キスマークに込めた想い
久しぶりにこちらを更新します!
会社の同僚や部下、上司たちとはすごく親しい関係を築けてると思う。
分け隔て無く接し、部下の悩みを聞いたりする日々。
すべてが順調だった。
マイナス要素はなく、プラス要素で埋め尽くされた、そんなことを感じていた。
だが、闇は誰にも気付かれず、すぐそこまで迫っていた。
☆☆☆☆
「ただいま楓~」
愛する人がいる、自分が一番リラックスのできる我が家。
しかし、いつもと違う雰囲気を感じる。
異変に気付いたのは、直ぐだ。
家の電気が点いてない。
「楓……? 楓!」
靴を乱雑に脱ぎ捨て、中に入る。
するとそこには、
女の子座りで微動だにせず、ただそこにいる楓がいた。
服は乱れ、ブラが少しだけ覗かせている。
「どうしたんだ!? 大丈夫なのか!?」
口から漏れるのは、彼女の容態を心配する声だけだ。
眼は虚ろで、視点が定まっていない。
「き、救急車……ッ!!」
ポケットから携帯を取り出し、番号を入れようとしたところで、楓が俺の手を握ってきた。
「悠斗……」
かすれた声で、何かに怯えているんだろう。
声が弱々しい。
「楓! どうしたんだ楓!」
「もう……無理だよ」
「え?」
涙を流しながら、俺の顔をのぞき込む。
その表情は、すごく辛そうだった。
「私……つらいよ」
「ど、どうしたんだよ……なにがあったか話してみてくれ」
「私は悪い子なの……こうやって悠斗に迷惑を掛け──」
何か言い終わる前に、俺は彼女を強く抱き締めた。
ただ安心させるように。
彼女の全てを受け止められるように。
「あっ……」
「教えてくれないか? 楓」
「……あのね」
落ち着いたのか、楓は昨日までの調子とまではいかないが、先ほどまでよりかは落ち着いた声で教えてくれた。
「昨日、悠斗が私以外の女の人と楽しそうに会話してて、嫉妬したんだ。もちろん信じてるよ? 悠斗は私にしか興味がないことに。けど、それでも不安に思っちゃうんだ……」
そう言って、楓は俺のことを力強く抱き締めてきた。
俺は彼女の頭を撫でながら、
「ごめんな? そこまで不安に思わせて」
「ううん……あの女って、会社の人だよね?」
「ああ、そうだよ」
会社の人たちとの交流会が終わったらまっすぐ帰ってきたし。
ていうか俺が好きなのは──愛してるのは、今、胸の中にいる楓一人だけだ。
「ねえ悠斗」
「ん?」
「キス、して?」
俺から少しだけ離れながら、顔を真っ赤にし、涙目にながら懇願してきた。
そんな愛おしく、可愛い彼女の反応に、
「それで、お前が安心するなら、何度でも、何時間でも、ずっとするよ」
そして、俺と楓の影は一つになった。
☆☆☆☆
「おはようー」
「おはよう!」
朝、いつものように会社に出勤する。
昨日と変わらない風景が広がっていた。
「……ん? 先輩」
「なんだ?」
部下の一人(♀)に話しかけられ、そちらの方を振り向くと、
「少しじっとしててください」
「え? お、おう……」
なんだか分からないが、素直に従う。
彼女は俺の襟を引っ張り、首を見てきた。
「やっぱり……」
「え? 何がだ?」
「先輩の首に、キスマークがありますよ」
「えぇ!?」
昨日の夜は楓が寝るまで起きてた。
いつも楓の方が朝起きるし、俺が寝ている時にでもつけられたんだろう。
「なんともラブラブですね」
「羨ましいだろう? 可愛い彼女がいて」
「いや私、ホモじゃないんで。彼女ではなく彼氏がほしいです」
「そういう意味じゃねえよ」
突っ込みを入れて、自分の席に座る。
「ふぅ~……」
しかし、キスマークか。
確か意味は『独占欲』だったか。
楓は離れていても可愛いなぁ。
一応、携帯で意味を調べておく。
「……ははっ」
思わず、笑みがこぼれた。
携帯の画面の中には
『離れていても思い出してほしい』
という言葉があった。
「なるほど、思惑通りだな」
まあこんなのが無くても思い出すんだけどね。
その日は一日、同僚や上司から笑顔が気持ち悪いと言われ続けたのは、別のお話。
イイ話っぽくて、自分自身がおどろいているのは内緒