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学校の怪談

作者: セッキー

【学校の怪談】



≪登場人物≫

九条律くじょうりつ

中学1年生 1-4所属。

水泳部所属で得意な泳ぎはクロール。

基本バタフライや平泳ぎ、背泳ぎ等全て泳げる。

何事もしっかりと取り組みまじめな性格。


中原結なかはらゆい

中学一年生 1-4所属。

部活はサッカー部の女子マネージャー。

おとなしめだがクラスでも人気が高いほうで女子では仲が良い友達が多い。

髪は短く、ショートヘアで性格は明るく活発で元気なところが長所。


佐藤敬祐さとうけいすけ

中学三年生 3-3組所属。

部活は剣道部で夏の大会で引退予定。

周りには結構好かれてるようで学年では名前を知ってる人物は多い。


九条渚くじょうなぎさ

中学三年生 3-3組所属。

家がお金持ちで学業は上位レベル。

大人しめの性格で下には弟がいるが性格は正反対。

部活は茶道部で最近部長を二年生と交代した。


九条律くじょうりつ

中学1年生 1-4所属。

水泳部所属で得意な泳ぎはクロール。

基本バタフライや平泳ぎ、背泳ぎ等全て泳げる。

何事もしっかりと取り組みまじめな性格。


中原結なかはらゆい

中学一年生 1-4所属。

部活はサッカー部の女子マネージャー。

おとなしめだがクラスでも人気が高いほうで女子では仲が良い友達が多い。

髪は短く、ショートヘアで性格は明るく活発で元気なところが長所。


柊香奈子ひいらぎかなこ

新任の女性の先生で3-3の担任。

茶道部の顧問の先生もしていて今は茶道の本を借りて読むのが日課に。

おっちょこちょいなところがありよく校長先生のお世話になることが多い。

眼が悪いので普段はコンタクトをしている。


中村翔なかむらしょう

2-5の担任。

テニス部の顧問を兼任している。

背が高く見た目はスポーツ系。

明るい性格で生徒から好かれている。

またどことなく懐かしい感じがする先生。




1.【prologue】

 そよ風が吹く夏の終わり、蝉の鳴き声もだんだんと聞こえてこなくなり、日が落ちるのも早くなってきていた。

散歩の最中に見かける人の中には長袖を着る人もでてきて半袖では寒いくらいになり、コートを羽織る人も増えてきている。

ふと空を見上げるともう夕暮れで目の前には茜色の光景が映っていた。

もうこんな時期なのかと思いながら目をつぶると子供の頃の不可思議な経験が思いだされてくる。

その時もこんな風にそよ風に当てられていた気がする。

 中3の夏、まだ暑い7月の半ば頃で夕方になってもまだ暑いくらいだった。

夏休みだというのに受験勉強やら部活やらで色々忙しく思いながらも日々楽しく過ごせている。

そんな日々を思いながら自分は部活も終わり特に寄るところもなく帰路についていた。

ふと、何か忘れているような気がして鞄を見てみると午前中の講習で使ったノートを机の中に忘れているのに気がついた。

『やばっ、ここまできたのにまたもどるのかよ・・・』と独り言をいいながら走って学校まで戻った。

家から学校まではそんなに遠くは無いのでそれほど時間はかからなかったのだが、学校の近くまでくると校門の辺りに人影が見えた。

よく見るとそこには見覚えがある容姿の一人の少女が立っていた。



2.【enter】

 髪は黒髪で長く、日本人形のように愛らしい顔立ちである。

(ホラー系の呪いの人形ではなく・・・・)

すらっと伸びた手足は白く、才色兼備という言葉が相応しい。

 彼女の名前は九条渚。

一応幼なじみなのだが最近は全く話さなくなってしまった。

それというのも彼女の家は大企業を複数経営しているお金持ちの家であり、彼女自身も学業で上位クラスであるのだから自然と話さなくなるのは当然だと思う。

とてもじゃないが毎日馬鹿な事しかしてない俺とは比べるまでもない。

三年生になって初めて同じクラスになったのだが子供の頃から片思いしているだけあり、いまだ何も発展がない。

 さすがにこの時間帯で一人というのは気になるのでちょっと話し掛けてみよう。

「九条こんなところで何してるの?」と何気ない感じに話しかけてみる。

「あっ、佐藤くん」と少し驚いた様子で後ずさりされてしまった。

少し傷ついた・・・・・・

「こんな時間に何してんだ?」と話しかけると

「えっと・・・弟がまだ家に帰ってこなくて・・・」とすぐに心配そうな声で返事が返ってきた。

確か下に中1の弟がいて、同じくよく小さい頃遊んでいたが・・・・

「なるほど。ていうことはまだ校内に残ってるかもしれないから迎えに?」

「うん、いつもはこんな遅くならないから、ちょっと心配で・・・」

と少しうつむきながら、

「もしよかったらでいいんだけど弟を探すの手伝ってくれないかな。一人じゃちょっと心細くて・・・・」

正直こんな風に頼まれたら断れる男はまずいないだろう。

「わかった、ちょうど俺もノート忘れちまったからついでに探してやるよ」

すると小さな声で

「ありがとう・・・」少し照れた口調で返ってきた。

しかし、時間的に日が落ちてもう真っ暗である。

「じゃ、とりあえず先生に事情を話して中に入るか」と学校の方を見ると知ってる顔が二人こちらに歩いてきた。



 一人は男で名前は進藤龍。

小3の時に龍が引っ越してきてからの親友(悪友)だ。

もう一人の方は斉藤茜。

入学式からの知り合いで龍と同じで中学の1,2年ではクラスが同じだった。

 龍はこちらに来て九条の事をちらっと見ると

「敬祐これから九条とデートか?」と嫌味な笑顔を見せてくる。

「んなわけあるか」と目線を龍からそらしながら九条の方を見ると顔がうつむいた横顔が真っ赤である。

やばい、可愛すぎる・・・・・・

「そ、それよりお前らはどうしてこんな時間まで残ってたんだよ?」

「うちと龍でちょっと部活のことで頼まれてね。でそっちは一体なにしてんのよ?」

自分のノートはとりあえず後回しだろう。

「あぁ、ちょっと九条の弟がいないみたいでさ、もしかしたらまだ校内に残ってるんじゃないかなと」

「俺らが出てくるときには誰も見かけなかったけどな、もう誰もいないような感じだったし・・・」と少し考え込むように言う龍。

「そうか、とりあえずちょっと入って探してみるわ」と昇降口の方に行こうとすると

「ちょい待ち、俺も行ってやるよ。どうせ帰っても寝るだけだしな」と龍。

続いて茜も

「うちも行くよ。人数多い方が探しやすいしね☆」

すると小さいけど透き通るような声で「ありがとう進藤くん、斉藤さん」と九条の声が聞こえた。

九条と二人だけというシチュエーションが無くなってしまったと少し残念な気持ちがあったがとりあえず心の中にしまっておこう。

職員室だけまだ少し明かりが見えるからまだ誰かしら残っているのだろう。

 昇降口のドアはまだ開いていて、廊下はすでに電気が消されていた。

「とりあえず上履きがあるかどうか見た方がいいな」と提案し全員で下駄箱の方へ行く。

 誰もきずかなかったが静けさの中、後ろの方で

カチャリ。

これから起こる事の始まりを告げる音だった。



3.【after school】

 外を見るとすでに下校している生徒の数も少なくなっていた。

「一年生俺だけだから雑用全部くるんだよなぁ・・・」

とつぶやく声が静かな廊下に響いた。

外見は身長でいったらそれほど低くはなくクラスでは中間辺りだろう。

眼鏡をかけていて髪は短髪である。

 すでに廊下の電気は消えていて教室には誰もいない。

「さて、とりあえず部室の鍵返して帰るか」

と職員室の方へ行こうとすると後ろから

「九条!」と声がした。

「おっおう、中原か・・・」

さすがに真っ暗な場所で誰もいないと思っていたところだったからか少し驚いた。

「今から帰り?私もちょうど終わったところなんだけど一緒していいかな?」

「ああ、別にいいけど・・・」

と答えると嬉しそうに横についてきた。

知り合ったのは中学に入ってからだが委員会が同じ保健委員で気が合い話すようになったのがきっかけだ。

「こんな時間まで残って練習してたの?」

「いや、一年生が俺一人だけだから雑用全部まわってくるの」

とさっきのつぶやきを愚痴っぽく言った。

「なるほどね」と少し笑いながら、「だったら水泳部はいればよかったかな」と小声で言ったが律には聞こえなかった。



 彼女は今日一大決心をしていた。

今日は九条に告白しよう・・・・・と

「あのさ、後でいいんだけどちょっと時間あるかな?」

「ん?別に何もないから少しくらいなら」

ありがとう、というと少し顔をそらしてしまった。

さすがに緊張するなぁーなんて思っているとどうも調子がくるってしまう。

歩いてるときずかないうちにもう下駄箱まできてしまった。

「じゃ、ちょっと鍵職員室まで返しにいくから待ってて」

と言うとそのまま走って行ってしまった。

「あーあ、どうしようかなー」と少し決心が鈍ってきた。

最近になって好きになってたことを自覚したのだが今の関係を壊したくない一方で今の関係のままじゃダメだと思い、出した結果で告白することにしたけど・・・・

「さすがにまだお互い知らなすぎたかなぁ」とつぶやいていると

トンットンッと後ろから物音が聞こえた。

まだ誰か残っているのかなと思い「誰かいるの?」と言うと

トンットンッと返事をするかのように同じ音が聞こえた。

この時間にまだ残っている生徒がいるのは考えにくいなと思い、

「ちょっと九条、変な事してないで出てきなさいよ」と叫んでみたが返事が無い。

「私こういうの苦手なんだからふざけてないでよ!」と言っても全く反応が返ってこない。

「もう、知らないんだから」と言ってそのまま帰ろうとすると背中を人差し指でたたかれる感触がした。

「今頃出てきたって許さないんだからね!」と振り向くと手が見えた。

しかしその手は彼の手ではなく天上から伸びていた----------

とっさに悲鳴を上げようとするが

「きゃっ・・・・・・・・」

叫ぶまもなく手で口を押さえられてそのまま何本も出てきた手に天上に引き込まれていった。



 職員室には電気がついていたがほんの少し光がもれる程度だった。

職員室のドアをノックして

「失礼します。水泳部の部室の鍵を戻しにきました」と言って辺りを見回すと一人の若い女の先生が残っていた。

確か今年はいってきた先生で三年生のクラスの担任だった気がするがよくは知らない。

「お疲れ様、もう遅いから気をつけて帰ってね」

「はい、失礼しました」と言ってドアを閉め、下駄箱まで走った。

 下駄箱に着くと中原の姿が見当たらず、鞄だけが落ちていた。

最初はトイレかなと思い少し待ってみたが全く来る気配がない-------------

まだ靴は残ってるようだから外には出ていないはずだから校内に残ってるんだろうけど・・・・

「とりあえず、ちょっと探してくるか」と言い、鞄を持って廊下をまた職員室の方へ歩いていった。



4.【a search】

 一年生の下駄箱を見てみるとまだ一つ外履きがあるのがすぐにわかった。

よく見ると下の方にもう一つ外履きが残ってるみたいだが他にも帰ってない生徒がいるのだろうか・・・・?

先頭を龍と茜が歩く。

「とりあえず職員室行って先生に言ってくるか」

「そうだね」

職員室に着きドアをノックする。

「失礼します」と言ってはいると女性の先生が一人座っているのが見えた。

20代くらいでまだ若い。茶髪で長い髪を下ろしていて穏やかそうな感じがする。

3-3組の担任で今年来たばかりの新任の先生だ。

綺麗な人なのだが、たまにへまをするおっちょこちょいな人である。



 名前は柊香奈子、茶道部の顧問の先生もしているので九条姉の方とは少しはつながりがある。

「あら、九条さん佐藤くん、こんな時間にどうしたの?」

さすがにまだ赴任してから3ヶ月くらいしか経ってないから茜と龍の名前はわからなかったみたいだ。

「九条の弟がまだ校内に残ってるかもしれないんで探しにきたんですが」

「なら、少し前に水泳部の男の子が来て鍵返しにきたからもう帰っていると思うけど・・・・」

確か律は小学生から水泳をやっていた気がするが----------

「九条。今、律って水泳部入ってる?」

「うん。入学した後、時水泳部入ったって聞いたから・・・」

「でも、まだ外履き残ってたんでまだ校内に残ってると思うんですけど」と龍が言うと先生はうーん・・・と少し考えて

「じゃ念の為、放送室行って放送流してくるから少し待ってて」と言って鍵を持って放送室の方へ行ってしまった。

 「先生戻ってくるまで待つか」と言うと

「なんか、ちょっと暇だね」と茜が少し退屈そうに言う。

「ごめんね、なんか皆巻き込んじゃって・・・・」と申し訳なさそうに九条が下を向いてしまった。

「あ、そういう意味で言ったんじゃないよ」と大きく首を振る。

「だったらさ、しりとりでもしてない?まだ先生戻ってこないだろうし♪」

「定番すぎてつまらん」と龍と同時につっこみをいれてしまった。

クスっと九条が笑ったのでその場の雰囲気が少し明るくなった気がする。

こういう気ずかいは茜の良いところだと思う。

そこからはクラスでの話題や夏休みの事等で話に花が咲いた。

 薄暗い廊下を歩きながら生徒がいないと、こうも恐怖感が出るものなんだなぁと思う。

「まだここに来て少ししか経ってないからなぁ・・・・」と声が廊下に響く。

一応廊下の電気はつけながら放送室へ向かったが教室は暗いままだ。

なんとなく覗くと空虚な部屋からの月明かりが不気味に輝いて見える。

放送室に着き鍵を開けて中に入る。

放送の電源を入れマイクのスイッチを入れる。

ピンポンパンポーン『まだ校内に残ってる生徒がいたらすぐに下校しましょう。残っている生徒は念の為職員室に声をかけてから下校してください』

ひとまずこんな感じでいいだろうと思いマイクから手を離すと手がなぜかねっとりとしていた。

「何かしら?」と首をかしげ手を見ると赤い液体が手全体についていた。

そこからは鉄の錆びたような臭いがする・・・・・

すると「一緒に遊びましょ・・・・・」と小さい女の子の声が聞こえた。

マイクの方を見ると、突然血塗られた手が出てきて両腕をつかまれた。

「キャーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」と叫ぶとそのまま床に倒れて失神してしまった-------------



5.【trouble】

 『キャーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!』

スピーカーから柊先生の叫び声が学校中に響き渡った。

「おわっっ」

「きゃっ!」

さすがに叫び声が大きすぎたのかその場の全員が驚いて声を上げてしまった。

少し間があき、龍が口を開ける。

「今のって柊先生の声だよな・・・・・?」

「ああ、ちょっと今の感じだとやばいかもな」

「九条さん大丈夫?」と倒れてしまった九条に茜が手を差し伸べる。

「うん、ありがとう斉藤さん」

座っていた龍が立ち上がり、

「ちょっと心配だから俺放送室行ってみるわ」と片手を上げ放送室の方へ行こうとする。

「待って、一人じゃ危ないからうちも行くよ」と茜も行こうとする。

「おい、俺たちはどうすればいいんだ!」

「九条の弟来るかもしれないからとりあえずそこで待ってろ」

と手を振りながら走り去っていく。

「九条さんに手だすなよ~」と茜も龍につづく。

「ったく・・・」とため息をつき九条の方を見る。

さっきの悲鳴で少し怖くなったのかそわそわしている。

「大丈夫か・・・?」と聞くと

「う、うん大丈夫だよ」とあまり大丈夫そうではなかった。

しかし、さすがに二人きりでおいしい場面なのだろうが言葉が見つからず気まずい感じになってしまった。

まぁすぐ龍たちも帰ってくるだろうと思い、そのまま座って待つことにした----------



「龍、ちょっと待ってよ」と少し息を切らしながら茜が後ろからついてきた。

「すまん、すまん。でもちょい急がないと先生死んでるかもだぜ」

「縁起悪いこと言わないでよ」としかめっ面をしてそっぽを向いてしまった。

まぁ冗談はさておき急がないと本当にまずいかもしれない。

「あれ・・・・・」

立ち止まりあたりを見回す。

「ん、急にどうしたの?」とあとをついてきた茜が追いついてきた。

「なにかおかしい気がするんだが・・・」

「なんかって何よ。おかしいのは龍の頭のほうじゃないの」

「うるせーよ」

と笑いながら受け流してみたが冗談ではなくどことなく何かが違う気がする・・・

ただの気のせいだろうか-------------

「そういえば放送室ってこんなに遠かったっけ?」

と茜が少し汗ばんだのか手であおった。

その言葉でふと気がつく。

「そういえば今ここってどこだ・・・?」

「どこって放送室向かってるんだから一階の廊下じゃないの」と少し怒ってるような返事が返ってくる。

とりあえず近くの教室のプレートを見ると『音楽室』と書いてある。

「なぁ、音楽室って確か4階じゃなかったか?」

「何とぼけたこと言ってんのよ。三年間もいるんだから教室の場所くらいおぼえなさい」とやれやれといったように首を振る。

と言ったが指を指した方を見ると黙り込んでしまった。

「じゃ俺らいったいいつ上がってきたんだ」

やっと事態を呑み込んだようだ。

「えっ、でもうちら階段なんて使ってないじゃん」と少し慌てる。

さすがに何が起こってるのか自分でもよくわからなかった。

とっさに窓の外を見るとよく見る4階の廊下の景色がそこに映っていた。



6.【lock】

 また同じ場所に来てしまった。

そんな事を思いながら九条律は立ちすくんでいた。

もうすでに五回くらい保健室の前を通った気がする。

入学してからまだ三ヶ月ちょっとだが廊下を真っ直ぐ進んでいるはずなのに同じ場所を何度も行き来するのはさすがにおかしいと思ってきた。

「どうなってんだよこの学校は・・・・・」

もう中原が下駄箱に戻ってるかもしれないと思い、後ろを見たがすでに遅かった。

後ろを見ると果てしなく廊下が続いていた。

普通だったら遠くに昇降口のガラスが見えるはずなのだが廊下はずっと向こうまで続いているように見えた。

仕方無いので中原をまず見つけた方がいいだろうと思い、

「おーい、中原いたら返事しろー」と大声で叫んでみたが静かな廊下に響くだけだった。

「ったく、戻ろうにも戻れないしどうすればいいんだ・・・・」

と立ち止まるとすぐ近くの部屋から物音が聞こえた。

札を見ると『会議室』と書いてある。

まさかとは思うが一応誰かいるのか調べようとドアに手をかける。

すでに学校に何か起こっているのはわかっていたから用心するにこしたことはないだろうと思い注意を払う。

そっとドアを開け中を見る。

「おい、誰かいるのか」と言ってみたが室内は静かだ。

中に入ってみるが人影は全く見当たらなかった。

「なんだよ、気のせいか」と会議室から出ようとするが

ドアが開かない・・・・・・

「うわっ、どうしたんだよ」とドアを必死に開けようとしたがびくともしなかった。



8.【act】

 すでに日も落ちグラウンドは暗闇につつまれていた。

田舎だからか日が暮れるのは夏でも早く感じる。

しばらく座って待っていたが、中々龍たちは帰ってこなかった。

「遅いな」

「もしかして進藤くんと斉藤さんに何かあったのかな・・・?」

と九条が心配そうに言う。

「まぁ、あの二人なら大丈夫だとは思うけどな」

どちらも運動神経はいい方だし万が一何かあっても大丈夫だろう。

そうは思ったが、時計を見ると7時45分をさしていた。

すでに龍たちが放送室に行ってからもう20分近く経っている。

放送室はここからそんなに遠くはないし、走って5分くらいだ。

九条一人置いていくわけにもいかないな。

「九条、ちょっと放送室まで行ってみないか?」

「さすがに龍たち遅いし九条の弟も来ないからさ。もしかしたら九条の弟もさっきの悲鳴で放送室の方に行ったかもしれないし」

「そうだね、ちょっと行ってみようか」

そして暗い廊下の中放送室の方へと向かった。



 放送室は職員室から廊下を真っ直ぐ行き、突き当たりをまがり体育館の方へ行くとある。

少し緊張しながらも思い切って手を差し出して言う。

「手、つながないか・・・?」

「えっ」

「いや、ほら何かあるかもしれないしさ」

適当な言葉がみつからず少しぎこちない言い方になってしまったが大丈夫だろうか。

「う、うん・・・」

とそっと手を握ってくる。

その手はとても小さくて柔らかく不思議な感じがした。

小さい頃手をつなぐなんて当たり前だったのにこうして成長するとこうもかわってくるんだなぁと思う。

「やっぱり昔から佐藤くんはやさしいな・・・」

「ん、どうかした?」

「ううん、何でもない」

そして小走りで放送室へと向かう。

廊下は暗く非常口のランプや外からの少しの光が差している場所くらいしか見ることができなかった。

「暗いから気をつけろよ、九条」

と前を行き、階段のあたりまでくると突然何かにぶつかった。

「おわっ」

「痛って」

「なんだよ敬祐と九条かよ」

ぶつかったのは龍であとから茜も階段を下りてきた。

「敬祐と中原さんは大丈夫だったんだね」

「それはこっちの台詞だろ。お前らが遅いから様子見にきたってのに・・・」

「それよりちょっとまずいことになったかもしれん」

と龍が普段はしない真面目な顔で言う。

そこでさっき龍たちの身に起こったことを聞いた。

「いきなりそんな事信じろって言われてもなぁ」

正直あまり幽霊やお化け等の怪奇現象は信じていないし、実際に身の回りで起こったこともないので言われてもあまり実感がなかった。

けれど冗談ばかり言っている龍だがいつもよりはるかに真剣な感じがした。

「わかったよ。まぁ、用心するに越したことはないな。まずは先生のとこまで行くか」

「そうだね、ちょっと時間経ってるけど先生大丈夫かなぁ・・・・」

と九条が心配そうに言う。

「じゃ行ってみようか☆」

茜のかけ声で放送室へと向かう。



 遠くの方から名前を呼ばれている気がした。

「柊先生、柊先生!」

肩を叩かれ目を覚ます。

「良かったぁ。ドアが開いててのぞいてみたら先生が倒れていたのでびっくりしましたよ」

目をこすりながら目の前を見ると目の前に若い男性が立っていた。

「えと、あなたは・・・?」

「あ、失礼しました。2-5担任の中村翔です」

「すいません、まだ全員の先生の顔とか覚えてなくて」

「ははは、無理もないですよ、うちの学校人多いですから」

重い体を起こしながらよく見ると年は同じくらいだが背が高い。

髪は短くスポーツマン系の人のように見える。

ふと倒れる前のことを思い出し、手やマイクを見てみたが何もなく夢だったのではないかと思った。

「えっと、中村先生は今まで何を?」

「ああ、ちょっとテニスの顧問やってまして少し残って作業してたんですよ」

「それより柊先生こそどうしてこんなとこで倒れてたんです?」

「いえ、ちょっと色々ありまして・・・」

さすがに気絶していたとは言いにくかった。

「なるほど。まぁ、もう遅いですし帰りましょうか」

と中村先生に手をひかれ放送室を後にした。



 放送室に着くと、ちょうど柊先生が出てくるところだった。

「先生無事だったんだ」

と茜が駆け寄る。

「叫び声が聞こえたんで驚きましたよ」

龍がその後につづく。

「ごめんなさい、気のせいだと思うんだけどちょっとビックリしちゃってね」

そして柊先生の話を聞いたが一体この学校に何が起こっているのか・・・・

「で、そっちの先生は?」

茜が柊先生の横に立っている男性を見て言う。

「中村翔先生でテニス部の事でちょっと残ってたそうよ。」

「こんばんは。君たちも何かで居残りかい?」

「えっと、弟を探してるんですが見かけなかったでしょうか・・・?」

九条が事情を説明する。

中村先生が少し考えながら

「いや、見てないな。もう遅いし弟さんも帰ってるかもしれないから一度職員室まで行こうか」

そして職員室の方へ向かおうとすると

トンットンットンッ

と何かが跳ねる音が聞こえた。

音のした方を見ると体育館からボールが一個こっちに跳ねてくるのが見えた。

「まだ誰か残ってるのか?」

と中村先生が体育館を見てこようとするとすぐに

「まずい、逃げろ」

と大きな声がした。

すると突然、体育館から数え切れない程のボールのこちらに波のように流れこんできた。

「うわっ」

「やばい」

すぐに逃げようとしたが、スピードが早すぎてそのまま全員がその波に流されてしまった。



9.【split】

 「う・・・ん」

少し気を失っていたみたいだった。

「どこだ・・・?」

すでにボールの波は消えていて、廊下で仰向けの状態で寝ていた。

そういえば波に飲み込まれた時とっさに誰かの手をつかんだ気がしたが・・・

そして横を見ると

「って、おまえかよ!」

龍が同じく隣で倒れていた。

「おっおう、どうなった・・・?」

龍も気がついたのか体を起こす。

そしてつながれた手を見ると

「・・・すまん敬祐、俺はそっちの方の人間じゃないから」

「そうか、お前がお化けや幽霊とお友達になりたいなら協力してやろう。歯食いしばれ」

「ごめんなさい、冗談です!」

ま、それはさておき、あたりを見るとどうやら倒れているのは二人だけだった。

「他のやつら大丈夫かな」

「龍、あの後どうなったかわからないか?」

「いや、俺もあの時必死だったからわかんねぇな」

「そうか・・・」

同じく自分も必死だったため他のことまで気がまわらなかった。

「今、はぐれるのはまずいだろ。とりあえず最優先であいつら探すぞ」

「おう!」

そして立ち上がると遠くの方から小さな音がした。

いくつもの金属がこすれるような音でチャリチャリとこっちの方へと向かってきている。

「警備員とかか・・・?」

「いや、違う気がするな。それにこの学校で警備員なんていたか?」

そして暗がりから徐々に窓の明かりの方へと何かがくる。

鍵を複数持った人体模型がそこに立っていた。

「・・・・・」

「・・・・・」

「良かったな龍。さっそく友達になれるチャンスだぞ」

「あんな公然わいせつ罪で捕まりそうなほどいろんなものが見えてるやつとお友達になれと・・・?」

そして全速で逃げた--------------------



「あんなのまでいんのかよ」

「とにかく逃げるぞ!」

とりあえず逃げたのはいいが、人体模型も後から追ってくる。

「おい。敬祐、あいつ走るの速いぞ!!」

「よし、じゃあ龍、ひとまずあれをひきつけてくれ」

「わかった、それでその後どうするんだ?」

「逃げる」

「えっと敬祐くん、俺はどうなるんでしょうか・・・?」

「知らん、頑張ってなんとかしろ」

「なっ!?お前だけ逃げる気か!」

「わかったよ。冗談だって」

さて本当にどうしたものか。

人間じゃないからなのか一向に人体模型の走るスピードは全く下がらなかった。

少し遠くのところに緊急用の消火器を見つけた。

「よし、あれを使うぞ」

消火器を手に取って安全ピンを抜き、人体模型めがけて発射する。

「お、ナイス」

「おらぁっ!」

そして、もがいてる隙に消火器を投げる。

すると人体模型は後ろにふっとび、そのまま見えなくなった。



10.【friendly】

 「大丈夫?、九条さん」

「う、うん。ここは?」

「図書室みたいだね」

暗がりの中よく見ると本棚が見えた。

「えっと斉藤さん、他の人は・・・?」

「わかんない、はぐれちゃったみたいだね」

「そっか・・・」

波にのまれててきずいたらここに流されていた。

「それはまぁおいといて、その呼び方ちょっと嫌だなぁ」

「えっ?」

「ほら、うちって下の名前で茜って呼ばれてるからさ。そっちほうがしっくりくるし。うちも九条さんのこと渚ってよぶからさ」

「じゃあ茜ちゃん・・・でいいかな?」

「うん、渚」

今まで下の名前で呼ばれたことなんてほとんどなかったのでとても嬉しかった。

「他の人とか探しに行った方がいいのかな?」

「でも、こういう時ってあまり動かないほうがいいかも」

「じゃあ、ちょっと休んでいこうか」

少し休んでその後他の人たちを探すことにした。

図書室がシンと静まりかえる。

そして沈黙をやぶり茜が言った。

「そういえばさ、渚って敬祐のこと好きなの・・・?」

「ええっ!なな何で・・・?」

突然なことで動揺してしまった。

「いや、よく見ると渚ってずっと敬祐のこと見てたからさ」

と嫌みっぽい笑みを浮かべる。

「そ、そんなんじゃないよ」

と否定してみたが、もうばればれだった。

「で、いつぐらいから敬祐のこと好きだったの?」

「ううっ・・・」

もうさすがに逃げられなかった。

「えっとすごい小さい時からかな。最近は全く話さなくなちゃったけど子どものころとかよく遊んでたりしたから」

「ふーん、幼馴染なんだ。じゃあずいぶん長いんだね。それで告白とかは?」

「き緊張しちゃって。それにそんなに合う機会とかもなかったから・・・」

「そっか。けど勇気出して言わないとダメだよ?一生後悔するかもしれないし自分に素直にならなくちゃ」

「そうだね・・・そういえば茜ちゃんは?」

「えっ、私!?私は・・・そういう人いないかな」

「本当に?」

「うん、私こんな性格だからさ。友達とかは多いんだけどそういうのは感情っていうのがまだなくてね。だから初恋ですらまだだし・・・」

「そっか、それじゃあお互い色々大変だね・・・」

「そうだね、じゃあそろそろ行こうか」

「うん」

そして、はぐれてしまった皆を探すことにした。



「とりあえずどこに行こうか・・・?」

渚の方が何か良い案が浮かぶと思い質問する。

「うーん、一階に向かってみて誰か探してみたほうがいいかも」

「そうだね、じゃ行ってみようか」

そして図書室から出ようとした時いきなりすごい揺れを感じた。

「きゃっ!」

「いきなり何、地震!?」

揺れは一向に収まらずそのせいで本棚から多くの書籍が床に落ちる。

「えっ・・・?」

よく見ると落ちた本から何かが出てくる。

そこから実物が出てきていた。

見渡すと昆虫や海賊、魚、植物など様々でどんどんと増えていく。

早く逃げないとまずい・・・!

「渚早く!」

「う、うん」

渚の手を引き、すぐさま図書室を出て走った。



11.【meet】

 廊下を走っていると中央階段のあたりに何かが動くのが見えた。

「ちょい、止まれ」

「ん、急にどうした?」

「しっ、静かに」

と指を口にあて、前を指さす。

龍もそれを察して口を閉ざし小声になる。

「おい、どうする?」

「そうだな・・・もう少し様子を見てから動くか」

するとそこから人の話し声が聞こえた。

「おい、大丈夫か?」

「うん、平気平気」

龍に合図をおくり階段の方へ行く。

「おい、誰かいるのか?」

「うわっ、あ・・・先輩?」

よく見ると九条の弟と、その後ろをもう一人女子が階段を下りてくるところだった。

「やっと見つかったか、ずっと探してたんだぞ」

「すいません、色々あって・・・先輩方、今、学校が大変な事になってるのご存知ですか?」

「お前らも何かあったのか?」

ひとまず全員が廊下に座り話をする。

「廊下は無限ループするわ人体模型に追われるわでもう大変です」

「俺らもさっきボールの波でサーフィンしてきたとこで、そのあとその人体模型をやっつけてきたとこだぜ」

横から龍が楽しげに言う。

「まぁ、流されただけだしやっつけたのは俺だけどな」

全く緊張感の無いやつだなぁ・・・

「ふふっ」

後ろから小さく笑い声が聞こえた。

「そういえば後ろの女子は?」

「あ、失礼しました。1-4の中原です」

明るい返事が返ってくる。

「そうそう確かうちの部のマネだったよね」

「じゃ、もう一つ外履きが残ってたのは君かな」

「あ、はい多分そうかと・・・」

なるほど、これで下駄箱にもう一つ靴が残ってた理由がわかった。

「しかし見つかったはいいけど今度は九条姉、茜、先生二人がどっか行っちまったぞ?」

やれやれといった感じで龍が言う。

「あれ、うちの姉ちゃんもいるんですか?」

少し驚いたような口調で律が聞く。

「ああ、お前を探しにきたみたいだぞ」

「なんかすいません、お手数かけてしまって」

律が申し訳なさそうに頭を下げる。

「いいってどうせ暇だしな。それに以外にスリルあってこういうのもいいし」

龍が笑いながら言う。

「全くよくこんな状況で楽しそうにしてられるなぁ・・・」

まぁだけどこういう周りを明るくしてくれるような正確は龍の1番いいところかもしれない。

「よし、残りのやつら探してさっさと家帰ろうぜ」

龍の掛け声で立ち上がり、また暗い廊下の中を進んだ--------------



「先生、柊先生!」

また遠くから声が聞こえてくる。

なぜか昔に聞いたことがあるような気がした。

「う、ん・・・・」

「大丈夫ですか?」

「あ、中村先生・・・すいません、また気を失ってたみたいで・・・」

さっきのボールの波のせいか少し頭がくらくらする。

「私もついさっき気がついたばかりですよ」

「そうなんですか。そういえば他の子たちは・・・?」

周りを見ても中村先生以外は誰もいなかった。

「はぐれてしまったみたいですね。それと今ここは美術室みたいなのですが」

「あれ、確か美術室って四階ですよね?さっきまで一階にいたのにどうして・・・」

「ひとまず、それはあとです。何かさっきから嫌な感じがするんです。とりあえずここを出て子どもたちを捜しましょう」

「はい・・・」

そして、その瞬間美術室にかかっている全ての絵から幽霊のように動物や人間が飛び出してきた。

「キャーーー!!」

「柊先生、僕の後ろに下がってください!」

絵から出てきたものが頭上で高速回転しながら近づいてくる。

そして一気に囲まれ、そのまま絵の中に吸い込まれてしまった。



12.【vanish】

 暗闇の中かすかな光を頼りに廊下を進んでいく。

ふと気がつくと中原の様子が少しおかしいように見えた。

「おい、中原あんまり無理すんなよ」

足をくじいたのか引きずっているようだった。

「えっ、な、何のこと?」

やっぱり心配かけないようにしていたのか。

「わかったよ。辛くなったらすぐ言えよ」

「うん!」

何かあったのか前を歩いていた先輩が急に立ち止まる。

「ん・・・何か聞こえなかったか?」

「いや、俺は何も聞こえなかったが」

佐藤先輩があたりを見回して言う。

「僕も聞こえませんでしたが」

「私も・・・」

「ん、じゃあ気のせいか・・・」

とまた歩きだそうとした時、近くの給食室のドアがはじけるように飛んだ。

「くっそ、またかよ!」

煙が上がり目の前が見えなくなる。

「あまり、離れるなよ!」

段々と視界がよくなってくると、煙の中から探していた先生二人が出てくるのが見えた。

「痛たたた。中村先生、お怪我はないですか?」

「ええ、無事でよかったです。ん・・・」

どうやらこっちに気がついたみたいだった。

「おーい、大丈夫だったか?」

手を振りながら先生たちが近づいてきた。

「おっ、どうやら会えたみたいだな」

「はい、なんとか」

進藤先輩が疲れ切った様子で答える。

「そういえば九条と斉藤知りませんか?」

「いや、もうあの時は精一杯だったから、わからないな」

「そうですか・・・」

先輩と先生が話している間、壁に寄り掛かり座る。

「中原お前もちょっと休めよ」

と手招きすると隣にきて座る。

「少し疲れたよね」

と言って肩にもたれ掛かってきた。

「お、おい」

「ちゃんと支えててよ」うつむいて小声で言う。「あ、ああ」

緊張して何を話したらいいのかわからなく静かになる。

すると、いきなり嫌な予感がした。

そして下を見ると床が段々と黒くなっていく。

「あ、あのさ九条・・・」

中原の言葉をさえぎり叫ぶ。

「あぶねぇ!」

「えっ?」

ドンッと中原を突き飛ばす。

「な、何?」

「どうした!」

少し離れて話していた先輩たちがこっちの様子に気づく。

「離れてください!」

床の黒いところが廊下の端から端まで広がる。

そして黒い部分が底の見えない大きな落とし穴になった。



「九条っ・・・!!」

黒いところが九条との間に現れ、大きな落とし穴と変化していく。

「俺は大丈夫だから離れてろって、このくらいすぐ飛び移るよ」

「律っ!」

「早くこっちこい!」

しかし、動こうとしていたがどうやらさっきので足を近くの教室のドアに引っ掛けたみたいで動けないようだった。

「ちっ、やっちまったなぁ・・・・先輩先に行ってください」

「でも・・・」

九条のお姉さんが心配そうに見つめる。

「早く!すぐ広がりますよ!」

確かに黒いところは段々とこっちにも近寄ってきている。

しかし・・・・

「九条!!」

気がついたら助走をつけ跳んでいた。

「痛っっ・・・」

くじいた足が着地した衝撃で痛む。

「おい、お前なんでこっちきたんだよ!」

肩をつかみ九条が大声で言う。

「だって・・・放ってなんておけなかったんだもん!」

こらえていた涙が頬をつたう。

そして徐々に黒い部分が迫ってくる。

「俺はいいからもう一回向こうに跳べ。このままじゃお前も一緒に・・・」

その時、自分でももう何がなんだかわからなかったがとっさに抱きついてしまった。

「うわっ・・・!?」

「ヤダ、もう離れたくないよ・・・」

背中をギュとつかむ。

「嫌だって・・・これじゃあ道ずれに・・・」

「いいよ、九条と一緒なら」

九条の顔が段々と赤くなっていく。

「ねえ、九条ずっと言いたかったことなんだけど・・・」

「なんだよ。こんな時に」

ふいとそっぽを向いて聞いてくる。

「私は九・・・律くんが大好きです」

「えっ・・・?」

こっちに振り向いた顔は一体何が起こったのか理解できていない感じだった。

「私は律くんが大好きです」

そして、そのまま顔に手をあてキスをする。

その瞬間まばゆい光が二人を包みこんだ。

そして光ったかと思うとすぐに消えて、その場に二人の姿は無かった。



13.【return】

 暗闇の中、突然の閃光だったので目を開けることができなかった。

そしてすぐにその光は消えてしまった。

「あれっ・・・」

全員が光ったところに目線を向ける。

「あの二人どこに消えたんだ?」

と敬祐があたりを見回す。

だがすでに二人の姿はもうそこにはなかった。

「どっか行っちまったみたいだな」

やれやれといった感じだったが、またいなくなったというのになぜか今回はどこか違うような気がした。

「龍、他の皆は平気か?」

まださっきの光のせいで目がちかちかするのか目をこすりながら敬祐が言う。

「ああ、こっちは平気みたいだぜ」

と後ろを振り返り確認する。

そして、さっきの光のせいで忘れていたが黒いところはさっきよりも急速に浸食していく。

「今はとりあえず早く逃げるんだ!」

中村先生の叫びで全員が状況を飲み込む。

「でも、先生・・・」

と九条姉が二人の安否を心配するように光ったところの暗闇に目を向ける。

「あの二人は絶対に大丈夫だから。さっ、早く」

そしてまた暗闇の中を駆け抜ける。



「で、今俺らはいったいどこに向かってるんだ?」

と走りながら隣にいる律に話しかける。

「職員室だ。外と連絡とれるかどうか調べよう」

部活を引退したからといってまだそこまでは体力は落ちていなかった。

律も中村先生も男子だから大丈夫だろう。

しかし、女性陣は息が切れ切れになっていて少し走るのがきつそうだった。

「律、職員室着いたら少し休憩しようぜ。あんまり動くと疲れるだけだし」

「そうだな。中村先生もそれでいいですか?」

「ああ、君たちに任せるよ」

そして何事もなく無事に職員室前に着いた。

だが職員室に着いたからといってもまだ油断できないか・・・

「じゃ俺が入って様子見てくるから少し待ってろ」

そう言ってドアに手をかける。

「龍、お前一人で平気か?」

後ろで座ってる敬祐が聞く。

「何、敬ちゃん心配してくれるのか」

「敬ちゃん言うな。じゃあ任せたわ」

「だったらうちが行くよ。まだ体力あるしだてにサッカー部の女子マネやってないからね」

そして茜と職員室に入る。

少しのぞきながら中に入りあたりを見回す。

「ここも特に何も無いみたいだな」

「そうだね。早く外と連絡とらないと」

そう言って振り返るとドアがいつの間にか閉まっていた。

「もうドア閉めるなんて律たち何してるんだか」

そう言ってドアを開けようとする茜をとめる。

「ちょっと待て、茜」

「ん、どうしたの龍・・・?」

よく見るとそこは職員室ではなく理科室になっていた。



「どうなってるの・・・」

突然の出来事で二人でその場で呆然とする。

もう理屈ではどうにもならないようなことばかりだ・・・

冷静になって理科室の室内を見ると、中は薄暗く窓から少しだけ月明かりが照らしている。

別段変わった様子は無く大丈夫そうな感じだ。

水槽では飼っているメダカがせわしなく泳いでいて、その隣の棚には理科室でおなじみのホルマリン漬けされた蛙やフナの瓶が置いてある。

「夜の理科室ってこんなに不気味なんだなぁ」

と独り言のようにつぶやく。

「何、龍もしかして怖いの?」

隣にいる茜がからかうような口調で言う。

「お前じゃないんだから。お前こそ怖かったらいつでも俺に抱きついてきていいんだぜ?」

と手を広げ、いつでもどうぞの構えをとる。

「変態に抱きついたほうがよけいに怖くなる」

サラっと酷いことを言われた気がする・・・

さらにあたりを見ると人体模型があった場所には何もなく、そのすぐ近くには授業でめったに使わないであろう骸骨の模型が立てかけられている。

「けどこういう時ってさ、あの骸骨が動いたりするんだよなー」

と冗談まじりに言ってみる。

すると、その瞬間パキッと何かが折れるような音がした。

「・・・・」

見ていた骸骨が支えている棒を取ってすぐにでもこっちに向かってこようとしていた。

思わず出口から反対の窓際の方へと移動してしまう。

「どうすんのよ龍!あんたが変なこというから骸骨が起きちゃったじゃない!」

「ええっ!?俺のせいかよ!というか模型は生きてないだろう!」

「そんなことはどうでもいいから早くなんとかしなさいよ!」

いきなり言われてもなぁ・・・

「もうっ、こうなったらやけくそだ!」

スライディングで骸骨の足に蹴りを入れ込む。

すると骸骨はよろめき近くの机にあたると頭部の骨だけが床に落ちた。

すかさず頭部の骨をインステップキックで腹あたりを狙って蹴る。

「おりゃあぁぁぁあ!!!」

見事骸骨の腹部に命中し、そのまま全体の骨が砕け散った。

「サッカー部元エースをなめるなよ!」

「龍、ナイスキック♪」

と後ろで茜が叫んだ時、急に理科室が揺れ始める。

「な、なんだ、地震か?」

「みたいだね」

さほど大きな揺れではなかったがそれでも疲れのせいか、机にしがみつかないと立つことができなかった。

棚にあるフラスコやらビーカーがぶつかり合いカチャカチャと音をたてる。

仕方ないのでそのまま揺れがおさまるのを待つことにした。



「中々おさまらないね・・・」

近くの椅子を支えに床に座りこんでいる茜が心配そうに言う。

もう震度3か4くらいの揺れが4~5分続いている。

「ああ、いつまで続くんだろうな・・・」

とつぶやいていると急にピタッと揺れがおさまる。

「おっ、もう大丈夫みたいだな」

長い時間の揺れのせいでくらくらする頭をおさえながら立ち上がる。

「そうだね。早く出たほうがいいかもね」

そして茜がさっき入ってきたドアに向かおうとすると・・・

突然後ろの方でパリンッと何かが割れるような音がした。

「な、何!?」

音がしたあたりに目をやるとホルマリン漬けの瓶が置いてある棚のところの瓶が一つ割れていた。

「多分さっきの地震のせいで落ちただけじゃないか?」

そう言って茜の方を見るとなぜかしっくりこないといったような顔をしていた。

「でもさ龍。普通落ちたら瓶全部が床に落ちてると思うんだけど・・・」

そう言って瓶がおちたところを指差す。

もう一度振り返ってよく見ると確かに瓶の破片や中のものは床だけでなく棚のあたりにも散乱していた。

これだとまるで瓶が破裂したように見えるが・・・

とその瞬間割れた瓶の隣の瓶が割れた。

そして連鎖して次々と他の瓶も割れていく。

「・・・!?」

割れた中から何かうごめいているものが見えた。

まるで息を吹き返したようにホルマリン漬けされてた生き物が棚から出てきた。

そしてこちらへとやってくる。

出口もその生き物たちに封鎖されてしまった・・・



「ど、どうしよう・・・」

「って言われても出口があれじゃな・・・」

ドアのあたりはすでに多くの生き物で封鎖されいてとても行ける状況じゃなかった。

というかこんなに理科室にいただろうか・・・

「窓からって逃げるの無理かな?」

ふと外を見て茜が言う

「たしかにここ2階だしいけるかもな」

と言って窓の鍵を開けようとしたが開かなかった。

「・・・開かないね」

他の案を考えようにも、どうも床にいる生き物たちはそう待ってはくれそうにないようだ。

まぁこういう時は仕方ないよな。

「茜、ちょっと離れてろ」

「何するの?」

近くにあった椅子を持ち構える。

「こうする!」

そのまま、おもいっきり窓に投げ付ける。

しかし、そのあとに聞こえたのはガラスが割れる音ではなく、椅子が床に落ちる音だけだった。

どうも椅子は窓にあたって跳ね返ってきたみたいだった。

「畜生。これでもダメなのかよ・・・」

「龍・・・」

無数の生き物たちはもうすぐ近くまできていた。

「あのさ、もし全部終わったら一つお願いがあるんだけど・・・」

真剣な眼差しで茜を見つめる。

「急に何?」

少し間をおいて言葉をつなげる。

「キスして欲しい」

「・・・」

なぜだろう腹に鈍い痛みを感じるのだが・・・

「いきなり何言うかと思えば・・・」

と呆れたといった様子だったがほのかに頬が赤く見えた気がした。

「あと一つだけ聞いてくれ」

「何よ」

少し怒り気味だったがこれだけはどうしても言っておきたかった。

「お前だけは絶対守るよ」

「えっ・・・?」

と少しの沈黙の後、

「いつも冗談ばかり言ってるくせに・・・」

普段言わないようなことを言ったからだろうか、あまり期待されてないように思えた。

「信用ねぇなー」

と苦笑いで返すが、

「でも本当に冗談なんかじゃねぇよ」

と前に出る。

「龍?」

「俺が止めるからお前は走って逃げろ」

「で、でも・・・龍は・・・」

「ははっ、大丈夫だって。俺がしぶといの知ってるだろ?心配ないって」

「いやだ・・・」

「えっ?」

予想しなかった返事に少し戸惑う。

「龍だけ置いて行けるわけないじゃん」

どうしてもその場を動こうとしない茜。

「いや、でも・・・」

「龍だってうちの頑固さ知ってるでしょ?」

と茜がいきなり抱き着いてきた。

「えっ!?」

「龍はうちが守る。で、龍もうちを絶対守って」

その瞬間また光のようなものが現れ二人を覆い、そのまま消えてしまった。



龍と茜が職員室に入った瞬間二人が暗闇の中に消えていくように見えた。

「あ、あれ・・・?」

小さく開け放されたドアから見える職員室には二人の人影はもうどこにもなかった。

「あいつらどこにいったんだ?」

と中を覗きこんでみる。

すると、いきなり後ろから

「佐藤くん危ない!」

と九条が叫ぶのが聞こえた。

廊下側に振り向くと血相を変えている九条の顔が見えた。

その時、何かが足をつかむ感触がした。

「なっ何・・・!?」

床から無数の手が出てきて引きずりこもうとしている。

「やばっ」

しかし、すでに肘あたりまで床に埋もれていた。

「抜けねぇっ・・・」

必死にもがいてみたがどうにもならなかった。

そうしている間にもどんどんと体が床に吸い込まれていく。

その中また何か手に触れる感触がした。

見ると九条が必死になって引きずりだそうとしていた。

「九条っ・・・」

「佐藤くん・・・」

しかし抵抗もむなしく二人の体は床に吸い込まれてしまった。



「ん、ん・・・」

少しの間気を失ってたみたいだった。

目の前にはうっすらと白いカーテンが見える。

どうやらここは保健室のようだ。

うつぶせになった体を起こそうと思ったが、体中が金縛りにあっているようでほとんど動けなくなっている。

「ん・・・?」

ふと、下に何かクッションのような柔らかいものがあるのに気がつき下を見ると、

「・・・やべぇ」

目の前に見えるのは九条の顔だった。

保健室のベットの上で九条に覆いかぶさっているようで、はたから見れば襲っているようだった。

しかも身体が密着しすぎてて鼓動が早くなるのを感じた。

「これはさすがに・・・まずいよな・・・」

まだ九条は気がついていないようでそれがせめてもの救いだった。

もうちょっとこうしていたいが自制心が吹っ飛びそうだ。

「動け・・・!」

無理にでも動かそうとすると少しずつだが体が動くようになってきた。

少し時間はかかったがやっと起き上がれたころ、やっと九条も目が覚めたみたいだった。

「あれ、ここは・・・?」

「多分保健室だと思うんだが」

「それだとまたはぐれちゃったね・・・」

その時背後ていきなり

「こら!そこ、起きたんだったらイチャイチャしてない」

とカーテンの外からそんな女性の声がした。

カーテンを開けると机に向かって仕事をしている先生の姿が見える。

こちらからは後ろ姿しか見えないがおそらく保健の先生だろう。

「あれ、確か俺たち職員室にいたはずなんですが・・・」

「いえ、そこの廊下で二人仲良く倒れてましたよ?」

とこちらに振り返りもせずそっけない返事が返ってくる。

「それでは先生が私たちを運んできてくれたのですか?」

「ええ、すぐそこだったから。あまりたいしたことがなくて良かったわ」

なぜかどこかに違和感を感じる。

小声で隣に座っている九条に話しかける。

「なぁ、九条何か変だ。さすがに女性一人じゃ中学生二人なんて運べないよな?」

九条も頷いて、

「そうだね。でもどうしようか・・・」

聞こえていたのか、

「あら、まだ二人とも安静にしてないとダメよ?」

と保健の先生が立ち上がってこちらに振り向く。

「だってまだ頭もらってないんですもの」

先生の体は首から先がなく、首には口のようなものがついていた。



頭無しの女が首にある口で話す。

「昔に誤報で防火シャッターが閉まってしまってね。首がちょうど挟まれて、それ以来頭が無いの」

じりじりとこちらへと歩みよってくる。

「だからお願い、早くあなたたちの頭をちょうだい」

女との距離はそれほど遠くない。

「どうしよう・・・」

隣にいる九条を見ると小さく震えていて、少しだけ涙目になっている。

そっと九条の頭に手をのせる。

「えっ」

「大丈夫、俺がすぐになんとかしてやるからさ」そのまま頭を撫でる。

女の子の髪ってこんなにさらさらでいい匂いがするのか。

「・・・ありがとう、佐藤くん」

嬉しそうに笑顔で微笑む顔がとてもかわいらしく見えた。

そして、あたりを見回して必死に何かないかと探す。

もう女の手がこちらにのびてきそうだ。

「よし・・・!!」

隅にあった掃除用具のロッカーを開け、モップの柄を持って雑巾がついていない方を迫ってくる女に向ける。

「あんまり最近練習してねぇけどっ・・・!!」

喉の辺りをめがけて突きを放つ。

ちょうど口にモップの柄が入り、そのまま吹っ飛ばす。

「ぐわっ!!!」

首にある口を手で抑えながら女が悶える。

「早く出ないとっ・・・!」

と、すぐに駆け出そうしたが、足が止まった。

ドアから何人も白衣を着た女が保健室に入ってくる。

しかも全員の体のパーツがいたるところ無くなっていたり、変なあたりにあったりしている。

まるで正月にやる福笑いの全身バージョンでもやっているかのようだ。

出口が固まられた以上八方塞がりでどうしようもなくなってしまった。



「まずいな・・・」

逃げれそうな場所を探しても見当たらず、その間もどんどんと白衣の女が増えていく。

しかも手にはハサミやカッターなどの凶器を持っている。

その時、ふと頭の中に何かがよぎった。

そういえば職員室で手に襲われた時に中村先生が何か叫んでいたような・・・

「たしか『自分の気持ちに素直になれ』だったかな・・・?」

「さっき先生が言ってた言葉・・・だよね?」

九条もその時のことを思い出したのか少し考え込む。

「どうしてあの時にこの言葉を言ったんだろうね・・・」

「でもあんな時に言うからには何か意味があるんだろうけど」

なんで今この状況で思い出したのかわからないし、言葉の真意もわからないけど・・・

「九条!」

「は、はいっ」

そして一度深く深呼吸する。

少しの静寂の後、

「いきなりだけど、ずっと前からお前のこと・・・好きだったんだ」

そのまま強く抱きしめる。

突然、風が周りに起こりそのまま二人を包んだ。



「佐藤くん!九条さん!」

突然のことで思うように足が動かず、二人の姿が段々と見えなくなる。

その時、中村先生が立ち上がって叫んだ。

「自分の気持ちに素直になれ!」

そして完全に二人の姿は見えなくなってしまった。

「どうしよう・・・・」

「大丈夫きっと皆無事ですよ」

「そうでしょうか・・・」

「はい、大丈夫です」

なぜか中村先生が言う言葉は信じていいように思えた。

「あ、そういえば、中村先生・・・さっきのは・・・?」

「いえ特に意味は・・・」

なぜだろう、少しぎこちない様子見えた。

「柊先生、大事なお話があります」

さっきとは違ってとても真剣な目をしていた。

「は、はい。なんでしょう?」

「私の名前どこかで聞いた覚えはありませんか?」

新任の先生とはいえ多くの子どもの名前や先生の名前を覚えなくてはいけないから人の名前は忘れないようにしているが、中村翔という名前は聞いたことが無いような・・・

「えっと・・・前にどこかでお会いしたことがありましたか?」

「無理も無いですかね。ずいぶん前のことですから」

と微笑する顔はどこかで見たことがあるような気がした。

「子どもの時によく遊んだりしていたの覚えていませんか?」

んー子どもの時となると・・・

「もしかして・・・近所に住んでた翔兄ちゃん?」

「おっ、覚えてたかな」

「わー久しぶりだね。何年ぶりだろう」

昔よく遊んでくれていた歳が少し離れている近所のお兄ちゃんがいた。

小学校くらいの時になぜか見かけなくなってしまってそれ以来だけど・・・なんでだったっけ?

「確かお前が小学校くらいの時以来かな?」

「うん、それだったら最初の時に言ってくれればいいのに」

「まぁちょっと事情があってな」

多分じらして面白がってたんだろうなーと思う。

「それで大事な話ってそれのこと?」

「いや、ちょっとついてきてくれるか」

そのまま、中村先生の後ろをついっていった。



「どこに行くの?」

無言のまま、階段を上がる中村先生の後追う。

久しぶりだから話したいことは山ほどあるのに・・・

「よし、着いた」

「屋上・・・?」

階段を上がりきると眼前に広く暗い空が映る。

もう上空には月や星が出ていて、心地良い夜風が吹いている。

「ここで何を?」

中村先生が腕を上げてある一点を指差す。

そこには子供たち全員が倒れていた。

「皆、大丈夫!?」

すぐに駆け寄ろうとしたが腕を捕まれ止められる。

「大丈夫、ただ気を失っているだけだよ」

「なんでそんなこと・・・」

「その前に少しでいいから話を聞いてほしい」

強く握りしめられた腕から真剣さが伝わってきた。

「うん、わかった」

「ありがとう」

腕から手を放してもらい、正面を向く。

「で話って?」

「実は子供たちを学校に閉じ込めたのは俺なんだ」

「えっ!?」

いきなり思ってもみない言葉が出てきて驚いてしまった。



13.【confession】

 「じゃあ、あの騒動も中・・・翔兄ちゃんが・・・?」

「ああ」

「なんでそんなこと・・・」

科学的には証明できないものばかりだったが、その前になぜこんなことをしたのか、その真意が聞きたかった。

「子供たちには幸せになってもらいたくてね。俺みたいにはなって欲しくはなかったから・・・」

「どういうこと・・・?」

ふと昔の記憶が頭の中をよぎる。

子供の頃の自分が泣いている姿の思い出だった。

「あっ・・・」

「思い出したみたいだな。そう、もう俺は死んでいる」

今までなんで思い出せなかったのだろう。

翔兄ちゃんは昔に、交通事故でもう・・・

「てことは・・・」

「そう今は幽霊かな」

あまりピンとこなかったのか怖いという感情はなかった。

「ずっとお別れを言えなかったのが心残りでさ。子供たちも巻き込んでしまったが会えて良かったよ」

「翔兄ちゃん・・・」

不思議と涙が溢れてくる。

「なんだ泣き顔なんて似合わないぞ」

と手で拭ってくれる。

「じゃあ、そろそろ行かないとな。こっちに長居しすぎたし」

「そんな、まだ話したいことがいっぱいあるのに・・・!」

必死で止めようと手をのばす。

しかし、つかまえたと思った手はむなしくも宙をきる。

触ることができない・・・

「翔兄ちゃん・・・!」

「あ、そうそう、生涯で好きになったのお前だけなんだからな」

こちらに歩み寄って額にキスをする。

触れたところが温かく感じる。

「翔っ・・・」

「じゃあな!」

いきなり突風が吹き、一瞬まばたきをすると翔兄ちゃんの姿はなかった。

そこには漆黒の大空に一人の泣き声が響いているだけだった。



14.【sky】

 「う、んん・・・」

肌に風を感じて目を覚ます。

「どこだ、ここ?」

手に温かいものを感じて見ると、手と手が繋がっているさきに九条が倒れている。

「おい、九条しっかりしろ!」

「んっ・・・佐藤くん?・・・えっと、ここは?」

少し遠くには街の光がまばらに、下には広々としたグラウンドが見えた。

「屋上・・・みたいだな」

その時、後ろで何かが動く気配がした。

振り返ると、いなくなった他の四人が倒れているのが見えた。

「おい、龍大丈夫か!?」

とりあえず、近くにいた龍と茜の方へと向かう。

「茜ちゃん・・・!」

九条も茜に駆け寄る。

「龍・・・!」

体を揺らしながら声をかける。

「・・・いやっ・・・・そんなところ触られたらっ・・・」

よし、とりあえずこの変人をどうにかするか。

「ぎゃああぁぁぁぁ、痛ってぇっ!?」

「おっ、起きたみたいだな」

「いや、無抵抗の人の腹にかかと落としするか普通!?」

「少しばかりうざかったもんでな」

「今ので危うく黄泉の世界に旅立つとこだったぞ・・・」

「ちょっと、あんたたちうるさい」

どうやらさっきの龍の悲鳴で茜と後ろの二人も起きたみたいだった。

「すまん、龍が暴れてな」

「なるほどね」

「いやいや誰のせいだよ・・・」

「おーい、後ろの二人も大丈夫か?」

「「はい、平気です」」

となると、あとは先生たちだけだが・・・・

屋上の隅の方に柊先生がいるのを見つけた。

「柊先生!」

全員でそばまで行く。

「あ、皆・・・」

後ろを向いていた先生が振り返って返事をする。

目が少し赤みがかっているように見えたが、気のせいだろうか?

「先生・・・・?」

九条が心配そうに先生に近寄る。

「あ、平気、平気・・・少し疲れちゃって・・・」

手を横に振りながら言っていたが平静を装っているように見えた。

「そういえば中村先生は?」

茜がきょろきょろと周りを見て言う。

「ちょっと・・・・ね」

なぜだか柊先生は遥遠くの空をじっと見つめる。

とその時、

ヒュ~~~~~~

静寂の中で小さな音が響き、火の花が夜空いっぱいに咲き誇る。

そしてドンッと太鼓を叩くような音が後から聞こえてきた。



「綺麗・・・」

遠くで打ち上がる花火を見て隣にいた九条がつぶやく。

「そういえば今日、夏祭りだったっけ」

全員が花火にくぎづけになっている中、茜が龍に小声で何か話していた。

「そういえば、龍」

「ん?どうした?」

「ちょっとだけかがんで」

手で手招きするように上下に振って合図する。

「こうか?」

「えいっ」

「なっ!?」

一瞬だけ頬に柔らかいものを感じた。

「その・・・約束だから・・・」

顔を真っ赤にしてうつむく茜は普段とは全く正反対でとても可愛いく見えた。

「えっ、あ、どうも・・・」

突然のことで全く頭がまわらない。

「どうした?二人とも」暗くて何をしていたのか見えなかった。

「「なんでもない!」」「そ、そうか」

二人揃って何をしていたんだろうと首を傾げる。

「じゃあ帰りましょうか」

柊先生が全員に向かって言う。

「えっ、でもまた校舎に戻ったら・・・」

「大丈夫、多分もう何も起こらないと思うから」

たしかに先生の言った通り何事もなく外に出ることが出来た。

そして外に出る間、柊先生から中村先生の話しを聞いた。

時間が遅いこともあり男子勢が女子を送ることになった。

先生は車で他は歩きだったので校門前で別れた。

「けどあの先生が幽霊だったなんてねー」

「そうだな・・・」

とっさに告白してキスまでしてしまったのだからとても気まずい・・・

けど、どうしても返事が聞きたい。

「あ、あのさ九条」

「ん?」

「さっきの事なんだけど・・・」

「ああ、そうだな」

二人とも足を止めて向き合う。

返ってくる言葉が怖くて目をつぶる。

「正直に言ってそういうのあんまり意識してなかったしよくわからないかな・・・」

「そう・・・」

「でもあの時お前のこと命懸けても護りたいって思ったんだ」

「え・・・?」

「だから俺も多分お前のこと好きなんだろうなって」

頭をかきながら照れくさそうに言う九条。

「九条・・・」

「ほら、早くしないと親が心配するぞ」

と手を差し出してくる。

「うん!」

その手を握り帰途につく。

一方、九条姉と佐藤ペア。

「ねぇ、佐藤くん」

「何?」

「保健室で言ってたことって本当・・・?」

保健室・・・?

記憶をたどると告白をする自分の姿を思い出した。

「いや、あれは、その・・・」

いくら幼なじみとはいえ最近は全く接点がなかった。

玉砕決定だろう・・・

「冗談だ」

自分のへたれさに失望しながら失恋回避行動をとる。

「それよりさ」

「嘘です・・・」

「えっ」

「あんな時に冗談なんて言えないと思います。それに中村先生だって自分に素直になれって」

「あ、あれは・・・」

「だから私も素直になります」

一回深呼吸をして口をあける。

「昔・・・佐藤くんのお嫁さんになるって言ったの覚えていますか?」

なんだこのお約束みたいな展開は!?

しかもあろうことか全く記憶に無い・・・

「えっと・・・そんなこともあったかな?」

「覚えてませんね?」

微笑する顔が無邪気で可愛い。

「うっ・・・」

「それと今の・・・私の気持ちです。この夢、今でも変わってないんですよ?」

そして月明かりに照らされた二つの影が重なった。



15.【epilogue】

気がつくともう日は落ち、夕暮れの空はすでに闇に消えていた。

「さて、そろそろ帰るか」

そうつぶやくと、後ろから

「お父さん~」

聞き慣れた声がして振り向くと、女の子が小走りでこちらに向かってくる。

その後ろに女性がいて笑顔で立っている。

駆けてきた女の子を抱きしめ、立っている女性の方へと歩きだした。

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