第三話 アルケミナ・エリクシナの記者会見
そして、二人は記者会見の会場に移動した。
記者会見は、フェジアール機関ノーム支部の研究ビル四階に位置する大会議室で行われる。
記者会見の楽屋は同じフロアの待合室。四畳ほどの空間に木製の机、床に畳が敷き詰められた簡易的な物。その部屋でアルケミナは会見の原稿に目を通す。
「説明が分かりにくいですか。その原稿を書いたのは僕なのですが」
クルスが心配そうにアルケミナへ問うと、彼女は首を横に振った。
「大丈夫。このレベルは一般常識だから。ただ質疑応答の時間を考えると、もう少し短い方がいいと思う。この量だと間に合わない。
だから、会見では原稿に書かれた内容を一部省略する」
アルケミナの率直な意見に、クルスは賛同する。
「それがいいですね」
クルスが明るく受け答えすると、彼女は右指の中指を上に向ける。
「それと原稿が敬語なのが気になる。前にも言ったが自分を偽ることは非合理的なこと。よって敬語は止める」
記者会見の原稿を読み込むこと一時間。アルケミナは記者会見の会場に顔を出した。その間クルスは、楽屋のテレビで記者会見の様子を見守る。
記者会見の会場には、多くのマスコミ関係者が集まっている。マスコミ関係者はアルケミナの登場に合わせて、一斉にカメラを押す。
シャッター音が会見場に響き渡ると、アルケミナは会見場の椅子に座った。シャッター音が一分程で鳴りやみ、彼女は早速記者会見の原稿を読み上げる。
「私はアルケミナ・エリクシナ。五大錬金術師の一人。早速だが、一時間後に行われるEMETHプロジェクトについての会見を行う。このプロジェクトの目的は、伸び代がなくなっている錬金術に代わる、新たな技術や理論を発掘すること。このプロジェクトによって人類は、新たなる領域に進化することができる。すなわち、このプロジェクトによって人類は、絶対的な能力を手に入れることができる」
アルケミナは一呼吸置き、原稿のページをめくる。
「次に、プロジェクトに参加する対象者について。我々フェジアール機関は、全世界で十万人の対象者を選出した。その中には、五大錬金術師とその助手。さらに、アルケア政府関係者も含まれている。対象者の約九割。正確には九万九千九百人は一般人。つまり対象者の選出に出来レースは存在しない」
アルケミナは、白衣のポケットからお守りを取り出す。白色のお守り。縦十センチ。横四センチの小さなお守りの中には、小型のチップが埋め込まれている。
「十万人の対象者に、このお守りを送付した。対象者はこのお守りを携帯する。そして、一時間後に五大錬金術師が儀式を行い、十万人の対象者に対して、絶対的な能力を与える。全世界一斉に、対象者は絶対的な能力を得ることができる。我々が行う儀式はヒュペリオンの召喚。五大錬金術師はアルケア国に五カ所存在する導かれし座標に分かれ、ヒュペリオンを召喚する。ヒュペリオンが召喚できるのは、漆黒の幻想曲が発生する時間帯のみ」
アルケミナはさらに原稿のページをめくる。
「尚、儀式終了直後から、十万人の対象者の体のどこかに、EMETHという文字が刻まれる。これは絶対的な能力を与えられた証。その証は、手の甲や瞳など体のどこかに一カ所刻み込まれる」
原稿を閉じると、マイクを持ちマスコミ関係者に呼び掛けた。
「ここから、質疑応答を始める。質問があれば、挙手してほしい」
すると、一人の新聞記者が手を上げた。
「すみません。ヒュペリオンを召喚することは可能なのでしょうか」
新聞記者からの質問に、アルケミナは緊張することなく淡々と答える。
「大丈夫。ヒュペリオン召喚を行うためには、五人の天才錬金術師が必要。その資格が五大錬金術師にはある。ただし練習なしの一発勝負となるが」
次にテレビニュースのアナウンサーが手を上げた。
「ヒュペリオンを使って、どのように十万人の対象者に絶対的な能力を与えるのでしょうか」
「それは秘密。この方法を説明すれば、悪用される恐れがある」
十分に及ぶ記者会見が終了し、アルケミナは会見場を退室した。これからアルケミナはクルスと共に、導かれし座標に移動する。