立川談春著「赤めだか」
落語です。落語家の話です。立川と聞いて、「あぁ落語家の……」となる人は、残念ながらあんまりいないんじゃないかと思います。偉そうに言ってますが私もそうです。せいぜい、歌丸さんだとか円楽さんだとか、テレビで何人かみるなー。くらいじゃないですかね。私がそうだからきめつけてるんですが。
ですが今回、自分は中身を読む前から落語界の異端児、立川談志を扱ったノンフィクションだということを実は知ってました。知ってて買いました。
というのも、半年ほど前にこの作品、スペシャルドラマとして放送されています。主演の立川談春役を嵐の二宮くんが、立川談志役をビートたけしが演じたことでちょっぴり話題にもなりました。当時それをなんとなく観て、たまたまテレビをつけたらあってたものを観ただけなのに、未だに心のどこか残ってたほどには面白かったドラマでしたよ。
さて、この赤めだか。先程も語ったとおり、立川談志という超大物落語家でもあり、問題児でもあった彼の元へ弟子入りをした、立川談春(以降、談春)が主人公となるお話です。まだ20歳にも満たなかった彼の目線から、立川談志(以降、談志)というとんでもない変人でもあり、型破りな人物について、当時の心境も交えつつ、掘り下げられていきます。
手違いで庭の花を枯らしてしまった弟子に、「ツツジさんが許してくれるまで頭下げてろ」と言ってみたり、かと思えば大切に飼っているめだかをお麩の海で溺れさせてしまった弟子を笑ってみたり、塀の上を我が物顔で歩いてるのが気に食わないと、空気銃で弟子に猫を撃たせてみたり……
そういった面白エピソードも交えつつ、談志という人物と若き日のもがく談春の様子を描いています。さすが噺家が書いた小説とも言いましょうか、1秒たりとも飽きません。気づけば次のページに指が挟まれてます。
私の談志さんに対して抱く印象は、「ビートたけしと爆笑問題の太田を足して、2でかけたような人」ですね。毒々しいながらもそれを皆に受け入れさせる、センスの光る鬼才です。かつて交友があった歌手のさだまさしさんは、「彼は私たちの世界で例えるなら、作詞作曲が出来て楽器を弾けて歌も歌える。そしてその全てが超一流なのです。全てができる人なのです」と語ったそうな。
作中では、そんな彼のちょっとした日常生活の中で、ふとした拍子に談志の人生観とも言える部分から、言葉がぽろりとこぼれることもあります。
「お前に嫉妬とは何かを教えてやる。」
突然談志が、そう云った。
「己が努力、行動を起こさずに対象となる人間の弱味を口であげつらって、自分のレベルまで下げる行為。これを嫉妬と云うんです。一緒になって同意してくれる仲間がいれば更に自分は安定する。本来なら相手に並び、抜くための行動、生活を送ればそれで解決するんだ。しかし人間はそれが出来ない。嫉妬している方が楽だからな……中略) よく覚えておけ。現実は正解なんだ。時代が悪いの、世の中がおかしいと云ったところで仕方ない。現実は事実だ。そして現状を理解、分析してみろ。そこにはきっと、何故そうなったかという原因があるんだ。現状を認識して把握したら処理すりゃいいんだ。その行動を起こせない奴を俺の基準で馬鹿と云う」
談春は、師匠からもらったこの言葉をしっかりと受け取ったようで、どこに行けばと迷走していた暗闇から抜けて、まっすぐと走り始めます。歩くんじゃありません。走り始めます全力疾走です。
談志の周りには、面白い人が集まっていたように思います。談志が誰よりも変人ですから、そういった「変人」を彼は好んで集めていたのかも知れません。読み終わってから談志について少し調べてみました。すると、ビートたけしが弟子入りをしていた時期があるという経歴を発見。なるほど、本から伝わる人物像からビートたけしさんを思い浮かべてしまうのは、ビートたけしさんが談志さんから影響をうけていたからという部分が大きそうです。事実、赤めだかの映像化が決まった際、笑福亭鶴瓶が「談志役はたけししかおらへん!」と声を上げていたというWebニュースも見つけました。はまり役でした、たけしさん。
脱線しましたね。
とにかく、読み終わっていそいそとネットでストーカーを始めるくらいには、立川談志はとても魅力的な方でした。少なくとも作中ではそうです。亡き師匠を今一度みなさまに思い出して欲しかったのか、それとも怒られる心配がいなくなったから積年の愚痴をこぼせると思ったのか、立川談志の直弟子である落語家、立川談春が読みやすくまとめてくれたのがこの1冊です。良かったら手にとって見てください。とても楽しい1冊になっております。
それでは最後に、偉大なる落語家、立川談志の御冥福をお祈りして。
立川談春著「赤めだか」でした。
おあとが宜しいようで。