常に厳しい訓練をしており、練度は非常に高いと。
 いざ実戦ではボロが出て、これは初実戦だから仕方がない面もあるのか。

 そして、そんな彼らをも上回る戦闘力を有したミカゲ侯爵。
 RPGや対戦車砲すら魔法で防ぎ、RPGが直撃して女王陛下のいる場所に墜落しようとしたヘリを蹴り飛ばし、ビルの屋上までひとっ跳びしてテロリスト達を拘束した。

 しかも、彼はテロリスト達を殺さずに捕えている。

「もっとも、その助けたテロリスト達も、負傷していた警官やSP達も、公安と保安部の連中も大勢死にましたが」

 襲撃事件の終盤、絶妙なタイミングで対戦車砲を連射したテロリストがいた。
 その砲撃は魔法で防がれたが、近くに拘束、治療後安置していた警官達に直撃、大勢の犠牲者を出してしまった。

 早速野党が、自分達だけ魔法で銃砲撃を防ぎ、日本の警察官を大勢見殺しにした卑怯な聖リリタール王国人だとキャンペーンを張りつつある。
 彼らは一度自分達を襲撃したテロリスト達まで治療していたのにそれはないと、これも日本の評判が落ちる原因になってしまった。

 それでも、半分以上のテロリスト達と警官、SP達は無事だった。
 それにしても、あのタイミングでまるでテロリスト達を口封じするため対戦車砲を放った別のテロリストか。
 彼は、他のテロリスト達とあきらかに指揮系統が違っていた。
 幸いミカゲ侯爵が捕えてくれたので取り調べの最中らしいが、彼は日本人ではない可能性が高いそうだ。
 他にも数名、そんな逮捕者がいる。
 普通、こういう極右、極左系の運動員なども混ぜたテロリスト集団には、韓国、高麗人民共和国、ある国系の人間が必ず一定数混じるのだが、今回の事件で逮捕されたテロリスト達はほぼ全員が日本人であった。
 位置的に、捕まった外国籍らしき連中は拘束されたのが予想外だったという感じらしい。
 ミカゲ侯爵を攻撃したのだから、そう簡単に逃がしてもらえるわけがないとも言えたが。

「最後の女王陛下をナイフで刺そうとした警官達ですが、彼らは何者なのですか?」

「実は、警官ではないらしいです」

「テロリストが変装していたのですか?」

「いいえ、もっと根が深いです」

 女王陛下に対し首相官邸に逃げるようにと進言しつつ、ナイフを突き出した警官達。
 彼らは、警察官・自衛隊の名簿に載っていない人間だった。
 ところが、彼らの着ていた制服も、持っていた装備品も、ナイフ以外は拳銃すら正規の装備品だった。

 では、それはどこから入手したのだという話になるが、彼らは公安の民間協力者、保安部が管理する民兵の可能性が高いそうだ。
 元々公安は、機密保持の観点から予算の使い道が公表されていない。
 任務の性質上、公表すれば活動に支障が出るからという理由なので、非正規の人員を抱える事も不可能ではないのだ。
 ましてや鷹野派は、鷹野健一郎の支援でダミ―会社を複数持っている。
 謎の人員の供給源は存在するというわけだ。

「民兵ですか」

「世間の人達は、そんなもの存在しないと思っているようですが、諜報関連の組織は、こういう連中がいると便利なので必ず存在しますよ。それを探る能力は……今のマスコミには期待でしませんね」

「能力的な意味でですか?」

「いいえ。彼らはせっかくいいところに就職できたエリートなのです。このまま無難に定年まで過ごそうと考えている人達が、危険を冒して民兵の事なんて調べませんよ」

 もしこの情報がマスコミに公表されたら、彼らはまた公安と保安部叩きを始めるであろう。
 彼らをミカゲ侯爵に私刑で殺された憐れな被害者だと世論を盛り上げようとしたマスコミは、いい面の皮であろうが。

「それ以上に、もう一つ問題があります」

 それは、女王陛下を襲撃しようとした偽景警官達を殺害してしまったミカゲ侯爵を、人権派弁護士、左翼系市民団体が殺人の罪で刑事告発したのだ。

「マスコミの反応は?」

「殺すのは論外で過剰防衛には当たるという事で、概ね彼らに賛同しています。ミカゲ侯爵は、日本国内で偽警官達を殺しました。日本の法律で彼を裁くべきだと。偽警官達には女王陛下への暗殺未遂の罪がありますが、もう死んでいますしね。書類送検でケリでしょう」

 法曹関係者達の、ミカゲ侯爵への敵意は凄い。
 老齢の法曹関係者ほど、実は鷹野健一郎との癒着が酷かった。
 彼の言うがまま、無罪の人間を有罪にしたり、逆があったのを私も聞いている。
 あの事件には鷹野健一郎が絡んでいて、しかも真犯人は名前すら知らない人物で、それなのに他の人間が有罪になっていたりした。

 彼らは怖れてもいるのだ。
 ミカゲ侯爵を逮捕して、公安や保安部と同じく鷹野文書の廃棄を求めるつもりなのかもしれない。
 あれをミカゲ侯爵が所持している間は、最高裁の判事だって夜も眠れないであろうから。

「マスコミは、ここが日本の三権分立を守る分水嶺だと言っています。第二の大津事件だと」

「状況は似てなくもないですか。大津事件よりも酷い有様ですけどね」

 熊野さんは、法曹関係者達が嫌な攻め方をしてくると思っているようだ。
 日露戦争前、来日した当時皇太子であったロシア皇帝ニコライ2世が、警備にあたっていた警察官津田三蔵に斬りつけられた。
 ロシア側は死刑を望んだが、日本の法では皇族への暗殺未遂は無期懲役、しかもロシア皇太子は皇族ではないと死刑にはならなかった。
 当時の政府関係者は大審院院長の児島惟謙に津田巡査を死刑にするようにと圧力をかけたが、彼は司法の独立を頑なに守り、後に彼は司法権の独立を守った人物として称賛されるようになる。

「問題は、襲撃された側が果敢に反撃した点にありますか」

「俄か聖リリタール王国人から言わせてもらいますと、御影は偽警官達を処刑するしかなかったのです。あのまま逃がしていたら、あいつが聖リリタール王国人達から批判されてしまうので」

「王様への暗殺は、未遂でも死刑ですか」

「ええ、聖リリタール王国の場合、王族・貴族批判はよほど酷いのでなければ不敬罪になりません。というか、不敬罪はなくて名誉棄損とかですけどね。ですが、有事に『守りの壁』で国を守れる王様に手を出す事はタブーなのです。警護を担当している者達が、暗殺者をその場で処刑しても何ら問題にならないので」

 大捕事件とは違って、ミカゲ侯爵は日本でそれをしてしまったのが問題というわけだ。
 日本で発生した事件なので、暗殺者達は日本の法で捌かれるべきだと。
 この辺の事情は、思想に関係なく縄張り荒らしをされた法曹関係者の怒りというわけだ。
 大津事件では、津田三蔵はその場で処刑されていないからな。
 彼らはミカゲ侯爵の私刑を殺人だと主張し、犯行現場が日本なので政府は彼を殺人で逮捕すべきだというわけだ。
 この問題の厄介な部分は、彼らの言い分が間違っていない点であった。
 確かにミカゲ侯爵は、日本の主権が及ぶ場所で偽警官達を処刑してしまったのだから。

「世論は真っ二つです。ミカゲ侯爵を逮捕すべきという意見と、もう済んだ事だと無視すればいいという意見。元々、国賓を暗殺しようなんて考える方が悪いと。さらに言えば、日本の警察がまったく対応できていない」

 もしミカゲ侯爵が女王陛下の警護に失敗して彼女に何かあった場合、聖リリタール王国は日本と断交、報復すらあり得た。
 それを防いだ彼を罪に問うなど、話にならないという意見もあるわけだ。
 現実的に、もし聖リリタール王国に軍事的に報復されても、自衛隊では手も足も出ないという悲しい現実もあった。
 どうもその辺の理解が及ばない連中ほど、かなり強硬なミカゲ侯爵逮捕・死刑論を口にしたりしていた。

「被害者である殺された偽警官達の人権を配慮すべきで、もし聖リリタール王国が報復をしようとしても、自衛隊の活躍に期待する。普段は左翼で憲法九条の死守とか言っている連中の中にもこんな意見があるので、人間の思想なんて案外あてになりませんね」

「綺麗事を言うにもコストが必要ですからね」

 人権派弁護士には、自衛隊は違法、軍備放棄を謳うような連中も多い。
 いきなりの手の平返しに、混乱している支持者も多いであろう。
 もしミカゲ侯爵を逮捕できたとして、では彼の刑罰をどうするか。
 死刑廃止論者達が彼を死刑にするのは絶対に駄目だと主張し、死刑にすべきという人達と下らない言い争いも発生していた。
 まさに、獲らぬタヌキの何とやらだな。

「安芸総理も大変ですね」

「聖リリタール王国との関係立て直しは困難でしょう」

 この特区を中心とした貿易は中止にならないはずだが、貿易の伸びは完全にストップするであろう。
 これから大石に農産品などを持ち込もうとしていた他県の人々は、将来への希望を絶たれ、安芸政権に対し大激怒している。
 彼らは自由党の票田である。

 安芸総理の苦難は続くな。
 私なら、後始末すらしないで絶対に逃げ出すと思う。

「一つわかっている事があります」

「何でしょうか? それは」

「ミカゲ侯爵は、わざと偽警官達を処刑したのでしょう。彼は元々日本人で、この国の事がよくわかっている。彼を中卒だとバカにする人も多いですが、彼は異世界でかなりの修羅場を潜ってきた。得ている知識や経験も多い。彼は、日本がいまだ差し出し続ける手を振り払うところか、切り落としたのでしょう。平和に慣れている日本人にとって、あの処刑は衝撃的だった。日本人の中には彼を嫌悪する人が増えますが、聖リリタール王国人でそう思う人は少ない。彼はもう自分が聖リリタール王国人っであり、日本に関わる意思がないと明確に宣言した」

「でしょうね。御影なりの、この世界の人間にはキツイ返答でしょう」

 熊野さんも、私の考えに賛同した。
 公安と保安部の件もあり、再び日本に来ても拘束されるかもしれない。
 いや、ミカゲ侯爵の逮捕・拘束など、日本の官憲には不可能か。
 逆に殺されかねず、あの戦闘映像を見れば子供にでもわかる事だ。

 それでも、諦めない連中はいそうだが。

「これからの日本はどうなるのでしょうか?」

「安芸政権は暫く後始末で存続する。これだけはわかります」

 現時点で安芸内閣は倒れない。
 倒れるはずがないというか、このまま倒れるわけにいかない。
 本来なら早期にそれを望むはずの野党ですら、今回のテロリスト達と関係が深すぎて逮捕される人間が出るからだ。
 何と、彼らを支援した人達の中に野党議員の元を含めて私設秘書や事務所、選挙スタッフまでいたそうだ。

「テロリスト達に色々と便宜を図っていた連中もいます。あくまでも草の根レベルの市民運動に手を貸しただけだと言っていますが、それを隠れ蓑に歴史に残る大規模テロ事件ですからね。逮捕は間逃れませんが、彼らの弁護でお忙しい方もいますし、野党も人気が急落しているので」

「既存政党への不信ですか」

 幸い、市民の犠牲はマスコミ関係者が数名のみであったが、警察官と自衛官、テロリストに五十名以上の犠牲者が出た。
 軽傷者も含めた負傷者はもっと多い。
 テレビでは、連日彼らの情報を流して視聴率を稼いでいた。
 やはりテロリスト達を庇う論調の人達がいて、まあ日本のマスコミは相変わらずというか。
 反権力を気取るのが心から大好きなのであろう。

「選挙なんてできませんからね。しても、野党ですら勝てるかどうかわからない。テロリスト達とは無関係だと主張する野党議員達も、国民は疑うでしょう。与党にも関係がある議員が数名おり、安芸さんは彼らを許さないと思います。自分の政治生命を賭けても潰すと」

 今の日本は、安芸政権を維持しなければ他に選択肢がないのだ。
 しかし政権を維持すればするほど、世論は安芸総理を権力の亡者だと批判する。
 損な役回りだ。

「ただし、内閣改造はあるでしょう。現職の防衛大臣と国家公安委員長は確実にクビです。副大臣、政務官も総取り換えで、事務方でもクビを切られる者は多いはず」

 本当は、一番責任があるのは安芸総理である。
 それでも現時点で辞めるわけにもいかず、これから散々批判されながら政権を運営していくわけか。

「井川さんも入閣ですか?」

「まさか、私はまだ二期目ですよ。入閣できる資格はありませんし、大石の特区維持で忙しいのです。頼まれても引き受けませんね」

 とにかく今は、与党とも距離を置くのが一番だ。
 日本の評価を地に落とした、今回の事件で混乱している政権中央に近づく利点を感じないし、実は安芸総理からも言われている。
 無理に泥船に乗る必要はないと。

「とにかく今は、貿易量の確保こそが重要なのです。大石に聖リリタール王国へ輸出する品を出している県の議員も、中央になんて近寄りませんよ」

 みんな私と連絡を密にし、聖リリタール王国との貿易を維持しようと懸命になっている。
 こうなってくると、自然と私が新派閥の長、小規模政党の長みたいな扱いになっているな。

「そこでです。単刀直入に尋ねます。これから報復はあるのでしょうか? 今は大丈夫でも、将来は不安と考えている人達も多いのです」

 普通の国なら、貿易の停止くらいされても文句は言えないからな。
 どうにか熊野さんから言質を取り、不安を抱える人達を安堵させたい。

「その心配はないと思います。聖リリタール人は、日本の政府には呆れていますが、日本の生産者には敬意を払っていますから」

 日本の産品は品質が高いので、多少高価でもよく売れた。
 聖リリタール王国は今でも経済発展中なので、庶民にも高価な外国製品を楽しむ余裕があるからだ。
 今の貧富の差が広がりつつある日本人からしたら、羨ましい話ではある。

「一時貿易量は固定すると思いますが、減らすと聖リリタール王国側にも問題が出るのでこのままでしょう。聖リリタール王国からのポーズは、増やした輸出品をアメリカと台湾に回す事だと思います」

 特に台湾だ。
 あそこからある国にも輸出され、効率よくある国の富を奪ってくれるはず。
 金持ちが消費する高級品、それも薬や食品が大半なので食べてしまえば終わり。
 ある国の経済発展には何ら寄与せず、富を吸い取れるというわけだ。
 結局、聖リリタール王国のやり口は台湾にも日本にも利があり、それなのに日本はこの様だから世界中から呆れられているのだ。

 これからは、台湾をターミナル港として他のアジア諸国への輸出も増えるはずだ。
 台湾の役割を大石か、日本のどこかの港に任せる案もあったらしいが、当然今回の事件で永遠にそれはなくなった。
 逃した魚は大きかったが、ここで愚痴を言っても始まるまい。

「なるほど。助かりました。しかし、今も昔も、日本を支えているのは勤勉な一般国民であるというわけですね」

 公館の中で映っているテレビでは相変わらず、自称知識人や芸能人までもがああでもない、こうでもないと騒いでいる。
 何ら生産性はないわけだが、いつもの日本の光景だと思いながら、私は次の仕事へと向かうのであった。
 暫くは、貿易量維持のため忙しい日々が続くであろう。







「ミカゲ侯爵、いえ、タツヤさん。今回の任務、ご苦労様でした」

「いえ、陛下にお目汚しな光景を見せてしまい、己の未熟さを呪うのみです」

「王への暗殺は未遂でも死刑。タツヤさんはよくやってくれましたし、私も王である以上、そのような光景に臆するわけにいかないのです。ですが、私も普通の女の子。少しショックが大きく……」

「誰が『女の子』ですか……今年、二十歳になるお方が」

「確かに、女の子というのはあり得ませんね」

「人の首が刎ねられるのを見て動揺したんすね。わかったっす。遠慮せずに自分の胸に飛び込むっすよ」

「私の胸でもいいですよ。アンリほど大きくないけど」

「……あなた達、邪魔なのでどこかに行ってくれませんか?」




 女王陛下の来日は完全に失敗し、俺達はテロリストを蹴散らしてから帰国の途についた。 
 日本は大混乱らしいが、自業自得なので俺は何とも思わない。
 貿易は続いているのだし、隣国なんて仲がよくないのが常識だ。

 これからも、距離を置いてつき合えばいい。

 もっとも、こうなるように仕仕組んだのはガドウィン外務大臣以下、聖リリタール王国政府の連中なわけだが。
 しかしながらこれは政治の話で、引っかかる安芸総理が悪いとしか俺には思えなかった。
 もう日本人ではない俺が助ける義理もないし、これで俺に公務を頼むのも終わりであろう。

 夫婦水いらずでそろそろ子供も欲しいなんて思っていたら、俺は女王陛下から呼び出された。
 用件は、無事女王陛下を暗殺者の身から守った俺に、女王陛下が勲章を授与するというよくある話であった。

 それが終わると俺は女王陛下の私室に案内され、早速いつものように迫られたが、リィナ、ミィナ、アンリ、伊織から邪魔され、こめかみに青筋を立てていた。
 ただ、誤解なきように言っておくが、リィナ達は親友である女王陛下が心配だからこそ、わざとそういう態度を取っているにすぎず、彼女が怒れる事を確認したら私室から出てしまった。

「陛下」

「どうかしましたか? タツヤさん、ここは私の私室で二人きりなので、私の事は愛称であるリリと呼んでください」

「女王陛下に対し、愛称で呼ぶなど恐れ多いかと……」

 俺は、ミィナとリィナみたいに陛下の親友でもないし、恋人でもないからな。
 女王陛下との噂が立ってしまったら、アンリと伊織に怒られてしまう。
 ああ見えて、怒ると二人とも怖いし。

「まあ、タツヤさんは奥ゆかしい方なのですね。それでも、一旦戦えば無双の力を発揮する。私、そういう殿方が好みのタイプです」

 何なんだ? 
 急にこの人、俺をロックオンしていないか?
 もしかして、来日する女王陛下の護衛役を俺が務め、さらに彼女への襲撃を見事防いだのも、全部彼女の計算の内か?

「聞きたい事があるのでしたね、タツヤさん」

 女王陛下は、もう俺をずっと名前で呼ぶ事に決めてしまったようだ。

「私が思うに、陛下でしたらあの襲撃犯の一撃を余裕で防げたのではないかと……」

 国を守る『マジックバリアー』を張れる女王陛下は、元から魔力量も多く、竜機甲の操縦者に選ばれる素質の持ち主であった。
 当然、防御魔法にも長けている。

 思わず助けてしまったというか、それが俺の仕事だったんだが、間違いなく俺が助けなくても女王陛下には傷一つつかなかったはず。

「そういうわけでして、取り立てて感謝されるほどの事は……「私、急に男性がナイフを取り出して刺してきたので、体が竦んでしまいまして。タツヤさんが私を助けてくれてとても助かりました。嬉しかったです」」

 俺の発言を遮るように、女王陛下は俺の両腕を握ってきた。
 若い女性特有の、俺からすれば可愛らしいか細い手だ。
 そんな彼女の両肩に聖リリタール王国の未来がかかっているのかと思うと、俺ももう少し彼女のために働いた方がいいのではないか?
 彼女に手を握られ見つめられていると、ふとそんな風に思ってしまうのだ。

「陛下、これから日本との関係は色々と揉めるでしょうが、私や熊野達元日本人に配慮する必要など一切ありません。我々は帰化した以上は、聖リリタール王国のために働く所存です」

 最悪、日本と戦争になったら、俺は日本人を殺すだろう。
 俺達はもう聖リリタール王国人なのだ。

「その覚悟、大したものです。いくら元祖国でも、やはりどうしても古い祖国に配慮したくなるのが人情ですから。ですがご安心を」

 聖リリタール王国としては、日本はこのまま民間ベースの貿易を今の規模で進めて、あとは無視すると女王陛下が教えてくれた。

「ある国への対策も重要であり、台湾他いくつかのアジア諸国と関係を強化した方が早そうですから」

 残念、やはり日本は外交が下手だ。
 国内のバカに甘い顔をしたばかりに、大きな利益を失ってしまった。

「とは申せ、これは政府の仕事です。私があまり何でもしてしまうといけませんからね。今回の事件もあって、私は暫く休暇を頂く事になりました」

「それはよかったですね」

「はい、ここから少し離れた場所に王家専用の別荘があるのです。そこで休養する予定なのです。そこでお願いがありまして」

「はい。どんなお願いでしょうか?」

 お願い? 
 何だろう?

「タツヤさんには、私の騎士として護衛をしてほしいのです。一週間ほどですが、よろしくお願いしますね」

「かしこまりました……」

「楽しみですね。世話役のメイドや護衛もいますが、二人きりと考えてよろしいかと」

「……」

 任務で助けただけなのに、俺は女王陛下にロックオンされ、さらに一緒に別荘に静養に行く羽目になってしまうのであった。゛
 そうえいば、アンリ達もまったく反対しなかったな。
 もしかして、俺の人生にまた大きな転機があるというのか?





「これはこれは、イオリ夫人、アンリ夫人。お久しぶりでございます」

「久しぶりっす」

「あのぉ……このタイミングで来たって事は……」

「さすがは、ミカゲ侯爵家の家計を握っているイオリ夫人。概ね、お考え通りかと」

「やっぱり? 報復しちゃいますか?」

「はい。ガドウィン公爵からの命令も受けていますし、こういう時に働いてナンボな我々ですので」

 女王陛下に呼び出されたお兄ちゃんは、そのまま彼女が休養を取る事になったので護衛として同行してしまった。
 それは、リリも色々と大変だったので全然問題ないのだけど、それと入れ替わるようにして『膿』のリーダーが顔を出した。
 そういうお仕事をしている彼が、このタイミングで顔を出すって事は、女王陛下暗殺未遂を起こした日本への報復をするわけよね。

「今回の報復ですが、聖リリタール王国政府も全面的にバックアップする事になり、動く人員も資金も豊富。失敗はできないのです」

「それはいいのですが、私達は何をすればいいのですか?」

「おや、ミカゲ侯爵様への許可を取るとか仰らないのですね」

「こういう事はすべて一任されているので」

「伊織っちにしかわからないので仕方がないっす」

「なるほど、そういう事ですか」

 もっとも、事前にお兄ちゃんから言われていたんだけどね。
『必ずこの人が来るから、彼のお仕事に協力するように』って。
 お兄ちゃんは勘がいいから。

「どのような手段で報復するのですか?」

「勿論、女王陛下からの絶対命令で、あまり過激なのは禁止されております。ご安心を」

「私も日本を捨てた身だから、竜機甲で全国空襲とかでなければ」

 さすがに、軍事的な報復だと反対したくなるのが人情よね。

「そのような野蛮な方法は取りませんので。それに、ミカゲ侯爵家にも利になるお話ですよ。大金が必要ですけど」

「何となく、わかっちゃったなぁ……」

「竜機甲で空襲なんてしても、無駄な経費ばかりですからね。批判も大きいでしょうし。イオリ夫人には、お金を出していただければ。できれば、所有している外貨をほぼすべて」

 これも異世界の勇者としての能力なのか。
 私には、聖リリタール王国政府がしようとしている事がわかってしまった。






「あーーーっ! あの事件で二万三千円前後で推移していた日経平均が、一万八千円平均まで下がり、これでようやく落ち着いたら、今度は一万五千円を切っている!」

「まだ下がるぞ!」

「大損だぁ!」

「ちくしょう! 損切りデイトレーダーと外国人投資家達が一斉に株を手放しやがった! 俺の持っている会社の株、ストップ安じゃないか!」

「どうするんだよ、これ!」




 日本では、再び大幅な株安が進行していた。
 特に、外国人投資家達が日本株を一斉に手放している。
 彼らからすれば憲法九条は効果抜群な防御魔法ではなく、テロ対策能力が低く、『もしこれから高麗人民共和国が長距離弾道ミサイルを放った場合、日本はそれを防げるのか?』という不安を煽る報道もなされ、安芸政権がいつ潰れるか、もし気まぐれな日本人が実務能力のない野党を再び政権担当に押し上げた場合のリスク、不安材料が次々と出たところで、遂に聖リリタール王国は動いた。
 数百機にも及ぶ竜機甲部隊が、一斉に日本の領空に侵入したのだ。
 とはいえ、少し日本の領空に入り込んだ程度で、すぐに日本の領空からは出ている。
 空自が慌ててスクランブルをかけたようだけど、Fー15戦闘機が到着した時にはもう竜機甲部隊は煙のように消えていた。
 そして、これが一週間ほど続く。
 素早い竜機甲に対し、スクランブルをかけた空自はその姿を拝む事すらできず、これも日本の株安に拍車をかけた。

 投資家達は大騒ぎしているが、ただこれで日本企業の業績が落ちたって話は聞かない。
 むしろ聖リリタール王国との貿易で業績は悪くなく、株価だけ下がるというわけのわからない状態なのだ。
 あと、多少円安傾向にはあるけど、言うほど下がっていないというか、ほぼ安定しているのだ。

 それもそのはず、どこかに安くなった円を大量に買い入れている者がいるのだから。
 どこかというか、要するに聖リリタール王国とミカゲ侯爵家なのだけど。

「幸い、『膿』は世界各地に拠点を持つに至りまして。我々の依頼を受けて動く代理人もいますし、順調に日本円が集まっていますよ。イオリ夫人はいかがですか?」

「こちらも順調です」

「それはよかった」

 ミカゲ侯爵家は、新興貴族としてはあり得ないほどの外貨を持っていた。
 鷹野資金の大半が金だったとしても、日本円も軽く十兆円以上あったし、他にも、お兄ちゃんとアンリが世界中で犯罪組織のドル・ユーロなどを奪っていたのもあって、これら大量の外貨を日本円に変えたというわけだ。
 同様の事は聖リリタール王国でもやっていて、こうやって買い集めた日本円のおかげで本来政情不安で安くなるはずの日本円はほとんど相場が変わらず、ちょっと安くなったところで買って少し上がり、また下がったところで買ってと繰り返し、私達は比較的低コストで大量の円を入手した。

「そしてこの日本円で、連日の竜機甲による領空侵入で外国人投資家などが手放した日本株を買い取りまくるのです」

 当然、『膿』が作った海外拠点やペーパー企業、代理人経由での購入だけど。
 その結果、一万二千円近くまで落ちた日経平均は、あっという間に暴落前の二万三千円近くまで戻った。

「わざと日経平均を落とし、一番底で一気に日本株を買い取る。相場は元に戻るけど、日本主要企業の株を大量に持つ大株主聖リリタール王国とミカゲ侯爵家誕生というわけですか」

「この騒ぎを聞きつけ、我々の野作戦に参加してくれた貴族や王族、商会の方々もですよ」

 こうして安く日本株を入手し、今でも評価額差でかなりの利益を出してるけど、聖リリタール王国の狙いは株の配当金だと思う。
 これから日本の企業は、聖リリタール王国政府と貴族、商会などのために高額の配当を出し続けるわけか。
 それができなければ、物言う株主となるであろう聖リリタール王国資本が経営者の首を挿げ替える事もあり得ると。

「貿易で外貨が大量にあるのですが、聖リリタール王国のリリ通貨と外貨は連動していません。ただ死蔵するよりも、利殖をした方がいいというわけです。日本の首根っこを掴めますし」

 投資なので損をするケースもあるが、対策として女王陛下暗殺未遂事件に対する報復行為を利用し、軍事的圧力により一時的に日本の株価を下げ、なるべく安く購入したわけか。

「ですが、世界は聖リリタール王国がいまだ日本に報復するのではないかと不安を覚えています。上がった株価もいつ下がるかわかりませんよ」

 日本企業自体の業績は悪くなく、いまだ株を手放していない外国人投資家もいる。
 とはいえ、今後の日本と聖リリタール王国との関係次第では、日本は危ないと株を手放そうとするリスクもあるはず。
 もしそうなった時、日本株の購入で大きな損失が出るかもしれないのだ。

「その辺はどう考えているのですか?」

「そこは問題ありません。すぐに政府が動きますよ」

「政府が?」

「というか、女王陛下がですね。休暇が終わってからですけど」

 翌日、聖リリタール王国は日本に対しある発表をした。
 それは一か月後、女王陛下が日本の皇居を訪問、天皇陛下夫妻が主催する食事会と歌会に参加する事を決めたというものだ。
 そしてそのあと、今度は天皇陛下夫妻も聖リリタール王国を公式に訪問する。
 まずは出島の各所を周り、次にマスコミによる同行や撮影は一切禁止だが、お二人は聖リリタール王国の王城に招待され、晩餐会や、王室が抱えるオーケストラ楽団によるプライベートコンサートにも参加される事が決まったそうだ。

「その代わり、日本政府関係者は一切シャットアウトです」

「嫌らしい手だなぁ」

 つまり、聖リリタール王国は日本の皇室とは仲良くしますし、今回の件も水に流します。
 だが、安芸内閣の連中は死ねというわけだ。
 もっとも、皇室や宮内庁が独自に聖リリタール王国訪問を決められるわけがない。
 安芸総理も手を貸したのであろう。
 今にも自分の政権が潰れそうなのに、日本のために頑張るなという感想を抱いた。

『陛下のお手を煩わせて! 安芸は政治家を引退しろ!』

『ぬぬっ、これは天皇家が日本の政治を牛耳るようになるかもしれない悪い前兆である! 両国の関係修復は、我ら共産党の仕事なのだ!』

 ただ、相変わらずテレビでは頭の悪い人達が無責任に好き勝手言っているようだけど。
 それでも世界は、日本と聖リリタール王国との関係修復はなったと判断した。
 一度一万二千円を切るところまで落ちた日経平均は、あっという間に二万二千円程度まで回復。
 まるでジェットコースターのような株価の乱高下は終了する。
 一見何も変化がないように思えたが、実は株価が急落したその時、聖リリタール王国とミカゲ侯爵家はすべての日本円を用いて日本の主要企業の株を買い漁ったのだ。
 その額、聖リリタール王国王室及び、その他大貴族、大商会の当主などが百三十兆円分。
 ミカゲ侯爵家が二十兆円分。
 特に株式配当が高い、安定した大企業、銀行、インフラ関連の株が狙われた。
 特にインフラ関連の企業は、景気に左右されにくく株価はそう落ちないのだが、外国人投資家は『日本が聖リリタール王国に報復された場合、インフラが破壊されてこれら企業の業績が悪化するかも』と、損切を決意した日本人投資家も合わせて株を一時手放してしまった。

 そんな事例が多数発生しての株価下落だったので、株式の評価額でいえば聖リリタール王国とミカゲ侯爵家で軽く百兆円以上儲けた計算になる。
 もっとも、これらの日本株を手放す予定はない。
 よほど下がらなければ損をする事もなく、毎年かなりお得な配当金を得られるからだ。

「今回は珍しく、欧米のハゲタカ投資家達も好機を掴み損ねたようですね。彼らは軍事音痴の日本人ではないから、逆に聖リリタール王国による日本への報復に現実性を覚え、危険だと思って日本株を手放してしまった。まさか、電撃的に女王陛下の日本再来日と天皇陛下夫妻の聖リリタール王国来訪が決定するとは思わなかった」

「まあ、普通は思わないわね」

「そこがこの策の肝なのですよ」

 聖リリタール王国は、王室外交を重視するというわけだ。
 どうせ日本に報復をする気も、占領・支配するつもりもなく、だから政治家の失態を王室外交で取り戻したという風にして手打ちにしたわけだ。

「政府も、ミカゲ侯爵家も、これからは日本企業からの配当金で何もせずに左団扇ですな」

「問題は、その配当金も使い道がねぇ」

 聖リリタール王国は内需率百パーセントだし、高級品の輸入といっても限度があるからなぁ。
 また外貨が貯まっていくわけだ。

「使い道がなければ、また日本株でもいかがです?」

「株を買うにしても、今度は他の国の株を買った方がリスクも小さいでしょう」

「確かに。さすがはミカゲ侯爵家の金庫番である奥様。どうも、こういう相談をミカゲ侯爵様本人に持ち込んでも、反応が薄いような気がしまして」

 お兄ちゃん、投資は門外漢だからなぁ。
 私もそうだったけど、一応勉強しておいてよかった。

「これで両国の関係は最悪の水準を脱したわけか。日本企業の株を買い占めているから、経済的に少し侵略したかもだけど」

「物言う株主として『もっと配当を出せ!』というのも、今度から『膿』の仕事になるかもしれませんが。まあその辺は、代理人に任せられる限りは任せます」

「総会屋とかに間違われてもねぇ」

「総会屋なる連中については調べましたが、『膿』には案外お似合いの仕事かもしれませんね」

「自分でそう言っちゃうかなぁ」

 私は一つ知った。
 今回の一連の事件と顛末を聞き安堵している日本人は多いけど、実はちゃんと経済的に報復されているのだと。
 きっと、また大半の日本人はそれに気がつかないであろう事も含めてだ。
 ただ同時に、実は日本株の外国人保有率はそんなに変わっていない。
 他の外国人投資家達が手放した分を、そのまま購入したにすぎないからだ。

「日本人は変にツイている部分がありますね。これだけの失態を犯しても、あまりダメージがないような」

 それはカミカゼの国だから?
 そんなわけないけど、とにかく今はお兄ちゃんの留守をアンリと一緒に守らないと。
 『膿』のリーダーさんとのお話を終えた私は、再び自分の仕事に没頭するのであった。

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ゲームだと思っていたら異世界に飛び込んでしまった男の物語。迷宮のあるゲーム的な世界でチートな設定を使ってがんばります。そこは、身分差があり、奴隷もいる社会。とな//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全221部分)
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  • 最終掲載日:2017/11/30 20:07
アラフォー賢者の異世界生活日記

 VRRPG『ソード・アンド・ソーサリス』をプレイしていた大迫聡は、そのゲーム内に封印されていた邪神を倒してしまい、呪詛を受けて死亡する。  そんな彼が目覚めた//

  • ローファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全149部分)
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  • 最終掲載日:2018/02/21 12:00
無職転生 - 異世界行ったら本気だす -

34歳職歴無し住所不定無職童貞のニートは、ある日家を追い出され、人生を後悔している間にトラックに轢かれて死んでしまう。目覚めた時、彼は赤ん坊になっていた。どうや//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 完結済(全286部分)
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  • 最終掲載日:2015/04/03 23:00
蜘蛛ですが、なにか?

勇者と魔王が争い続ける世界。勇者と魔王の壮絶な魔法は、世界を超えてとある高校の教室で爆発してしまう。その爆発で死んでしまった生徒たちは、異世界で転生することにな//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全537部分)
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  • 最終掲載日:2018/02/03 23:34
レジェンド

東北の田舎町に住んでいた佐伯玲二は夏休み中に事故によりその命を散らす。……だが、気が付くと白い世界に存在しており、目の前には得体の知れない光球が。その光球は異世//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全1648部分)
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  • 最終掲載日:2018/02/20 18:00
ニートだけどハロワにいったら異世界につれてかれた

 ◆書籍⑧巻まで、漫画版連載中です◆ ニートの山野マサル(23)は、ハロワに行って面白そうな求人を見つける。【剣と魔法のファンタジー世界でテストプレイ。長期間、//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全193部分)
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  • 最終掲載日:2018/01/13 21:00
マギクラフト・マイスター

 世界でただ一人のマギクラフト・マイスター。その後継者に選ばれた主人公。現代地球から異世界に召喚された主人公が趣味の工作工芸に明け暮れる話、の筈なのですがやはり//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全1800部分)
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  • 最終掲載日:2018/02/21 12:00
そのおっさん、異世界で二周目プレイを満喫中

中年冒険者ユーヤは努力家だが才能がなく、報われない日々を送っていた。 ある日、彼は社畜だった前世の記憶を取り戻し、かつてやり込んだゲーム世界に転生したと気付く。//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全77部分)
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  • 最終掲載日:2018/02/18 18:35
二度目の人生を異世界で

唐突に現れた神様を名乗る幼女に告げられた一言。 「功刀 蓮弥さん、貴方はお亡くなりになりました!。」 これは、どうも前の人生はきっちり大往生したらしい主人公が、//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全393部分)
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  • 最終掲載日:2018/02/19 12:00
私、能力は平均値でって言ったよね!

アスカム子爵家長女、アデル・フォン・アスカムは、10歳になったある日、強烈な頭痛と共に全てを思い出した。  自分が以前、栗原海里(くりはらみさと)という名の18//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全266部分)
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  • 最終掲載日:2018/02/20 00:00
魔王様の街づくり!~最強のダンジョンは近代都市~

 書籍化決定しました。GAノベル様から三巻まで発売中!  魔王は自らが生み出した迷宮に人を誘い込みその絶望を食らい糧とする  だが、創造の魔王プロケルは絶望では//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全217部分)
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  • 最終掲載日:2018/02/16 18:34
デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )

◆カドカワBOOKSより、書籍版12巻+EX巻、コミカライズ版6巻発売中! アニメ放送は2018年1月11日より放映開始です。【【【アニメ版の感想は活動報告の方//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全567部分)
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  • 最終掲載日:2018/02/18 18:00
異世界のんびり農家

●KADOKAWA/エンターブレイン様より書籍化されました。  【一巻 2017/10/30 発売中】  【二巻 2018/03/05 発売予定】 ●コミッ//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全380部分)
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  • 最終掲載日:2018/02/18 18:37
ワールド・ティーチャー -異世界式教育エージェント-

世界最強のエージェントと呼ばれた男は、引退を機に後進を育てる教育者となった。 弟子を育て、六十を過ぎた頃、上の陰謀により受けた作戦によって命を落とすが、記憶を持//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全179部分)
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  • 最終掲載日:2018/02/01 04:25
異世界食堂

しばらく不定期連載にします。活動自体は続ける予定です。 洋食のねこや。 オフィス街に程近いちんけな商店街の一角にある、雑居ビルの地下1階。 午前11時から15//

  • ローファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全119部分)
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  • 最終掲載日:2017/06/10 00:00
賢者の孫

 あらゆる魔法を極め、幾度も人類を災禍から救い、世界中から『賢者』と呼ばれる老人に拾われた、前世の記憶を持つ少年シン。  世俗を離れ隠居生活を送っていた賢者に孫//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全127部分)
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  • 最終掲載日:2018/02/03 03:49
失格紋の最強賢者 ~世界最強の賢者が更に強くなるために転生しました~

とある世界に魔法戦闘を極め、『賢者』とまで呼ばれた者がいた。 彼は最強の戦術を求め、世界に存在するあらゆる魔法、戦術を研究し尽くした。  そうして導き出された//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全176部分)
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  • 最終掲載日:2018/02/07 00:59
異世界転移で女神様から祝福を! ~いえ、手持ちの異能があるので結構です~

 放課後の学校に残っていた人がまとめて異世界に転移することになった。  呼び出されたのは王宮で、魔王を倒してほしいと言われる。転移の際に1人1つギフトを貰い勇者//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全194部分)
  • 10752 user
  • 最終掲載日:2018/02/20 00:00
転生したらスライムだった件

突然路上で通り魔に刺されて死んでしまった、37歳のナイスガイ。意識が戻って自分の身体を確かめたら、スライムになっていた! え?…え?何でスライムなんだよ!!!な//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 完結済(全303部分)
  • 11091 user
  • 最終掲載日:2016/01/01 00:00
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