膝枕と耳かきとお昼寝
よう、帰ってきたぜ。
ごめんなさい嘘です。
「悠斗」
「ん? どうした?」
ソファに座りのんびりとテレビを見ていると、楓に呼ばれる。
「ちょっと待っててね」
はにかんだ笑顔を見せながら、箪笥から何かを持ってきた。
手を後ろにしてるから、何を持ってきたのかは分からないが。
「悠斗、ここ」
彼女はそう言って、膝の上を優しく叩いた。
「いや『ここ』って言われても……どうしろと」
「頭を乗せるの! ん!」
ああ、膝枕をするから頭を乗せろと言いたいのね。
最初からそう言ってほしいものだ。
「……んで、これでいいの?」
「うんっ。あ、前向いてて」
てっきり膝枕をしながらキスをするかと思ったが、どうやら違ったらしい。
言われた通り前を向くと、
「ひぃ!?」
突然、耳に何かが当たった。
「あ、驚いちゃった? 耳かきしてあげようかと思ったんだけど」
「あ、なんだ……耳かきか」
キスじゃなかったことに残念を感じるが、まあしてくれるならお言葉に甘えよう。
「えっと……入れるね?」
楓のセリフのあとに、耳に何かが入ってきた。
少しだけ硬いが、すごく優しいやり方だ。
「痛くない?」
「……ん。大丈夫だよ」
逆に気持ちいい。
なんと言うか、彼女に耳かきをしてもらうと、すごく満足感が得られる。
下には膝があり、上には彼女の上半身がいる。
楓の膝枕自体がすごく安心するので、幸せである。
「少し汚いね。ちゃんと掃除してるの?」
「仕事をする上だと、耳なんて相手の声が聞こえればいいからなぁ……最近はしてなかった」
「も〜……まあ、今日は私がしてあげるから、綺麗にしてあげるね」
「あぁ、頼むわ」
気持ちのいい快楽と、安心感が俺を襲い、仕事の疲れを癒やすかのように眠気がやって来た。
「ふぁぁ……」
「ふふっ。眠くなってきちゃった?」
「いやーぁ、眠くないよ……」
「いいよ、寝ても」
そこで、耳かきが無くなったと思ったら、今度は優しく頭を撫でられた。
「ねーんねーん、ころりーよー。おころりーよー」
彼女の歌声が、俺の心をどんどんと満たしていく。
優しい声音が、疲れた心を癒やしてくれる。
眠気がどんどん大きくなり、楓の歌う子守唄が終わると同時に、意識が離れていく。
「お仕事、いつもお疲れ様、悠斗」
薄れていく意識の中、そんな言葉と一緒に、ほっぺに優しい感触がした。
余談だが、このあと起きたら、片方しか耳掃除をしてないので、もう片方も強制的にすることとなった──
なかなか良い話になったな、と、自分でそう思えます。