第十八話 不可侵条約
村役場の前には、トーマス村長とアニーたちを含む多くの村民たちが集まっている。
村民たちは体を震わせながら、サーベルキメラに槌を見せる。
だが、ノワールは攻撃せず、村民たちに対して、テレパシーで真実を伝える。
『俺の名前はノワール・ロウ。この村で一番の錬金術師だった男だ。EMETHシステムの影響でサーベルキメラになった。信じなくてもいいが、この村の人々に危害を加えないことを約束する』
ノワールは、テレパシーで村民たち全員に対して真実を伝えた。
だが、村民たちは、その事実を信じようとしない。その中でアニー・ダウだけがサーベルキメラの話を信じた。
一方トーマス・ダウは、キメラの言葉を聞き、電話でキメラを駆除するために雇ったブライアンたちに連絡した。
「ブライアン。標的であるサーベルキメラと不可侵条約を結んだ。もうキメラを狩らなくてもいい。報酬を払うから、帰ってくれ」
トーマスが電話を切る。そして、村長は自身を村の英雄と名乗る、サーベルキメラに伝える。
「聞こえただろう。不可侵条約を結ぶ。俺としては、この村の平和が守れれば、それでいい。その信念はノワール君も同じだろう。村の平和を守るために雇ったハンターを解雇したから、この村を守ってくれ」
村民たちは村長の言葉に反論せず、拍手する。真実を信じることはできないが、村が平和であればそれでいい。この思いは村民たちも同じだ。
こうしてノワール・ロウはシャインビレッジの平和を守る英雄となった。村民たちが真実を信じる日は遠くないだろう。
不可侵条約が結ばれ、村が平和になってから一時間後、クルスとアルケミナの二人はシャインビレッジの森林を歩く。
「それで浄化作用がある草花はどうなったのですか」
クルスが森林を歩きながら本来の目的を思い出すと、アルケミナは言葉を返す。
「大丈夫。アニーから村に自生する草花を全種類もらったから。後はそれを研究したら何かが分かるかもしれない」
いつの間にそんなことをしたのか。クルスは分からない。
「いつそんな約束をしたのですか」
クルスが疑問を口にすると、アルケミナは簡潔に答えた。
「クルスが筋肉痛で動けなくなったとき」
「そうですか。それでこれからどうしますか」
クルスが今後の予定をアルケミナに尋ねる。すると、アルケミナは意外な言葉を口にする。
「塔を降りてから研究を進める」
その言葉にクルスは驚いた。
「この塔を降りるのですか。先生ならこの森林にテントを張って、研究を進めるのかと思っていました」
「塔を降りないと、次の目的地にたどり着けない。今から塔を降りれば、夕方には地上に降りることができる」
クルスがため息を吐く。クルスに待ち受けるのは、急な下り坂のような螺旋階段。一億段もある階段を下ることは、階段を昇るよりは楽だろう。過酷な下り階段の先にある地上に降りたのは、夕方のことだった。
すみませんが、しばらく連載を休止します。
続きが気になる方。ごめんなさい。連載再開までしばらくお待ちください。




