第三話 キリカは秘密の同居人!?
平成28年11月26日、全面改稿を実施しました。
無事、キリカを同居させることに成功した僕は、キリカを彼女の私室に宛がわれた2階の物置部屋に案内した。
「この物置部屋を整理してキリカの私室にするぞ! 頑張って掃除をしような、キリカ」
「はい、慎一様」
それから、ふたりで数時間を掛けて室内の不要物を移動させたり、寝具を持ち込んだりしていくと、なんとか彼女の居室としての体裁を整えることが出来たのであった。
「キリカ、何とか女の子の住める部屋になったね」
「慎一様、ありがとうございます。今までは大部屋での雑魚寝でしたので、夢のようですわ」
「キリカのような美少女を雑魚寝させるとか、信じられないよ!」
「わたくしは……、落ち零れでしたから……。それに、今までは冷たいコンクリートの床でしたが、畳の柔らかさといったら……、とっても素敵です」
「ここは、物置部屋だったので、畳も古くて少し黴臭いけれどな」
「わたくしに取っては、天国ですわ」
キリカは、下級戦闘員の中でも落ち零れと看做されていたので、酷い扱いだったらしい。
「だいたい片付いたので休憩しよう。家に着いた途端に重労働させてごめんね」
一階のキッチンから飲み物とお菓子を持ってきた僕は、キリカに飲み物を手渡して声を掛けた。
「慎一様、下級戦闘員のわたくしには、大した作業ではありませんわ」
可愛く、オレンジジュースの入ったコップを持ったキリカが、小首を傾げて返事をしてくれた。
「……キリカは、お嬢様っぽい話し方をするけど、他の下級戦闘員も同じだったの?」
僕は、キリカが喋った時から疑問に思っていたことを尋ねてみた。
「わたくしの言葉遣いは、死霊超人を開発している研究者のおひとりが、戯れに教えて下さったものです」
すると、キリカは極秘情報を教えるように答えてくれた。
現在のキリカは、古着屋で購入した野暮ったい服を着ていたのだが、それでも何だかとっても眩しかった。
「ところで、キリカはどんな風に生きてきたの? 下級戦闘員の生活なんて想像出来ないからね」
「わたくしたち、悪の秘密結社『ネクロ』の構成員は、基本的に両親から生まれた普通の人間ではないのです。慎一様、わたくしの事が嫌いになったのではありませんか?」
「僕に取っては、キリカが物凄い美少女であるだけで十分に嬉しいのだけど……」
「あ、ありがとうございます、慎一様。わたくしたちは、――」
それからキリカは、自身の生い立ちなどを ― ポツリ、ポツリ ― と話してくれた。
悪の秘密結社の秘匿事項に抵触する内容も包含していたため、話し辛いようだった。
悪の秘密結社ではどこでも、下級戦闘員は大量消耗品であるため、その充当に苦労しているという。
ある組織ではネットで堂々と人材募集しているが、募集要項に『下級戦闘員組合あり』と記載したために、結社のご当主様は、下級戦闘員と定期的に『団体交渉』するはめに陥っているらしい。
キリカが所属していた『ネクロ』では、各地の病院に保管されていた精子や卵子を強奪し、人口子宮で受精から出産までを成長促進薬を用いることにより3ヶ月で済ませ、さらに得られた赤ちゃんを成長促進漕に容れることにより、約3年で見かけ14~16歳に成長させてから、下級戦闘員の実地訓練を半年程度施して実戦に投入していたという。
また成長促進漕には、一般常識を脳に焼き付ける機能もあったので、僕と会話する事が出来たのだという。
キリカの場合、設定年齢は15歳であり、誕生からの実年齢はもう数ヶ月で4歳になるのだと説明してくれた。
それから驚愕の事実だが、下級戦闘員には美少女や美少年が多かったというのだ。
理由として考えられるのは、組織が強奪した卵子や精子の提供者に美男美女が多かったのが原因らしい。
従って、下級戦闘員の中では、キリカの容姿は凡庸であり、階級は純粋な戦闘能力で決められたという。
そして、キリカは、下級戦闘員の中でも体格が華奢で体力が無かったので、無能呼ばわりされていたのだ。
「わたくしは、能力不足で処分される寸前の不良品でしたわ」
「そ、そんな事はないよ! 会話をしていると知的だし、可愛いし……、アイドルでもこれだけの美少女は滅多に見ないレベルなんだよ!!」
「わたくしの事をそんなに褒めて下さるのは、この言葉遣いを教えて下さった研究者の方についで2人目ですわ」
「そ、それはちょっと妬けるけれど、他の奴等の目が節穴なんだよ」
「ありがとうございます、慎一様。わたくし、元気が出て来ました」
ちなみに、下級戦闘員が「キィー」という奇声を発するのは、マスクを被ると通常の会話が、その様に変換されてしまうからだそうだ。
しかも興味深いことに、下級戦闘員同士では何となく意思疎通出来ているという。
「そ、それにしても……」
キリカと会話していると、僕の視線がキリカの胸元に吸い寄せられる。キリカの胸の膨らみは、高校2年生で青春真っ盛りの僕にとっては目の毒だった。
「慎一様、この胸が気になりますか? こんなに膨らんで見苦しいですわよね?」
「何を言っているんだ、キリカ? キリカの胸はとっても魅力的だ!」
キリカは、自身の乳房が嫌いなようだが、僕に取っては刺激が強すぎるだけである。
「慎一様、乳房など膨らんでも邪魔なだけですわ。ただの脂肪の塊です……」
「キリカ、それは違う! 女の子の乳房には男の夢が詰まっているんだ!!」
「男の夢ですか? 何にしても慎一様に気に入って頂けて、嬉しいですわ」
「キリカの胸はとても魅力的なんだから、自信を持って胸を張っていれば良い」
「こ、こうですか? 何だか慎一様に見詰められて恥かしいですわ」
「ご、御免、キリカ。それだけ、キリカの胸が魅力的なんだよ」
「あ、ありがとうございます、慎一様。秘密結社では――」
実は、キリカは、下級戦闘員のコスチュームが嫌いだった。
設定年齢に比して豊かな胸の双丘が、胸部を圧迫していたからだ。
同期の友達にも、やはり胸の大きな少女がいたのだが、胸の大きさが戦闘技能の上達を阻害していると教官殿に判断され、強制的に乳房の切除手術を受けさせられたという。
暫くして、退院した彼女に声を掛けると、平らになった胸部を見ながら「さっぱりした……」と、言っていたのだが、目許は泣き腫らした跡があって、痛々しかったという。
そして、彼女は10日前の戦闘で、既に散華しているのだという。
「わたくしの乳房も邪魔と判断されて、切除手術を受ける寸前までいきました」
「こんなに素晴らしい、女の子の宝物を切り取るなんて、悪の秘密結社らしい所業だな」
「わたくしの場合は、研究者の方が取り成して下さいましたの」
「僕としては、キリカに言葉与え、乳房を救ってくれた恩人ということかな。その研究者の人は……」
また、落ち零れのキリカ自身も、乳房の切除手術を受けさせられそうになったことがあるらしい。
その時には、懇意にしていた死霊超人の研究者が取り成してくれたのだという。
そして、乳房を固定するサラシを渡してくれたので、訓練終了まで事なきを得たのだと言う。
「……、それで、その研究者には、接吻をされたり胸を触られたりはしなかった?」
「わたくしは、消耗品の下級戦闘員ですから、生殖行為の対象には為らなかったのですが……、何だか慎一様に言われると、胸が時めきますわ」
「僕の事が気になるの!? キリカ?」
「はい、慎一様は、わたくしの命の恩人ですし……」
僕は無意識にキリカの胸を凝視していたらしく、彼女の頬が羞恥のためか真っ赤に染まっていった。
僕としては、こんなに良い乳房を取ってしまうなんて、なんて邪悪な組織なのだろうという感想だったのである。
そして、僕とキリカは、視線を逸らせて恥じらい合った。
「このお菓子、とっても美味しいですわ!!」
「そう、それは良かった」
場の雰囲気を変えるためか、キリカはお菓子をひとつ取って口に入れた途端、僕が若干引くくらいに喜んでくれた。
キリカに事情を尋ねると、下級戦闘員に与えられる食事は味気ない固形物と水のみだったのだという。
各種栄養やビタミン類を理想的に配合されていたらしいのだが、僕にはとても耐えられないものであり、食料というより餌といった方がしっくりくる内容だった。
こんな状態であったから、キリカは私物をまったく所持していなかったし、少ない人生経験も、下級戦闘員としての訓練に塗り潰されていたのだ。
「キリカ、これからはふたりでゆっくりと思い出を作っていこう」
僕は自身の望みでもあるように、キリカに声を掛けた。
「慎一様、うれしいです」
瞳に涙を溜めたキリカは、感極まって涙を流しながら喜んでくれた。
部屋が片付くのを待っていたかのようなタイミングで、母がやって来た。
「慎一、キリカちゃんは身一つで我が家に来たのよね?」
母は、何かを探るような顔をして確認してきた。
「そうだよ。僕が助けた時には、何も持っていなかったんだ」
僕は、母に同意した。
「キリカちゃんには服や下着に日用品が必要よね。これから買いに行くので準備して」
「あ、あの……わたくしは、今着ている服だけで十分なのですが……」
「キリカちゃんみたいな、娘が昔から欲しかったのよ。こんなに可愛いんだから、可愛い服を着る義務があるの。わたしは、我が家での法律よ!」
「あの……慎一様。わたくしはどうずれば宜しいのでしょうか?」
「キリカ、済まないけれど、母の言うことを聞いてあげて」
「はい、慎一様。慎一様がそう仰られるのならば、喜んで付いて行きますわ」
「キリカちゃんは、慎一と仲が良いのね。ちょっと焼けちゃうわね」
と、言うや否や、母は僕からキリカを強奪して買い物に出掛けてしまった。
母は、相当にキリカのことが気に入ったようだ。
それでも、キリカが実は、悪の秘密結社の下級戦闘員だとバレると警察に通報されてしまうという確信がある。
そうなってしまえば、キリカは『殺処分』されてしまう。
実は、母響子には幼い頃に、悪の秘密結社の人質にされたことがあり、その時に友達が射殺されたというトラウマにより、日頃から悪の秘密結社のことは蛇蝎の如く、毛嫌いしていたのだ。
母には、キリカの正体が露見しないようにしないといけない。




