第三十一話 アイザック探検団
アルケミナは酒場の店主に注文する。
「エクトプラズムの洞窟の地図。それと紅茶を二杯」
その注文に店主は驚きを隠せない。
「本当にエクトプラズムの洞窟へ行くのか。あそこは素人が行く場所ではない。あの洞窟で何人の人間が亡くなったと思う。一年間で二百人ほどだ。悪いことは言わない。行かない方がいいだろう」
「それでも行く」
店主は目の前にいる、我儘な五歳くらいの女の子に対して必死の説得を試みる。
「何も分かっていない。ニュースでやっていただろう。エクトプラズムの洞窟で、死後一週間程度経過した六人の遺体が発見されたって。一時間前、遺体の身元が、アイザック探検団の団員たちと判明したそうだ。知っているだろう。アイザック探検団。錬金術を駆使してアルケアに隠された秘宝を探している六人組。アイザック探検団の団員たちは、プロレベルの錬金術の使い手だった。そんな奴らが全滅するくらいのモンスターがエクトプラズムの洞窟に住み着いているということだ」
「アイザック探検団」
アルケミナは一言呟き、考え込む。
「お嬢ちゃんたち。少しは考えたか。エクトプラズムの洞窟は危険だ。命の保証はできない」
「お言葉ですが、アイザック探検団は何度もエクトプラズムの洞窟を探検していると聞きます。ここ数日の間に新種のモンスターがエクトプラズムの洞窟に住み着いたということですか」
クルスが店主に確認すると店主は首を縦に振る。
「多分そうだろう」
店主の言葉を聞き、クルスはアルケミナの顔を見る。アルケミナの瞳は逆境に立ち向かうかのように燃えている。
「面白い。そこまで言うのなら、エクトプラズムの洞窟を生きて通過する。だから地図を買わせて」
その瞬間、店主は客の説得を諦めた。
「何を言っても無駄か。地図を売る。ただし命の保証はしない。俺は何の責任も負わない。それでもいいな」
「構わない」
店主は二人の前に、紅茶が注がれたカップと茶色の槌を置く。
「紅茶二杯と道標の槌。エクトプラズムの洞窟の地図が記録してある奴な。合わせて四百ウロボロスだ」
何とか、エクトプラズムの洞窟の地図が記録された槌を購入できたアルケミナは、店主に四百ウロボロスを支払う。
二人は紅茶を飲み干し、酒場を後にする。
夜のリーシェを歩きながらクルスがアルケミナに聞く。
「先生。本当に大丈夫ですか。エクトプラズムの洞窟にはあのアイザック探検団を全滅させたモンスターが住み着いているんですよ」
「アイザック探検団を全滅させたモンスターは存在しない」
その答えにクルスは驚く。そしてアルケミナは言葉を続けた。
「アイザック探検団はEMETHシステムの被験者として選ばれていた。仮に彼らが全滅したのが、漆黒の夜想曲の前だとするならば、絶対的能力を使って太刀打ちできるかもしれない」
「全滅したのが漆黒の夜想曲直後だとしたらどうですか」
「それはあり得ない。絶対的能力は新種のモンスターでさえも圧倒する。そのモンスターがどんなに強くても、絶対的能力者が六人もいれば絶滅しない」
「つまり絶対的能力があれば、アイザック探検団を全滅させたモンスターも怖くないということですね」
「おそらく」
アルケミナは腑に落ちない表情を浮かべ野宿ができそうな場所を探す。




