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王様の耳はロバの耳  作者: 桜樹ゆん汰。
6/8

梨木香歩著「西の魔女が死んだ」

 オールドファッション、という言葉をご存知でしょうか。カクテルだったり、真ん中に穴が空いてる菓子のことじゃありませんよ。


 もう古くなった流行であったり、風習のことを指します。また、転じて古き良き時代のことを言い表すときにも使われる言葉です。


 田舎にある祖母の家を訪ねて、縁側から風が吹き抜ける居間で、畳の上に大の字になって寝転ぶ。テレビやクーラーなんかは無いけれど、代わりに扇風機がカラカラと言いながら回っていて、薄く汗ばんだ身体に自然の風か流れてくる。庭先からは青葉の匂いがしていて……


 あぁ、いいなぁ。と思いませんでしょうか? 田舎に実家がある方も、ウチは祖母のそのまた祖母から、生まれも育ちも江戸っ子の家系でぃ。っていうサラブレッドな都会っ子にまで、こういった昔ながらの、自然と寄り添って生活するという生き方に、憧れを持ってる心が少なからずあると思います。



 主人公のまいは、感受性が高く、すこし自閉気味などこにでもいる中学生です。4時間目の理科が終わる頃、まいの元へ一報が入ります。それは、まいにとって信じたくないもので、どうしようもないものでした。


 ──西の魔女が、死んだ。


 まいは、学校の前まで迎えに来た母の車に乗って、遠方に住む祖母の元へ急ぎます。車の中で揺られながら、まいは思い出すのでした。彼女にとって宝物のように大切な記憶、魔女と呼ばれた祖母の家で過ごした2年前の日々を。



 本作は、まいが祖母の家で暮らした日々を綴った作品になります。クラスで仲のいい子とグループを作ることだったり、行きたくもないのに一緒にトイレまで行かないと行けないことだったり、違うグループの子とはあまり仲良くしちゃいけなかったり、そういった現代社会の暗黙めいたルールに疲れ、嫌になったまいは、とある出来事をキッカケに学校への登校拒否をしてしまいます。そんなまいに対して両親は、田舎にある祖母の家でしばらく生活することを勧めるのです。祖母は遠い英国から移住してきた"魔女"で、オールドファッションな彼女との生活は、まいを人間として大きく成長させてくれるのです。


 この作品を読んでいると、まいと一緒に森の中を歩いているような感覚になります。雨露に濡れた若葉から草の香りが、ページ越しに漂ってくるような。また、魔女と一緒にジャムを作ったりだとか、ニワトリの卵を貰いに行ったり、日当たりのいい雑木林を散歩したり……そういった何気ない、だけど暖かいストーリーが溢れています。


 だけど、それだけじゃないのがこの作品の魅力です。


 ほんわかとした物語の中で、まいの多感な年頃だからこその苦悩が散りばめられています。ゲンジさんという、まいにとって天敵のような人物も現れます。いろんなことから影響され、ちょっとした事でイライラしたり、落ち込んだり、自分の感情に苦しめられるまいに対して、魔女は"魔女修行"を勧めます。その内容というのが……


 魔女がまいに与えてくれる言葉も、暖かく優しい言葉を投げかけてくれます。そして決してああしろ、こうしろと指示を与えることはしないのです。自分のことは、自分に決めさせる。それが魔女になるために一番大切なことなのだと。だけど、苦しむまいに投げかける言葉は、とても心に染みるような、真をつく言葉なのです。


 私が特に好きだった言葉があります。クラスで馴染めないことを苦しむまいに対して、群れに入って楽になるか、一匹狼で突っ張る強さを養うか、そう投げかけられた魔女は、こう答えます。


「その時々で決めたらどうですか。自分が楽に生きられる場所を求めたからといって、後ろめたく思う必要はありませんよ。サボテンは水の中に生える必要はないし、蓮の花は空中では咲かない。シロクマがハワイより北極で生きるほうを選んだからといってわ誰がシロクマを責めますか」


 それは本当に、魔女らしい、暖かい言葉です。そして、思わず納得させられる真理を含んでいます。実はこれに対するまいの答えがとても意外なものなのですが、、、



 草木の香りが漂う素敵な世界観のなかに、中学生らしい葛藤や悩みが降り合わさって、読んでとても心地よい作品になっています。後日談も少し書かれているのですが、これがまた優しい話でして。



 ニシノドクシャ カラ ヒガシノドクシャ ヘ

 梨木香歩著「西の魔女が死んだ」でした。

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