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我が戦友 -北欧神話ロキの物語-  作者: Romina


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9/13

未完成のもの


神々の中で、

バルドルほど愛された者はいなかった。


彼が歩けば光が差し、

彼が笑えば争いは止む。


神々は皆、

この若い神が永遠に生きると

信じて疑わなかった。





ある夜。

バルドルは夢を見た。


空は暗く、

アースガルズは静まり返っている。


神々の姿は見えない。



ただ遠くで

何かが倒れる音がした。


その音が

自分の胸の奥で響いた。


胸は冷たく、

光は消えている。

風が止まり、

誰かが自分の名前を呼んでいる。



バルドルは目を覚ました。

朝の光が差している。


それでも胸の奥の冷たさは

消えなかった。



バルドルはそれから

幾度も幾度も同じ夢を見た。




父オーディンは、夢を不吉に思い、

巫女にその意味を問いに行った。

そしてバルドルの死が避けられぬ運命であることを知った。



母フリッグは、息子を守るため、

世界のあらゆるものに誓いを立てさせた。


石、鉄、木、火、

病、獣、武器__。

この世の危険と思われるものすべてに

彼を傷つけぬと誓わせた。



石や槍などを投げても

すべて弾かれるようになったバルドルを

神々は「不死身だ!」と言い、

彼に物を投げつける遊びに興じた。


バルドルには、

何を投げても弾かれた。


それを見て母フリッグは

ようやく胸をなで下ろした。








ヴェトルは回廊を歩いていた。



窓辺の植物を見つめ、

その前に腰を下ろす。



そこに、フリッグが現れた。


「ああ、ヴェトル。」


「今日は機嫌が良さそうだな」


フリッグは誇らしげに遠くを見た。

神々がバルドルに槍を投げ、笑っている。


「もう心配はいらないわ。

あの子は、あらゆるものに誓わせたの。」


ヴェトルが静かに問う。


「すべてに?」


フリッグは肩をすくめる。


「ただ……ヤドリギだけは、ちっぽけだから。

あんな細い枝に、何ができるというの?」


神々の外れた槍が地面に刺さり、また誰かが歓声を上げた。


「あなたは参加しないのね。」


ヴェトルは答えない。


フリッグは微笑んだ。

ヴェトルの沈黙を、いつもの穏やかさだと思ったのだ。


「あなたは争いを好まないものね。」


しばらくして、ふと彼を見て言う。


「あなたなら、心配はいらないわ。」



その瞬間、ヴェトルの目が

わずかに揺れた。


神々はロキを警戒し、

自分を疑いもしない。



「ああ、イズンにりんごをもらいに行くんだったわ。

ではまたね、ヴェトル」




フリッグが去った後。

ヴェトルは振り返らずに言った。


「ロキ。いるんだろ。」


窓の植物が揺れ動き、

ロキが姿を現した。

ヴェトルはヤドリギの枝を見つめて言った。


「ちっぽけ、か。」


ロキが笑いながら返した。


「母親ってのはそういうものだろ。

小さくて無害なものは、世界に入れない。」


ヴェトルは枝に触れずに言った。


「ちっぽけということは、

まだ何色にも染まっていないということだ。」


ロキが視線を向ける。


「強さも弱さも、まだ決まっていない。」


沈黙。

ヴェトルは振り返らない。


「神々は完成された力だけを恐れる。

だが世界を壊すのは、

往々にして“未完成のもの”だ。」


ロキは何も言わず

ヤドリギの木を折り取った。






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