誘拐メールと待ち合わせ
仕事終わりの一日で、彼女から一通のメールが届いた。
『件名 楓さんはさらわれました。返してほしくばお財布を持って家の近くの遊園地に来なさい
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本文 助けて』
……なんだこのメール。
メアドが楓からなんだが……。
あと件名が本文だと思う。
いろいろと突っ込みどころはあるが、なんか遊園地に来いということなので向かうことに。
「先輩方、お先に失礼します」
『おーう。気を付けて帰れよー』
なんともまあ気さくな方々だ。
俺は会社から出て、車に乗り鍵を入れエンジンを掛ける。
「えぇっと、行き先は、と……」
カーナビを使い、遊園地の住所を登録。
ナビが開始されたので、車を走らせた。
☆☆☆☆
「着いた着いた」
駐車場に車を起き、出入り口の所までやってきたが、ここからどうすればいいんだろうか。
一度携帯を開き、メールが来てないかを確認。
「何もきてねえし」
どないしろと言うねん。
仕方ないのでメールを打つことに。
本文を打っている途中で、メールが届いた。
『件名 私楓さん。今アナタの後ろにいるの
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本文 お財布は持ってきましたか?』
……頭が痛くなってきた。
あいつは何がしたいんだろうか。
どう返そうかと思っていると、
「だーれだっ」
視界を遮られると同時に、甘い香りが│鼻孔をくすぐる。
明るい声音で、誘拐されたとは思えないほど元気そうだ。
「誰だろうな~……俺の女である楓かな?」
「せいかーい。見事当てた悠斗には景品を授けます」
景品?
そう不思議に思っていると、
頬に、柔らかいものが当たった。
「え……?」
一瞬、何が起こったか分からなかった。
少しの間、思考が停止する。
「ふふっ。驚いた?」
楓は俺の前に移動しており、イタズラが成功した子供のような笑顔を見せた。
少しだけ見とれるが、直ぐに頭を切り替え、
「まさか、こんな公衆の面前でやるとは思わなかったよ」
「ビックリさせるのが目的だったから」
はめられた、と思い、俺は携帯を開きメールを見せる。
「これも 、ドッキリの一種か」
「うん。悠斗ってば、休日は外に出ないんだもん」
「そりゃまあ、仕事で疲れてるし」
「だから、仕事終わりを見計らって、こうやって外に出させたの」
いっぱい喰わされたものだ。
俺は諦め、単刀直入に聞く。
「遊園地入るか?」
「うんっ」
俺たちは何も言わずに、ただ自然に手を繋ぐ。
仲のいい繋ぎではなく、恋人同士がやる恋人繋ぎだ。
楓の言うことは、確かに言えてる。
彼女だって、たまには出かけたいと思うだろう。
(もう少し、恋人サービスしないとな……)
そう心に誓い、思考を切り替え二人だけのデートを、心から楽しむことにした。