第1話 創造主と破壊神と転生者
こんにちは赤豆 蓮根です。
興味を持って見てくださった方ありがとうございます。
楽しんで貰えたら嬉しく思います
昔から自分だけの世界が欲しいと願っていました。
創造主たる神は創るのが役目であり見守るのは他の神の役目。
どうしたって私は創造主で、自分の世界など持てない決まりです。
生み出しては他の神へ預け、もしくは新しい神を創造する。
いつも他の神達が考え、導き、救って
自分達のうけ持つ世界がより良くなるようにと
お互いに情報交換をして支え合い努力していた。
私は彼等のそんな様子が密かに羨ましかった。
最近、世界がおかしな方向へ行ってしまったり文明が滅んでしまったりが多いらしく彼等は忙しそうだ。
そんな折、彼等が導き出した答えがお互いの世界から
救世主や勇者、賢者等を連れてくる
《異世界人の召喚》という案が出て賛否はあったものの
藁にも縋る思いだったやつれた一人の神が優しい神に頼み込み
お互いに話し合い適性を考えたり話し合って決めた
最初の転生者は見事その使命を果たした。
そこからどんどん《異世界人の召喚》は増えていった。
ただし、お互いの神の同意の元でと言うのが絶対の条件だった。
神の間で《異世界人の召喚》ブームが起きたすぐの頃
一人の焦った神は了承を得ず無理やり転生してしまい
実はその《異世界人の召喚》で召喚した人物が元いた世界では重要な人物で
その者が居なくなったことによりその世界は崩壊してしまった。
怒った神はその《異世界人の召喚》の人物の魂を取り戻すべく
他の世界へと手を出してしまい悪神となってしまった。
どちらにも落ち度はあったということで
その件は不問となったものの皆で一言"了承を得る事"と定めた。
異世界人か…皆、よく考えたものだなと他人事の様に思っていた。
穏やかな陽に照らされ、窓辺に置いてある椅子に腰かけ美しい緑の広がる森をぼーっと眺めていた。
ドアをノックする音が聞こえどうぞと声を掛けると
慌てた様子で入って来たのは女神、セレスフィアだった。
美しい純白に体のラインがでているドレスに身を包み
走ってきたのだろう、白く細い首に美しいふわふわの
金髪が数本まとわりつき
普段可愛らしくちょこんと乗っている花冠は少しズレていた。
肩を上下させ息を切らし伏せられている長いまつ毛からちらと覗くグリーンサファイアは潤い瑞々しかった。
だが、その美しい瞳のすぐ下には隈が出来ていた。
よく見れば驚く程身体が細っている。
その痛ましい姿に一体どうしたのかと尋ねると
『あぁ、我が創造主
インドゥーラ様……私はどうすれば良いのでしょうか!』
瞳を潤ませ、両手を組みまるで懺悔するように膝をつき話し始めた。
『何度……何度導いても《転生者》を送っても
必ず、世界が滅びてしまうのです。
このままでは、いずれ私の世界は壊れ消えてしまう。もう何度、巻き戻したことか!』
今度は、顔を覆い俯き溜めていた涙はぽろぽろと流れ落ちていく。
完全に泣き崩れてしまった彼女の背を優しく撫で
安心させるように優しい声音で言った。
「分かりました。私の方で貴女の世界がどうなっているのか調べてみましょう」
そう言うと彼女は顔を上げ大きく頷き
『感謝します』と言って彼女の部屋へ向かう
彼女の世界がそこにはあった。
丸い球体の下は黄金の器となっていて
ふわふわと宙に浮いている。
球体に手を翳し《世界の記録》を見てみる。
確かに、そこには何度も滅びては巻き戻してが続いていることを示す記録がのこされていた。
何が原因となっているのかと次々に見ていくと、1箇所だけモヤの掛かっている文字を見つけた。
そこに力を込め何とかぼんやり見える様になるとそこにあったのは破壊神の名前だった。
「……どういう…事?」手を震わせ口に手を当て
困惑した 一体なんの手違いなのか……
滅びる訳だ……ただの人間が神である彼にかなうはずなど無かった。
全てを理解した私は彼女に依代を創らせてほしいとお願いした。
頷いた彼女はそのまま部屋に置いてくれた。
そして、必要な準備を済ませ早速取り掛かる
依代に必要な肉体を地上で発現させ
胸に手を当て白く小さな魂を取り出し
肉体へ送る、魂が定着したらあちらに意識を送る。
これは仮の人型をとったただの人形だ。
暫く地上へ留まる時はもっと時間をかけて創るが
今は急を要するので人形に留める。
一見人間にしか見えないが中身が全く詰まっていない。
普通の人間には分からない程度なので大丈夫だろう。
どんな依代かは設定していないのでどうなるのか分からないが
まぁ、何とかなるだろう。
それよりも、破壊神を止めなければ。
魂が定着した様なので地上へ意識を送る。
ふわっとした浮遊感の後
さわさわと涼やかなそよ風に頬を撫でられ
鳥達の囀りに目を覚ます。
ふわっと土と木々の香りを感じ地上に降りたのだと
確信した。
横になっていた身体を起こし辺りを見回し
首を下げると自分の身体に無いはずの物がそこにあった。
双丘がそこにはあった。
……しまった。性別の設定も何もせず
自分の魂に合うものとだけ設定した。
男神であるはずの私はどうやら女性になってしまった様だ。
近くにあった湖の水面で顔を確認する
足りてないものは無いだろうかと
何となく元の私に似た顔にはなっていた。
肩までだった髪が腰まであり色はそのままの金髪
やはり男性らしさは無いが一応、凛々しい顔立ち
金の睫毛に覆われるのはアウイナイトの瞳
低くも高くもない鼻がスっとあった。
良かった、目が3つ以上あるとか
口が額にあるとかではなくて良かった。
あまり元の体から外れた姿だと長く維持できない。
さて、と立ち上がり
破壊神の住むであろう場所へ急ぐ。
彼は行方知れずだったはずだ、それが何故。
殺したい程憎んでいる私の創った世界に住み着いて居るのか……
いや、憎んでいるからか……
私の創った最初の世界であるここを選んだのは
そういう事なのだろうか…どうして
どうして……こんな事になってしまったのだろう。
私は彼の触れてはいけない所に触れてしまったのだろうか
歩き続けていた足を止めてしまいたくて堪らない。
長い道を歩きどんどん彼の根城という城へと視線を向ける。
随分、長くそこに住んでいるのだろう。
そびえ立つ城と城壁が
年月が経っている事を物語っている。
遠目でもかなり大きく見える
きっと近くで見ると物凄くでかいのだろう。
嫌だな、彼の元へ辿り着くのに一体どれだけ
時間が掛かるだろうか
もう1人くらい連れてくればよかったか……
後できっとなんで自分を連れて行かなかったのかと
怒る彼の顔を思い浮かべる。
そうして着いた城はやはりとてつもなくでかく
その前にある門も有り得ないほどでかい。
首が痛くなる程の高さに憂鬱になる。
これは…骨が折れそうだ
盛大に溜息を吐きながらグッと門を押すと難なく開いた。
もっと重いのかと思ったが随分と軽量化されている。
人間の力でも開けられそうだ。
まるで入りたければ入ってくればいいみたいな
本当に何を考えているのか分からない。
続いて城への扉まで辿り着いた
門番が2人左右に並んで立って居たがこちらに一瞥もせず
左側の大男が上を向き指示を出していた
こちらの扉は重そうな音を立てながら開く
左右の大男達はやはりこちらを見ず私が通るのを咎めなかった
ささっと中へ入り何の真似かと思考を巡らせる
彼は私を憎んで居るはず……なぜ易々と通したのか
長い廊下を歩く。
ふかふかのカーペットは暗い奥へと続いており
ゆらゆらと揺れている等間隔に並んだ蝋燭は
昼間なのに暗いこの屋敷をやんわりと照らしていた。
歩いても歩いても続く廊下では誰一人として出会わなかった。
漸く奥まで来たという時だった。
これまた重そうな扉の前で見知った顔がそこにはあった。
彼はぺこりと綺麗な礼をして口を開いた。
『ご無沙汰しております。インドゥーラ様
我が主にお会い頂く前に伺いたい事が御座います』
胸に手を当て無表情でこちらを見る。
その瞳は表情とは違い好戦的だった。
燃えるような赤い短髪にギラギラと光る焼け焦げたルベライトの瞳
褐色の肌が彼をより強者に見せる
闇色の軍服に身を包みその腰には剣があり
隙は何処にも無い。
私はゴクリと喉を動かし答える
「……何でしょうか」
ヒリヒリとした空気が身体を覆い緊張が漂う
そんな私を他所に彼は淡々と告げる
『…今更、何をされに来たのですか?』
先程までの無表情から眉間にシワを刻み
不快だと全面に感情が出ている。
……当然だろう。
自分でも呆れている、何を今更…と。
でも、それでも。
降ろしていた手で服を掴み握り込む。
俯いていた顔を上げ答える。
「…私は彼に恨まれている事でしょう。
それでも……それでも私は創造の神なのです。
……それに彼ともう一度、話がしたかった。
いえ、話さなければいけないのです。
お願いです、彼に会わせて下さい」
胸に手を当て頭を下げる。
敵意なんてない。彼が私を恨んでいたとしても
それでも私は昔の様に
もう一度……
彼が溜息を吐き、すっと息を吸った時だった。
勢いよく扉の開く音が鳴った。
『早く入って来い!…ここまで通してやったんだから早くしろ!』
低くよく響く懐かしい彼の声がした
その声にこちらを向いていた彼は横を向き通してくれた。
すれ違い様に睨まれたのは見間違いでは無いだろう。
破壊神と呼ばれる彼は間違いなく強者だった。
王の玉座の様に立派な椅子に腰掛け足を組み
肩肘を付きこちらを見下ろしている。
その目にかつての親しさ等微塵も無かった。
彼は変わらない。
凛としていて雄々しい表情も
大好きだった漆黒の髪と
見詰められると安心した美しいアメシストの瞳も
もう、どこにも無いのだと思い知らされる。
彼の中では僕達の過ごした日々は消えてしまったのか……
俯き固まってしまう。
『……それで、何をしに来たんだ
お前の創った世界から俺を追い出そうってか?』
ふんっと鼻を鳴らし横を向く
「……どうして、この地に住む人間に手を出すの
私が憎いから?
それなら私を殺せばいいじゃないか……」
俯いたまま手を震わせぎゅっと目を瞑る
するとカツカツと足音が鳴り近ずいて来る
目の前で止まり見下ろしていきなり顎を掴まれた
無理やり彼の顔の方へ向かされ
『……変わらないな、お前は
お前はいつも世界の為に、他の者の為に
自分の命を無下にする。
……お前は分かっていない、上に立つものであるのなら
尚のことお前自身が身勝手で死んではならない。
お前の様な奴が創造の神となるとは
我らが父は本当に愚かだな』
その言葉にグッと唇を噛み睨みつける
『なんだ?その目は。
何か間違った事をいったか?
お前は俺の居場所を奪っただけでなく
……踏みにじったんだぞ…俺の……俺の!!』
そこまで言って険しい顔をして
心底、恨んでいると伝えてくる顔で
掴まれた顎から離れ
今度は首を絞め折れてしまいそうな程の力で
手を引き剥がそうと手首を掴み力を入れるが全く歯が立たない
意識が朦朧としてきた時だった
白い塊が彼の頭を目掛けてすっ飛んできた
物凄い勢いでぶつかりハッとしたように見上げた彼は
宙に浮かぶ一羽の白烏を睨みつける
『…っ、お前か!邪魔をするな!』
掴み掛かろうとしていた手からするりとすり抜け
私の傍に舞い降りた。
座り込みケホケホと咳き込んでいると
心配そうについていた片腕に擦り寄った
『……主様、主様。痛い?痛い?』
頭に響く子供のような泣き声が聞こえた
そっと手を上げとまらせると
紫の瞳に溜めた涙が今にも零れそうだった。
よしよしと小さな頭を撫でてやり落ち着かせ
「……大丈夫だよ、ムニン」
彼のほうへ向くと怒った様な顔でこちらを見ていた。
そして、徐ろにこちらを手を伸ばした
…その手は振り払われた。
パシッとしんとした部屋で響いたすぐ後に
私を背に庇う青年が目の前に居た
『…何してんですかアンタら
俺を置いて勝手に地に降りたと思ったら
この人と密会ですか?……勘弁して下さい。
……それで?何ですか、この状況』
相手を牽制するかのように剣先を彼に向け
こちらに横顔を向ける。
慌ててきたのだろう少しボサボサになった銀髪に
困惑が現れているクリソベリルの瞳は揺らいでいた
少しよれた白い軍服に
少し捲られた袖からは彼の褐色の肌が見える
「……バッガス、来てくれたんだね」
はぁ?と大きい声で怒り出した
『アンタ、俺の事なんだと思ってんの?
護衛だよ、ご・え・い! 』
一頻り怒られた後、首を戻し彼を見るなり
『…お久しぶりですね
ルドラーク様。どうやらお元気そうで良かったです
悪いけどこの人連れ帰らせて貰っても?』
先程よりも更に眉に力を入れた様な険しい顔で
『…お前も変わりないようだな
そいつの傍をうろついて離れようとしない。
そろそろ母離れしたらどうなんだ?
全く、乳臭い奴だな…赤子の頃から変わったのは見た目だけか?』
ふんっと鼻を鳴らしバッガスを睨みつける。
『アンタだって人の事言えないんじゃねーの?』
そう言いながら何処から飛んできたのか
勢いのままアグニールに切り付けられたバッガスは
剣で弾き蹴りを繰り出す
かすりもせず避けられ今度は蹴られ吹っ飛んだ
それを追ったアグニールに切り付け頬から血が出ていた
そこから二人は鉄のぶつかり合う音をさせ
激しく戦っていた。
合間にボソッと何かを呟いたアグニールに
青筋を浮かべ怒ったバッガスが大声で
『あぁ?……この、ファザコン野郎が!』
それを聞いたアグニールも青筋を浮かべ
更に激しさを増した。
収拾のつかない様な争いにさっき迄の殺伐感が消え
すっと動いたルドラークは剣を突きつけ
ぶつかり合おうとしていた二人の頭に
拳骨を落とした。
その衝撃は凄かったのだろう(音も凄かった)
殴られた瞬間、二人は白目を剥き地面へ落ちてきた。
慌てて二人を風でふわっとゆっくりと下ろした。
『……もういい。帰れ、面倒くさい。
俺は別にここに居るだけだ。
人間達が来なければ元々手だしなどしていない。
世界が滅ぶのは俺のせいでは無い。
自分で何が原因なのかよく、考えるんだな』
そう言って、彼の手下達に連れられ
追い出されてしまった。
結局、何も出来なかった。
目を覚ましたバッガスはあの野郎と言って戻ろうとしたので
何とか宥めて天界へと戻った。
彼は世界が滅ぶのは自分のせいでは無いと言った。
ならば、何が原因だと言うのだろうか。
帰ってすぐに女神セレスフィアに話した。
私はどうしたら良いの?と泣き崩れた彼女に
バッガスが優しく抱き締め頭を撫でる。
『大丈夫だ、何とかなるさ。
俺も手伝うよ』
そう言って再び撫でる手に安心した顔で泣きやみ
『ありがとうございます、お兄様。
少し、元気が出ました』
そう言って微笑んだ。
『……そうだ!
異世界人を呼んで助けて貰っては如何です?』
名案だと言ったバッガスにセレスフィアは首を振る。
『……そう考え、何人も送りましたが結果は変わりませんでした。
彼等が居た時は確かに少し落ち着いたのですが
結局は彼等の亡き後、滅びてしまうのです』
うーんと唸って居た
『……あ、ならインドゥーラ様が直々に呼ぶのはどうですか?
貴方なら魂選びで的確な魂が呼び出せるでしょう?
それに創造の神である貴方が設定や行く先を追い
導けば良い方向へ進むかもしれませんよ?』
それにセレスフィアもうんうんと頷いた。
少し考え、世界に干渉する事になってしまうけれどと
思ったが、緊急事態だしと理由をつけて。
その案でいく事にした。
ならば、早い方が良いと準備を進め
世界樹と呼ばれる数々の世界の情報の入った大木に触れ
セレスフィアの世界を見つけ出しそこに呼ぶにふさわしい魂を探す。
そして、ひとつだけ凄まじい輝きを放つ魂を両手でそっと掬いだした。
この魂は、消える前だ……
こんなに輝いているのに?疑問に思いつつ
彼のいた世界の神にお願いに行くように
バッガスに頼むと行ってすぐに戻ってきた。
許可は得たそうだ。
今日、亡くなった魂だそうだ。
彼に合う器を探してそこへそっと注ぐように入れる。
上手く馴染んだのだろう光っていたのが消え
形づくっていく、そして人型になり顔も見えたところで
その人物が目を開ける。
そっと開かれたサファイアの瞳がこちらを見た。
その瞬間、ビクッと身体を震わせ怯えた顔をした。
『…なに、ここ?
僕…僕は病院で死んだ筈じゃ……』
綺麗な銀髪に手を差し入れ掴み困惑している
とても華奢で今にも崩れ折れてしまいそうだ。
「…初めまして、急に呼び出してごめんなさい。
驚いていますよね……貴方のお名前を伺っても?」
安心させてあげられるように優しく小さい声で話し掛ける。
私の方を見ていっしゅん怯えたあと目を泳がせ
『……雨宮 薫です。
あの、ここは何処ですか』
震える手を組み恐る恐る答えた。
「アマミヤさんですね。今居るここはそうですね…
天界と、呼ばれる場所です。
貴方は元いた世界で亡くなられお願いがあり
此方へとお連れしました」
震える手をとり冷えた手を温めるように包んだ。
『やっぱり、死んだんですね。
……短い、人生だったな………』
そう言うと彼は泣き出し子供の様に
いえ、人間の17歳など子供ですね………
泣き崩れてしまったこの子を抱き締め背を撫でた
太陽の女神が歌ってくれた子守唄を聞かせ
落ち着くまでそのままでいた。
泣き過ぎてしゃくりが出ていたのでトントンと背を叩くと
泣き疲れたのかそのまま眠ってしまった。
今日の所は休んでもらって明日しっかり話しをしよう
そう言って皆、自分の部屋へと戻って行った。
バッガスの肩にとまっていたムニンが此方へ来たので
そっと手を出すと手にとまり顔を近づけると
頬に擦り寄った。
『…主様、どうしてルドラーク様は酷い事するの
僕達の父様なのに……
ねぇ、どうして?……母様』
彼と同じ紫の瞳からまたぽろぽろと涙が零れる。
私は何も答えることが出来ずただ、頭を撫でるだけだった。
朝起きたアマミヤさんに状況の説明をすると
昨日とは違ったキラキラとした目をしていた。
『……凄い、物語みたいですね!
最近、アニメや漫画で流行ってて……
まさか僕が異世界にいるなんて!
ずっと病院生活だったから……ここでなら自由に動けますよね?』
どうやら、反対される事は無さそうだ。
『…あ、ごめんなさい。
大変な時にこんな呑気な事を言っていては駄目ですね』
としゅんとした子犬みたいで可愛らしい。
その様子にふふっと笑うと
「いいえ、構いません。
無理を言ってしまうのはこちらです。
私達に協力して頂くのです、こちらとしても
相応のサポートはさせていただきます。
貴方の好きに生きて下さって構いません。
勿論、祝福も授けますよ」
わぁと嬉しそうな顔をした後
『…でも、僕に出来るでしょうか』
と、不安そうな顔になったので
「貴方は優しく、そして痛みや悲しみをよく知っている。
だからきっと、貴方なら出来ます。…信じて
それに、素直なとってもいい子ですよ」
そう言って頭を撫でると
顔を真っ赤にして俯きか細い声で『…はぃ』と答えてくれた
この感じ……懐かしいなぁ。
暫く撫でているとハッとした
「ちなみに貴方は今から転生と言って
豊穣の女神 セレスフィアの国 ゼノス国
そちらで貴方はリヒト・シュバルトとして生まれ変わります。
貴方の今の姿がそうですね。
その姿は大きくなった姿ですが、赤子から始まります」
『あ、それでこの姿だったんですね。
僕、朝に鏡見てビックリしました……』
どうやらこれも問題無さそうですね。
『…優しいお父さんとお母さんだったらいいな』
ポソッと言ったので
「ふふ、大丈夫ですよ。
シュバルト伯爵家は正義感溢れ
慈愛に満ちたいい家だそうですから。
優しく素直な貴方ならきっとすぐ本物の家族になれますよ」
そう言うとほっとした様に肩を下げ
『楽しみです』
と言って笑ってくれた。
『では、転生の儀式を始めますね。
其方の大樹に手を触れて下さい。
そのままじっとしていて下さいね』
呪文を唱え彼の周りが輝く。
『よし、これで問題ありません。
何かあれば教会へ足をお運び下さい、きっと助けになります。
それでは、行ってらっしゃい。
貴方の旅が良い旅になることを願っています。
どうか……この世界を……彼を助けて』
彼の姿は完全に見えなくなった。
私達を追い返したあの時、確かに彼は苦しそうな顔をしていた。
彼は昔から一人、痛みも悲しみも苦しみも抱えてしまう。
だからどうか、彼も救えたらと願う。
あぁ、駄目だ。い、意識がたも…て…ない。
傾いだ身体を誰かが支えてくれる。
『…貴方はいつもそうだ。あの男の事ばかり考えてる』
額に温かいものが一瞬触れ離れていく。
身体を包み込む暖かさとふわふわと揺れる体は
心地よく、素直に意識を手放した。
最後まで見てくれてありがとうございます。
次は過去を書きたいと思ってます。
神である彼らに何があったのか……ふふ