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女神の寵愛を受けた男爵令嬢と受難の日々  作者: ひなゆき


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90 おかしなお菓子の家

誤字報告ありがとうございます!!

助かりますm(_ _)m

今日は寝坊して投稿時間が遅くなり申し訳ございません。。。


 血塗れの自分が乗ってはアリアが汚れてしまうと、フローラは自らの足で先頭を駆けながら村を目指し森を抜けていた。

 ボスを倒した後しばらくは“(ゲート)”が開くことはないから安心していいと言われていたが、依然として纏わりつくような何かは漂っており、決して長居したくなるような環境ではない。


 フローラの走るすぐ後ろをイーサンの乗る馬が追いかけているのだが、その目は一心にフローラの背中を見つめており、もうリアムを護衛する気があるのかフローラしか目に入っていないのか分からない状態だ。

 国王が忠誠心で負けたティアに連なる存在であるフローラに敵うはずもなく、リアムは呆れたような溜息をつくことしか出来ない。



 十分も馬で駆ければ森を抜け切り、低い草が生い茂る拓けた空間に躍り出た。この瞬間身体に纏わりつく「生き物を狂わせる何か」の存在がなくなり、爽やかな風がザアァ…と吹き抜けたことでやっと魔の森を抜けたのだと実感する。


 フローラの制止の合図を受け各々が馬を止めると、森の出口のすぐそばに見たこともない建造物がデンッと建っていることに気づく。


「………フローラ、絶対にお前の仕業だろう。あれは何だ?」


 どこかおどろおどろしい森のすぐそばに、この場の雰囲気にまったくそぐわない不自然なものが異様な存在感を放って置かれていれば、リアムはフローラの関与を疑わない。というか阿呆みたいに目立つ場所にこんなものを創ってお前は自分の力を本当に隠す気があるのか?と膝を突き合わせて一時間は問い詰めたくなる。



「これは『おかしの家』だ!討伐のたびに血塗れの状態で村に入るわけにはいかねぇから、ここで身を清めてから家に帰ってるだ」



 そう、そこにはすべてお菓子で出来た、夢のような小さな家がポツンと建っていたのだ。


 全体的に白いのは生クリームを使用しているからだろうか…。その生クリームを接着剤代わりに(?)屋根には大判のビスケットがずらりと敷き詰められ、レンガ柄にアイシングされたクッキーの煙突上部にはふわふわとした飴菓子で立ちのぼる煙を表現するこだわり様。

 家の壁部分はマーブル柄の円形ラングドシャが横向きに配置されており、まるで木々で作った丸太のように見える。

 窓や玄関扉には大きな板チョコレートが用いてられていて、宝石のようにカットされたカラフルなゼリーが随所にトッピングされており焦げ茶一色の扉に鮮やかな彩りを添えている。

 辺りにはお菓子の甘い匂いが漂い、魔物との初めての対峙でそれどころではなかったリアム達の空腹感を刺激してくる。


 だが、気になることが一つ。



「これ食べれる、のか?」


 生粋の王子様なリアムはやはり衛生面が気になるようだ。

 家に使われているお菓子はどう見ても本物でこれらが野ざらしで長期間放置されているとなれば、腐敗や虫の付着、砂ぼこりの汚れなどなど…とうてい口に入れることが出来ない状態になっているはず。



「もちろん食べれるだ」


「えっ!?」


「創造の力で創ったけんど、常に新しく新鮮な状態に作り変わるようにしてるだ。ほら!」


 そう言ってフローラが壁の生クリームを指で掬うと、そんな事実などなかったかのように壁に空いた穴は一瞬で修復された。

 つまりこれはフォンデュの滝のように常にその状態が入れ変わり続けているということかとリアムは納得する。



「じゃあちょっと着替えてくるからお菓子でも食べて待っててほしいだ!」


 みんなに一言告げてからフローラとララは家の中へと入って行く。室内も創造の力をフル活用して創り上げた快適空間となっており、いつでもお風呂に入れるようになっているのだ。


 アリアはいつもならこういう時ふざけて「お手伝いしますぅ〜」なんて言いながら着いて行く素振りを見せララの威嚇を楽しんだりするのだが、今この場でそんなおふざけをすれば最高権力者のリアムや実は一番ヤバいレオ、新たにフローラ信奉者となった筋肉だるまのイーサンにどんな目に合わされるか分かったものではないのでお菓子の家へと入って行くフローラとララを頭を下げて大人しく見送るのみ。アリアの危険察知能力は非常に高い。



 残されたメンバーの興味はもちろん摩訶不思議なおかしの家だ。食の安全性は確保されているみたいなので心置きなく堪能することが出来る。


 まずは毒見も兼ねてトーマスがダイヤモンドカットされたゼリーを一口。


「えっ不味!!」


「……」


 秒で飛び出た碌でもない味の感想にリアムの興味は一瞬でなくなった。


 アリアはこれほど美味しそうな見た目で不味いってどういうことなんだと逆にめちゃくちゃ気になってしまい、チョコレートで出来た窓の一部を割り口に運ぶ。


「え…、なんかうっすい団子?の味がする…」


「どれどれ?」



 イーサンもアリアの横から手を伸ばし、壁の隙間を埋めるように突き刺さっていたウェハースを引っこ抜き味見する。



「……乾パンの味だ、これ…」


 ごりごりの洋菓子の見た目とは裏腹の、携帯食を更にちょっと薄めたような素朴な味がするお菓子達に脳がバグりそうだ。

  

 変な物を口にしてはいけないと幼少の頃より叩き込まれている高貴なリアムとレオ以外の三人が口の中に残る微妙な味のお菓子をモゴモゴと咀嚼していると、家の中から汚れを綺麗さっぱり落としたフローラが出てきた。



「おまたせしただ〜。こっからは村まですぐだで、案内するだ」


「その前に。おい、侍女。この家の菓子の味はどうなってる?説明しろ」


「え?どうかされましたか?」


 見た目と味の乖離にまったく違和感を覚えていない様子のララにリアムは違和感を覚える。



「あ、お菓子は美味しかったけ?小さい頃に読んだ絵本の挿絵を参考にして再現してみただ!」


「あー…。見た目の再現度は非常に高いと思うのだが、味が……な?」


 目をキラキラと輝かせて味の感想を求めてくるフローラからリアムは視線を逸らして言葉を濁す。

 通常のリアムであれば不味いものは不味いとはっきり伝えて相手の心をへし折って意にも介さないところだが、どうもフローラが相手だと少しでも傷付けたくないという感情が働くらしい。



「あ、もしかしてぇ……絵本があるから見た目は完璧に再現出来たけど、実際に食べたことはないから味の再現は出来なかったんじゃ……」



 それだ!!!


 アリアの思いついた内容にリアム達は深く納得する。

 


 それにしても……なんて可哀想な理由なんだ。

 国を護る英雄がラングドシャの味一つ知らないだなんて。


 フローラは王都に出て来て洗練されたお菓子の味を知る機会も何度かあり、今では多少知識は増えたがそれでもまだまだ少ない。

 リアムとレオは王都に帰ったら美味しいお菓子をたらふく食べさせてあげようと決意する。



「??そんなに気に入ったならいつでも食べていいど。もうすぐ日が暮れるからとにかく村に行くべ」 


 二度と食べたくないお菓子を勧められるも曖昧な笑みで躱しつつ、一行はブラウン領唯一の村であるココナ村を目指して馬を走らせた。






***


「………今日の森は随分と騒がしいのぉ〜…」


「フローラ様じゃ!フローラ様が悪鬼どもを殲滅して下さっておるのじゃ!!」


「はて…フローラ様がお帰りになるという日は今日だったけ?…明日でなかったか?」


「おめぇーやっぱりボケてるべ!!御領主様が今日にはフローラ様が到着されると、朝方お触れを出しておられたでねーか!」


「あぁ…、それで今日は森に近づくなっちゅー話しだったべな…」


「っかぁー!!これだからボケた人間との会話は疲れるんだべ!!」



 ココナ村の入り口付近にある切り株を椅子代わりにしながらとりとめのない会話に興じる、まったく同じ顔をした髪の毛の白い老婆が三人。

 ほっぺの肉がだるんと垂れ下がった顔は干した梅のように皺くちゃで、杖を掴む手はプルプルと小刻みに震えている。


 夜の帳が下りようかという頃、地面にランプを置いて切り株に腰掛ける老婆三人の姿は妖怪や怨霊の類と見間違うほどに不気味だった。



「………なんでも、婿殿を連れて来られるとか」


「違うべ違うべ!!フローラ様がお嫁に行くっちゅー話しだ!」


「そうだったけ?フローラ様が若ぇ男を王都から何人か連れて来て村の女どもと番わせるっちゅー話じゃなかったけ?」


「っかぁーー!!なに言ってんだおめぇ!!ボケてれば何言っても許されると思ったら大間違いだど!!

 いいか、フローラ様のお連れ様の前では絶対に失礼なこと言うなよ!!

 なんせフローラ様の将来の旦那様は………この国の王子様だって話しだ」


「「………」」



 姦しかった老婆三人の間に突然沈黙が落ちる。

 

 もう完全に太陽が沈んでしまった今、地面に置かれたランプの灯りを受け暗闇にぼんやりと浮かび上がる婆三人の妖怪顔が怖すぎた。



「……今になって王家の人間がやってくるのか……。一体どうなるのやら…」


「いい頃合いなんでねーの?御領主様やフローラ様を『ブラウン』から解放せねばあまりにもお可哀想だで」


「っかぁーー!!!おめぇの頭はどうなってんだほんとに!!この地に『ブラウン』がいなくなれば明日にでもわたすらは死ぬでねーか!!馬鹿抜かすな、この馬鹿が!!げほげほ!!」


 曲がり切った腰を更に折り曲げ、一番うるさい老婆が興奮した末に咳き込んで死にそうになっている。



「……落ち着け。我らは今までどおり『ブラウン』に従い生きて行くのみ……。―――来なさったど……」



 一番物静かな老婆の遠くなった耳が、かすかに聞こえる馬の蹄の音を拾う。



「よそ者が…」


「ほんに忌々しい!」


「我々は絶対に―――」


「「「『ブラウン』の最後を忘れてはならない」」」


 

 

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