表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
我が戦友 -北欧神話ロキの物語-  作者: Romina


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/11

終わりの始まり


ロキは神々の前に引き出された。

オーディンは言った。



「ロキ。」


「自分が何をしたか、わかっているな。」



ロキは答えなかった。




「お前はバルドルを殺し、

その帰還までも阻んだ。」


「エーギルの宴では

我々神すべてを侮辱した。」


「もはや許す余地はない。」




ロキは静かに顔を上げた。


その顔には

憤りと諦めが滲んでいた。




「……好きにしろ。」




神々の間に

重い沈黙が落ちた。






その時だった。


一人の声が響いた。



「待て。」


神々が振り向く。

ヴェトルだった。



オーディンが言う。


「何だ。」



ヴェトルは言った。



「ヤドリギの存在を

ロキに教えたのは俺だ。」



ロキは初めて

ヴェトルを見た。


ロキは呟いた。



「……馬鹿か、お前」


ヴェトルはロキを見なかった。




神々はざわめいた。



「何だと……」


「お前もか」



オーディンは

ヴェトルをじっと見つめた。



沈黙が落ち、

やがてオーディンは言った。



「……そいつも連れて行け。」



こうしてヴェトルも

神々に捕らえられた。



予言に名の記されぬ怪物が

自ら破滅の側に立ったのだ。



神々の表情には、嫌悪よりも

理解できぬものへの恐れがあった。




オーディンは静かに言った。


「この者は予言にない。」


「ならば、世界の終わりまで眠っていろ。」




神々はヴェトルを

氷の張り詰めた極地の国、

ニブルヘイムへと連れて行った。


そして__

彼を氷の奥深くへ封じた。








神々はロキを、

霧の立ち込めた森の奥へと

引き連れて行った。


誰も寄り付かぬような暗い岩肌に

深い洞窟があった。




そして神々はそこに、

ロキの妻、シギュンとの

息子たち2人を連れてきた。


ロキは顔色を変えた。



「おい、待て…」



オーディンは静かに言った。


「罪は父にある。

だが罰は血に落ちる。」




次の瞬間、

一人の子の瞳が獣の色に変わった。


洞窟に響いたのは

狼の咆哮と、

兄の名を呼ぶ声だった。




ロキは叫んだ。


だがその声は、

狼の咆哮にかき消された。




神々は黙ってそれを見ていた。




やがて洞窟は静かになり、

神々は

ロキを岩に縛りつけた。


その縄は

まだ温かかった。




神々が彼を縛り終わると

その縄は鎖になった。


そして一人の神が

毒蛇を持ち、

洞窟の天井へ括り付けた。


そして神々は

洞窟から去っていった。




洞窟の天井から、

口を開けた毒蛇がロキの顔を覗いていた。


やがて蛇から何かが

静かに滴り落ちた。



一滴の衝撃的な痛みに

ロキの喉から押し殺した声が漏れた。


体が反り、

岩に縛られた鎖が軋んだ。


歯を食いしばっても、

声は止まらなかった。




その時、洞窟に1人の人影が映った。


ロキの妻、シギュンだった。


「……なぜ来た。」



シギュンはただ黙って、

蛇の毒を大きな器で受け続けた。


だが器が満ちると、

彼女はそれを捨てに行かねばならない。



そのわずかな間だけ、

毒はロキの顔に落ちた。



洞窟に

獣のような苦鳴が響いた。




彼が苦しむ度に、

大地は大きく、激しく揺れ動いた。


それが

世の地震の始まりであった。




そして__

その苦しみは


何十年も

何百年も

続いたのだ。











ニブルヘイムの氷は

静かに広がっていった。


その底には

一人の男が眠っている。



神々は言った。


「世界の終わりまで眠れ」と。


だが氷は止まらなかった。




太陽は飲み込まれ、

月は消えた。


海は凍りつき、

山々は白く閉ざされ、

夏は来なかった。


三つの冬が

世界を覆った。



人はそれを

フィンブルヴェトル、

“ 大いなる冬 ”と呼んだ。





家の中はもはや安全ではなくなり、

隣人は信用できず、

食べ物を求めて人が人を襲った。


白い雪の中には

常に血の跡が残っていた。



赤子の泣き声は止まり、

兄弟は互いを殺し合い、

父は子を疑い、

世界の秩序はますます崩れていった。





その時。


大地が震えた。


遠い洞窟の奥で、

縛られた男が

身をよじっていた。


その男の苦しみが

大きく世界を揺らした。




山が裂け、

海が唸り__


そして、極地の氷に

亀裂が走った。



氷の奥で

一人の男が目を開けた。





海が割れ、

世界の海を覆う大蛇、

ヨルムンガンドが姿を現した。




島では狼が鎖を砕き、

フェンリルの吠声が天へと轟く。


“聞こえているか、神々。”



その声は、

まるで神々を呼ぶかのようだった。






世界が大きく崩れていた__。




そして__

洞窟の奥。


滴る毒の下で

縛られていた男が


ゆっくりと顔を上げると

その鎖が軋んだ。




洞窟の奥で

何かが砕けた。





その時。


遠く、

天へと放たれた狼の声が

アースガルズへと届いた。




見張り塔で

ヘイムダルは角笛を手に取った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ