第二十話 長い道のり
アルケミナとクルスがパラキルススドライを訪れたのは、その出来事の翌日だった。
話は二人が天使の塔を出発した一週間前に遡る。天使の塔に生息している浄化作用がある草花を手に入れた二人はEMETHシステムの解除方法の研究を進めた。だが、それはシステムの解除方法ですらなかった。
「空振りでしたね」
「研究の結果は最後まで予測不能。これは研究の基本」
「これからどうしますか」
クルスからの問いに、アルケミナは真顔で答える。
「天使の塔での収穫は草花だけではない。村民たちから興味深い事実を聞いた。突然変異の権威として知られる、ラプラス・ヘア博士がサラマンダーを拠点に研究を開始したらしい。彼と接触すれば、システム解除の手がかりを掴めるかもしれない」
「サラマンダーですか。あそこは結構暑いでしょう。それに結構遠い」
クルスの不満を聞かないアルケミナは槌を振り下ろし、アルケアの地図を召喚した。
地図を広げたアルケミナは、クルスにそれを見せながら説明する。
「ここからサラマンダーまでの道のりで最短なのは、パラキルススドライを経由して、エクトプラズムの洞窟を通り抜けるコース。このコースだと二週間くらいで目的地サラマンダーに到着できる」
「分かりました」
ということで、二人は突然変異の権威として知られる、ラプラス・ヘア博士と接触するため、サラマンダーに向かうこととなった。
それから一週間後、二人はアルケア八大都市の一つ、パラキルススドライに到着した。
ここまでの道のりは長かった。二人は足が棒になるまで歩いたが、パラキルススドライは目的地への通過点に過ぎない。
そのことを踏まえて、クルスはアルケミナに申し出る。
「先生。休みませんか。一日くらい休まないと、無事にサラマンダーへ到着できる保証がありません」
「分かった。私は街へ買い出しに行くから、クルスは休んで良い」
「買い出しですか。一緒に休めばいいと思うのですが」
「サラマンダーはかなり暑い。あそこは水不足で水の価格が高騰している。ここで水や食料を買った方が安い。一緒に休んでも時間の無駄。それにこの街でしか手に入らない物が売っている」
「分かりましたよ。僕も買い物に付き合います」
「私は一人で大丈夫。クルスはそこのベンチに座って休んでいいから」
アルケミナはベンチを指さすと、商店が立ち並ぶ方向へ歩いた。
クルスがベンチに腰掛けていると、子供たちが彼の前を通り過ぎていく。
「また出たんだよ。パラキルススドライの怪人」
「強いんだぜ。警察が手も足も出ないんだからな」
パラキルススドライの怪人。クルスが偶然耳にした存在。その存在がアルケミナたちを襲う脅威になろうとは。この時のクルスは知る術がなかった。




