第四十二話 ラプラスの助手 前編
夕日が沈み、空が夜に包まれる。アルケミナとクルスは、ラプラスの研究所の前に立つ。
アルケミナの隣に立っているクルスがアルケミナに尋ねる。
「ところで、なぜこの時間帯に研究所に潜入するのでしょうか」
「悪事が行われるのは夜」
「だからまだ悪事が行われていると決まったわけではないでしょう」
「証拠がないから潜入捜査を行う」
アルケミナは堂々と研究所の玄関まで歩く。その様子を見てクルスは驚いた。
「先生。堂々と玄関から侵入するのですか」
「回りくどいのは嫌い」
「だから玄関から侵入すれば、すぐに捕まるでしょう。ここは裏口から侵入しましょう」
アルケミナはクルスの話を聞かず、玄関からの潜入を試みる。クルスはため息を吐き、アルケミナの後を追った。
アルケミナが研究所の玄関の敷居を跨ぐ。その時、玄関から別の足音が聞こえた。その足跡が徐々に大きくなっていき、アフロヘアのラプラスの助手が姿を現す。
「誰かと思えば、お嬢ちゃんと子守りの少女ではありませんか。こんな時間に何の用でしょう」
ラプラスの助手がアルケミナに問う。アルケミナは要件を筒に隠さず伝える。
「ラプラスが絶対的能力者たちを集めている理由を教えて」
「愚問ですね。ラプラスさんは、EMETHシステムの被害者たちを救済するために行動しているのですよ」
「それはフェジアール機関の仕事。ラプラスたちの仕事ではない」
「私たちは雲隠れした五大錬金術師に変わって被害者を救済するために行動しています。それを否定するのなら許せません。ただの餓鬼には分からないでしょう」
「ただの餓鬼じゃなかったとしたら」
ラプラスの助手はアルケミナの態度に激怒し、赤色の槌を取り出す。
「面白い。ラプラスさんの研究の邪魔をするのなら、この場で倒します」
助手は槌を叩く。東に火星。北に金星。西に牡牛座。南に双子座。中央に三角形。その記号で構成された魔法陣の上から、槍が伸びる。ラプラスの助手は、その槍を手に持ち、松明に灯された炎を槍の先端に近づける。それにより、槍の先端に炎が灯る。
助手は槍の柄を長く持ち、アルケミナの体を突こうとする。アルケミナは、助手の攻撃よりも早く、槌を叩く。中央に地の紋章。東に太陽。北に火星。西に牡牛座。南に双子座。その記号で構成された魔法陣によって召喚されたのは、黄金の盾。
その盾を手にしたアルケミナは、助手の攻撃を防ぐ。だが、黄金の縦の正面が、黒く焦げていく。
「面白いですね。ラプラスさんの説明会に来ていたということは、あなたも絶対的能力者なのでしょう。それなのにあなたは絶対的能力を使わない。研究者として興味があります。なぜあなたは絶対的能力を使わないのか。能力を使っていれば、瞬殺だったのにね」
助手が興奮したように笑うと、アルケミナは小さく首を横に振り、攻撃から身を守る。
「私が能力を使わないのは、自分の能力が錬金術という理念を根底から破壊する物だから」
その答えを聞いたラプラスの助手は、大声で笑う。
「やっぱり面白い。絶対的能力は、錬金術という理念を根底から否定する物でしょう。そういうものだと分かっているのに、なぜ実験に参加したのでしょう」
「あなたも絶対的能力と錬金術は共存できないと思っている。でもその考えは間違い。錬金術と絶対的能力が共存できる日が来る」
「それは幻想に過ぎませんよ。いずれ錬金術が滅び、絶対的能力がこの世界を牛耳る世界がやってくる。そのためにも絶対的能力に関する実験を進めなければなりません。それを認めないというのなら、本気で戦いますよ」




