9 祝福その一
「……ねぇ、フローラ。あなた、祝福の力はちゃんとコントロール出来る…のよね?」
アンナが疑いの眼差しを抱き締めている愛娘に向けた。
「実は……ちょっと加減が分からねんだ………」
「「「!!」」」
「わたす怖くて…祝福を授かってからなんも触らねようにしてるだよ」
「「「………」」」
フローラを抱き締めていた三人はスッと離れた。
再び沈黙が落ちる。
「………………検証しましょう」
アンナが据わった目をフローラに向ける。
「ここを超える僻地は存在しない以上、私達はこの国で生きていくしかないの。でも他の人にフローラの祝福を知られる訳にはいかない…。そんなことになればフローラは必ず望まない生活を強いられることになるわ」
アンナの言葉にフローラは震え上がった。
「そうならないためにも、大勢にうまく溶け込む必要があるの。私達はフローラの祝福のことについてもっともっと詳しく知らなければならないわ。……フローラ、試しにこのカップのお茶、飲んでごらんなさい」
アンナの言葉にその場にいる全員に緊張が走る。
だが、確かに検証せねば前には進めないのだ。
フローラは意を決して、目の前に置かれた繊細なカップの取っ手を掴み、お茶を飲もうとすると――――――
「?!?、!!!??」
飲めなかった。
なぜならフローラがお上品につまんだ取っ手部分がさらっさらに粉砕されたからだ。
取っ手をつまんだはずの親指と人差し指を離すと、取っ手だった粉がパラパラ…と落ちる。
「『怪力』ってこういうことじゃなくない!!???」
またまたアンナの絶叫が家中に木霊した。
***
フローラの八つある祝福のうちの一つは『怪力』。
身体の中から湧き出る怪力の力に意識を向けると、「フローラたんに悪さする害虫が湧いて出るかもしれないでしょう?守りは万全に☆害虫は細胞レベルで粉砕しましょうね☆」というティア神の声が聞こえた…気がした。
取っ手の真ん中が指でつまんだ幅の分だけ不自然に消えたカップを前に、四人は対応を協議する。
「こほん、…フローラ、あなた怪力の力を制御出来るようになるまで何も触らないでちょうだい」
「うっ…、わかっただ…」
「ララ、あなたにフローラの監視を頼みます。フローラを一人にするとうっかり何を仕出かすか分かりませんからね」
「え!四六時中フローラ様に密着してお世話する!?なんてご褒美だべ!!」
「そこまで言ってないわ」
どんな状況でもララは通常運転だ。
「それにしても…他の祝福はどうなの?試せないものが多いけど、それ以外の祝福は…私達に影響が出ている感じは……しないわね?」
「んだ。他のは気持ちを込めないと発動しない、気がするだ」
「気がする……?曖昧な感じ、怖すぎるわ!とにかく検証、検証、検証よ!!」
「んだ!!」
それから学園に入学するまでの五年間、血の滲むような努力……はまったくせず、田舎育ち特有の「ま、なんとかなるか」というのんびりした感覚で祝福と向き合う日々を過ごした結果、落ち着いた精神状態であれば祝福の力を制御出来るまでになった。
つまり不完全……。
完全に祝福の力を制御出来ない状態でフローラ一人学園に通うのは不安が残る為、補佐役としてララを伴い王都へ向かうことになった。
本来ララはフローラと共に王都に着いて行くことは叶わず、フローラが学園に三年間通う間、血の涙を流しながらフローラの帰宅を指折り数えて待ち続ける予定だったがそれが一転、侍女として学園内まで堂々とフローラの側に侍ることが出来るようになったのだ!
ララはフローラに規格外の祝福を与えて下さったティア神に心よりの感謝を捧げた。
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