ある贈り物
ある日、一隻の宇宙船が地球へ降り立った。その着陸場所は、各国首脳が集まる会議場の広場。しかも会議の真っ最中だったため、混乱は避けられなかった。
警備隊とマスコミが即座に宇宙船を取り囲む中、ハッチが静かに開いた。現れた宇宙人は、危害を加える意思がないことを示すように両手を上げ、穏やかな笑みを浮かべる。
各国の首脳たちは、テレビカメラの前という事情もあり、毅然とした態度で宇宙人の前に立ち並んだ。
『この星の人類が一定の基準に達したため、本日はお祝いの品をお届けに参りました』
どうやら翻訳装置を使っているらしい。宇宙人の言葉は地球の言語へと変換され、各人の耳に流暢に響いた。
首脳たちは顔を見合わせた。確かに、人類は近年、着実に宇宙開発を進めていた。今日の会議でも、その話題が議題に上がっていたばかりだ。惑星探査衛星を打ち上げ、新たな資源を探索していた。その動きが彼らの目に留まったのだろうか。
物騒な話ではないと分かり、首脳たちは安堵の色を見せた。だが、贈り物の内容を聞くと驚愕した。
「新エネルギー……? その装置がですか?」
宇宙人が差し出したのは、核エネルギーに代わる新たなエネルギー源を生み出す革新的な装置だった。
それはランタンのような大きさと形状をしており、中心に青緑色の光が揺らめいていた。環境に一切悪影響を与えず、膨大なエネルギーを生み出す、まるで夢のような技術。まさに各国が喉から手が出るほど欲しがっていたものだった。
首脳陣は恭しく装置を受け取り、宇宙人は地球を後にした。
この一連の出来事はすぐさま世界中に報じられ、「ついに人類は宇宙文明として認められた!」と歓喜の声があちこちで上がった。
各政府は『装置の安全性を慎重に精査し、この技術を国民の生活向上に活用する』と声明を出した。しかし、その裏では装置を軍事技術へ転用する計画が最優先で進められた。もっとも、安全保障上、避けられない選択だったと言える。
やがて、新エネルギーを用いた兵器が完成すると、続いて国家の発展やインフラ整備にも応用された。その結果、各国は目覚ましい成長を遂げ、かつて資源不足による戦争や紛争が絶えなかった世界に、ようやく平和が訪れたのだった。
そして、人類はさらなる目標を掲げた。新エネルギーを動力源とする長距離宇宙船を開発し、他の星系への探査計画を打ち立てたのである。
その目的は二つ。一つは宇宙の資源探索。もう一つは、あのエネルギーを再び手に入れること。
宇宙人が地球に来られたのなら、こちらから向こうに行けないはずはない。しかも、宇宙人は大まかだが、母星の位置まで教えてくれていた。
礼を言いに行くのは当然の礼儀。もっと多くのエネルギーを分けてもらうための交渉もまた当然のことだった。もし交渉が決裂したとしても、奪う手段はすでに整えられている。
新エネルギーを活用した兵器を搭載した宇宙船が、地球を飛び立った。人類はまた一つ、新たな夢へ向かい、突き進んでいくのだ。
……そのはずだった。だが、地球を出て間もなく、宇宙船は突如すべての機能を停止した。通信も断絶し、船は宇宙空間をただ漂うだけの無力な鉄の塊と化した。
地球側もこの事態を把握していたが、従来の技術では乗組員を救出する術はなかった。少なくとも、彼らが生存しているうちに回収するのは不可能だった。
やがて調査が進むにつれ、人類は悟った。
新エネルギーは地球外では機能しないということ。
宇宙人は、人類が地球の外へ進出するのを望んでいなかったこと。
閉ざされた檻の中で、沈静化したはずの戦争の火種が、再びくすぶり始めたことを。
そして、その事実に気づくのがあまりにも遅すぎた。