丸山くがね著「オーバーロード」
祝! アニメ化第三期決定!!(ワ-パチパチ
ということで、今回はある意味でなろう小説の王道とも言える作品、オーバーロードです。私はKADOKAWAさんが製本してくださった書籍版を読んでこれを書いておりますが、もちろん当サイトでも読むことが出来ます。大筋から細部の展開まで、書籍化にあたりかなりの改稿が行われてるらしいので、それを踏まえた上で、私は書籍版を読んだともう一度あらかじめ宣言させていただきます。
さて本作品ですが、なろう小説の良いところを全部鍋の中に投げ入れて、調和するまで煮込み続けたような作品という印象を受けました。そして流行りでも二番ぜんじでもない、オーバーロードというひとつのジャンルを築いているのです。
最新の技術を使用し、自分自身がゲームの中へ入り、広大で謎に包まれた世界を旅するというオンラインゲーム「ユグドラシル」。これは言わゆるバーチャルリアリティを使用したゲームの走りで、ゲーム界の革命児は瞬く間に爆発的な人気を博していった。しかしそれも過去の話であり、こういった業界は入れ替わりが激しいものだ。物語は、「ユグドラシル」のサービス終了日から始まる。オンラインゲームに詳しくない方のために分かりやすい言葉を使うなら、当店は本日をもって店じまい。というタイミングで始まるのだ。
かつて、超強豪ギルド(ゲームを楽しむために集まったチームのようなもの)として名を馳せたアインズ・ウール・ゴウン。その活動拠点であるナザリック地下大墳墓で、プレイヤーネーム「モモンガ」はひとり名残惜しそうに歩を進めています。彼こそが本作の主人公であり、ユグドラシル内においても十本の指に収まるトップクラスのギルド、アインズ・ウール・ゴウンのギルド長。最盛期には四十一人にもなった仲間たちを束ねていたその人です。しかし、そんな仲間たちも現実世界との折り合いや、仕事の都合などでユグドラシルを去ってゆき、残ったのは彼ひとり。それでも、いつかひょっこり帰ってくるかもしれない仲間たちのために、思い出の詰まったこの拠点を維持して来たのでした。そして今日がユグドラシルのサービス終了日……
モモンガは、かつての仲間たちを想いながら、せめてサービス終了の瞬間まではこの地で待とうと心に決めていました。結局、彼が出したメールに応じてくれたのは数人。そんな彼らも、明日があると言って去ってしまう。NPC(ノンプレイヤ-キャラクタ-)と呼ばれる、凝り性だったかつての仲間たちが作ったコンピュータが動かす人形に囲まれ、それらの設定(仲間たちが思い思いに自分たちの性癖を吐き出したような、生い立ちや性格に関するもの)を読みながら、ひとり玉座に腰掛けます。そして、ついにその瞬間が訪れる……
はずが、どうやらモモンガはナザリック大墳墓ごと異世界に飛ばされてしまったようで__
という、バーチャルリアリティ、オンラインゲーム、異世界転移、剣に魔法に過剰な程の個性豊かな仲間たち……なろうで人気の要素が全部詰まったような内容になっています。
ナザリック地下大墳墓が異世界に転移してしまったことで、モモンガの周りで様々な変化や困ったことが起こります。本来、ただのデータに過ぎなかったはずのNPCに魂が宿る。そして彼らは、自らを生み出した創造主たる四十一人を神のごとく崇め、モモンガを担ぎあげて自分たちの主人にしてしまう。右も左も分からない異世界で、モモンガは何故か世界征服を行うこととなってしまったり、自分より圧倒的に賢い部下(NPC)に、より賢い存在として認識されてしまっているため、苦し紛れの演技をしたり……
さて、モモンガはナザリック地下大墳墓とそこに住むNPC達、そして自分の命を守るために未知の世界である外を非常に警戒するのですが、言ってしまえばモモンガは、この世界で有り得ないほどの強者です。ドラゴンが蟻の世界を恐れているようなものであり、モモンガも外の世界の情報を集めることでその事を少しずつ理解していきます。
ここで皆さんは、なろうで人気の主人公最強系の小説だ。という印象をうけると思います。それは正解でもあり、不正解でもあるんです。
というのも、この小説はモモンガを、ひいてはナザリック地下大墳墓を中心として物語が展開するのは間違いないのですが、カメラはこの異世界に住む「弱い者達」に向けられることが多いからです。時には、モモンガたちはまるで悪役のような立ち位置で描かれる話もあります。というか彼らはこの世界において、どうしようもない全く冗談のような力を持った敵なのです。この作品の面白いところは、各巻ごとにまったく新しい主人公と、ストーリーが用意されているところでしょう。モモンガが異世界に関する見聞を広めるために、冒険者となって仕事をこなす話があれば、ナザリック侵略軍を相手に無謀な戦を強いられるリザードマンたちの話、裏組織との対立、王国、帝国、法国といった三つ巴の謀略を描いたり、とにかく飽きさせないのです。あ、肉料理はもう食べましたか? では次は魚をどうぞ、サラダをどうぞ、スープを、パンを、デザートを。という具合で次々に違う味が押し寄せます。そしてそれが全て、一本の線として物語を構築しているのだからすごい。
部下達の期待を裏切ってはいけない、と考えるあまり、どんどん変な方向へと流されてしまうモモンガと、その周りに侍る個性豊かなキャラクターたち、そして異世界で暮らす弱くて強い人々。この先どうなるのか、まさかこんな展開が、待って次の巻どこだ! と久しぶりにどっぷりのハマって一気読みしてしまった作品でした。
ほとんどあらすじの紹介みたいな感想になってしまいましたが、こういったゲームや異世界転移など、飽和しているなろう小説に飽きた、なんとなく嫌いだと言う人にこそ読んでほしいシリーズです。本物がここにありますよみなさん。
長くなりましたが、丸山くがね著「オーバーロード」でした。
言い忘れていましたが、主人公のモモンガは、死の支配者というガイコツの見た目をした化け物です。ユグドラシルでそんな種族を使ってプレイしてしまっていたため、ちょっとした悲劇が起きたりもするのですが……それは読んでのお楽しみということで。