ウルズの泉で
ある夜。
ロキは一人、城を抜け出し
森の中を歩いていた。
宴も、神々の自慢話も、
もう聞き飽きていた。
しばらく進んでいくと
近くで水の弾く音が聞こえた。
音を辿っていくと、
そこには美しい泉が広がっていた。
世界樹の根元、ウルズの泉。
光の届かない静かな場所で、
根が絡み合い、空を覆っていた。
ふと水面が揺れ、
ロキは木の陰に隠れた。
すると水面から、白い肩が現れた。
女神フレイヤが
泉の中で体を起こした。
水面は月の光を受けて揺れ、
白い肌が淡く輝いていた。
濡れた髪が肩に落ち、
水滴が肌を伝っていく。
彼女はゆっくりと髪をかき上げ、
滴る水を絞った。
“お、これは…”
ロキはニヤリと笑った。
ある昼下がりの
アースガルズ。
城の庭で、ヴェトルが鹿に
果実や草を与えていた。
鹿は自ら寄ってきて、
ヴェトルの手から餌を食べている。
そこへ、イズンが慌ててやって来た。
「ヴェトル、お願いがあるの。」
「何かあったのか。」
「りんごを洗う水がなくなりそうなのよ。
ウルズの泉へ行って、汲んできてもらえないかしら?」
「構わない。」
ヴェトルは餌箱に果実を置き、
森の方へ向かっていった。
遠くの植物が
風もないのにふわりと動いた。
ヴェトルが森の中をしばらく歩くと、
ようやく世界樹が見えてきた。
ヴェトルは景色を見ながら一息ついた。
ここの泉はいつ来ても美しい。
水は澄み、森の音さえ遠く感じる。
早速水を汲もうと泉に近寄ると、
水辺に人影が映った。
逆光でよく見えず、
ヴェトルはさらに近づいていった。
すると、人影は声をかけてきた。
「あら、ヴェトル。
珍しい場所で会うわね。」
女神フレイヤが、
美しい裸体をくねらせ、
髪を絞りながら振り返った。
彼女は水浴びをしていたのだ。
突然の状況に
取り乱したヴェトルは咄嗟に謝り、
目を逸らした。
「失礼した、フレイヤ…」
目を逸らしたその瞬間、
水面に映ったフレイヤの影が
ゆらりと歪んだ。
「…くっくっ。
よお、ようやく引っ掛かったなぁ、
ヴェトル」
「…お前か、ロキ。」
「お前そんな顔するのかよ!」
ロキは腹を抱えて笑い転げた。
「今回は俺の勝ちだな!」
ヴェトルは無表情に戻り、
耳だけが赤くなっていた。




