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ZONE  作者: 芝犬
2/5

戦う意味

体育館に着くと、俺の隣にいた真中(まなか) 蒼太(そうた)の顔は青ざめていた。俺は自分の顔がどうなっているかは確認出来ないが、おそらく、平静を装っているだろう。

俺は最初に見た景色とここの風景が似ていたから、どうってことはなかった。そう、相変わらず、人間ともゾンビとも思えるそれ(●●)が生徒を喰べている。

幸いと言って良いのか、俺たちの目当てのものは倉庫を階段で上がった所にあるので、それ(●●)には気付かれなかった。しかし、その間にも生徒は喰べられている。

階段を登り終え、数歩進むと、一つの掃除箱がある。その中に大量にある木刀が目的の品だ。俺は柄頭に21と書いてある木刀を手にした。それと脇差として小太刀を2本ベルトとズボンに挟んだ。

いざ、それ(●●)を討伐しに行こうとした時、奥のマットの陰に見覚えのある顔を見つけた。

「小鳥遊!」

「え?先輩?」

そこに隠れていたのは剣道部の後輩、小鳥遊(たかなし) (りん)だった。今にも泣き出しそうな潤んだ瞳をこちらに向けてきた。

俺は掃除箱から木刀と小太刀を一本ずつ取り出して無言で渡した。これから下にいるそれ(●●)を倒そうという意気込みの中に馴れ合いなんて要らない。

小鳥遊は俺の意とすることを察したのか、無言で受け取った。

「恭輔、一つ試したいことがある。協力してくれるか?」

「もちろんだ」

俺は一足先に下に降り、それ(●●)に向け、殺す。という殺意をむき出しにして一歩足を踏み出した。

―蒼太の提案はこうだった。目が陥没しているそれ(●●)がどうやって俺たちを判別するかということを知りたい。だから俺は殺気を、蒼太は壁を叩いて音を出し、小鳥遊は視線が定まらないそれ(●●)を動作だけで自分の存在をアピールすることにした。

早い話が、それ(●●)が気配か聴覚か視覚のどれによって獲物(●●)を識別するかを検証するのだ―

打ち合わせ通り俺は殺気を露に、それ(●●)に一歩ずつ近付いて行った。

蒼太は金属バッドで壁を叩いている。小鳥遊は少し怯えながら、それ(●●)に手を振っている。

すると、生徒を喰っていたそれ(●●)が一気に俺めがけて走って来た。さっき別のそれ(●●)に追い駆けられたので、スピードは予測出来ていた。

「カバー」

蒼太がそう叫びながら、壁を叩くのを止め、小鳥遊と共に後ろから走ってくるのが分かった。だが、俺に助けは要らない。

見たところ、それ(●●)は4体だけだ。爺ちゃんに教えてもらった護身剣法の最大仮想対数は7体だ。充分すぎるハンディだ。

俺は左手が顔の前になるよう刀を持って来て、目と木刀で一つの線を作るように迫ってくるそれ(●●)に向けて構えた。

それ(●●)が俺の間合いに入るのを見計らい、柄を握り締めていた右手を離し、左手一本でひねりを加えながらそれ(●●)の胸元に突き刺した。

すると、それ(●●)の胸をあっさり突き破り、奥の二体まで貫通した。しかし、仕留め損なった一体が見事に身体を翻し、俺に飛び掛って来た。

だが、俺は先に話していた右手で小太刀を掴んでいた。そして俺は大きく口を開けて迫ってくるそれ(●●)の口に小太刀をぶち込んだ。

腕を上に伸ばして仕留めたので息絶えたそれ(●●)の血が小太刀を伝い、俺の腕までたどり着く。

気持ちが悪くなってすぐに小太刀を引き抜き、付いた血を振り払った。ずっとそれ(●●)に刺さったままになってる木刀も抜いてやった。

「これで一つ分かったな。あのゾンビどもは人の気配に反応しやがる」

俺が木刀に付いた血を見ながら言うと、蒼太がピクっと反応した

「ちょっと待て、仮にも同じ学校の生徒だった奴をゾンビなんて言うなよ」

「じゃあ何て言ったら良いんだよ」

こんな非日常的なことの中で興奮してしまっている。つい声が荒くなってしまう。

「ゾーン」

小鳥遊が小さな声を発したのを聞き逃さなかった。たしかにゾーンと言った。

「ゾンビの、ゾンビのぞんは損、ビは人という意味があるそうです。だから、もはや人で損しかない彼らをZONEと呼びましょう」

そう言い放った小鳥遊はどこか吹っ切れていた。でも、目が、目だけが悲しみを隠しきれないでいた。

「そうだな。人を喰ったら人じゃないもんな。よし、あいつらはZONEだ」

蒼太が無理矢理明るい声を出して、パチンと手を鳴らした。

「これからどうする?」

「あの、友達を…」

蒼太の問いに小鳥遊は申し訳なさそうにポツンと言った。

「そうだよな、やっぱ心配だもんな」

俺は出来る限り優しく微笑み、座っていた小鳥遊の手を引いて起こしてやった。

そうだ、俺たちは大切なものを守るために戦わなくちゃ。

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