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女神の寵愛を受けた男爵令嬢と受難の日々  作者: ひなゆき


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84 王家の罪


 それからの旅は王家の慣習を理解している高位貴族の領地を主に通ったので、お忍びであるリアム達が声を掛けられることはなく、すこぶる順調に進んだ。


 そして長かった旅も残すところ後一日馬を走らせればフローラの領地に辿り着く、というところまでやってきたのだが、ここらへんはもうすでに都市と呼べるような華やかな雰囲気はなく町や村が点在するだけの地域に入っていたため、今日泊まる場所は今までとはかなりランクを下げた宿屋に決まる。


 町に一軒だけある出稼ぎに来た労働者向けの宿屋にルームサービスなどという高貴な御方向けの食事提供方法があるわけもなく、フローラ達は宿屋の一階にあるガヤガヤと騒がしいビアホールで夕食を取ることとなった。

 こんなところで身分がバレでも危険が増すだけなので、リアムやレオはフードを被ってどこからどうみてもロイヤルな尊顔を隠す。そして侍女を連れている一行など他にはいないのでララやアリアも同じ席に着くことが許された。


 周りのテーブルを見ればリアム達と同じようにフードを深く被った者も多くいたし、ガタイの良い男達がジョッキを傾けて馬鹿騒ぎをしているのでこの雰囲気ならばフローラ達が浮くということもないだろう。



 運ばれてきた料理を食べつつ、フローラは珍しく真面目な顔をして切り出す。


「皆に相談があるんだけども、これからわたすだけ先に出発してまぁまぁ危険な目に遭うか、わたすと行動を共にして命の危険に晒されるか、どちらがいいだ?」


「お前の二択はなんでそんなに物騒なんだよ…」


「フローラだけ先に出発するってこと?そんな危険なことはさせられないよ、もちろんフローラと一緒に行動する。でも、どういうことなの?」


 過去に迫られた二択も碌な内容じゃなかったことを思い出したリアムは呆れた顔になり、レオはフローラに詳しい話を促す。

 ちなみに同じテーブルにイーサンも着いているが、長い旅の中でフローラがなまっていることは早々にバレた。



「“(キー)”が森に入れば“(ゲート)”が開くだ、わたすと一緒に行けば狙われるど?」


「キー?ゲート…? なんだそれは」


「“鍵”はわたすで、“門”は魔の森に勝手に開く、迷惑な扉だ」 


「は?」



 フローラの話は端的すぎてまったく要領を得ず、リアムはララに「お前が説明しろ」という視線を向ける。

 ララは領地が近づくにつれ口数が減っていたのだが今は誰が見ても分かるほどに青ざめており、隣に座るアリアが「ララ先輩?」と心配そうに声を掛ける。



「大丈夫…。……王太子殿下、フローラ様の領地にまつわる歴史をすべてお話致します。

 これから話すことは誓って真実です。過去の貴き御方達のように…信じるか信じないかは貴方様次第ですが」


「…!」



 リアムは今からの話しが、ララが以前言っていた「過去の王家の罪」に繋がる話しなんだと気付きハッとする。

 レオもイーサンもトーマスもアリアも、固唾を呑んでララが話し出すのを待った。




「……フローラ様のお父上であるダン様が治めるブラウン領はおよそ二百年ほど前から度々“厄災”に見舞われております」


「厄災…?こちらへ向かう前、ブラウン領についての資料すべてに目を通したがそのような記載はなかったぞ?」



 よく分からないがとにかく謎に溢れていそうなフローラの領地に向かうにあたり、リアムは事前に下調べをしっかり済ませている。資料とは言っても大した量はなく、税収管理や代替わりの報告書などしかなかったが。



「その当時、流行り病があちこちの領で流行していたそうで、ブラウン領での悲劇も病による死亡で片付けられてしまいましたから…厄災による惨劇はありふれた歴史の中の一つとして埋もれてしまったのでしょう」


「…なにがあったの?」



 大量死があったと推察される内容にレオは真剣な顔で尋ねる。



「厄災が……領地にある広大な森から突如として異形の生き物、魔物が現れたのです」


「魔物?どういった特徴がある生き物だ?」



 騎士団長であるイーサンですら凶暴な野生動物の討伐などの経験はあっても魔物なる生物にまみえたことはない。リアムやレオ達にとっても聞き馴染みのない言葉だった。

 


「魔物とは、おそらく元はどこにでもいる普通の動物達がなにかしらの原因によって様々に変異したもの…だと思われます。魔物の特徴は表皮が黒いこと、凶暴であること、角が生えていること。


 二百年前に起こった初めての厄災で森からその魔物達が大量発生し……その時領民の半分が命を落としたとされています」


「なんだと!?なぜすぐに国に報告しなかったんだ!?」



 今でこそ百人あまりの村人達しかいないブラウン領だが、二百年前だと人口はもっといたはず。その半数が魔物に襲われ亡くなるなど…国を挙げて対処しなければならない案件だ。



「もちろんしました!!ですが……厄災は一夜にして起こり、そして当時の領主様のおかげで早期に収束したおかげで、事態に気付いた者が少なく証言出来る者がいなかった事と、国からお役人の方が来られた時にはすでに何も残っておらず、厄災の話しを信じてもらえなかったのです!

 そもそもブラウン領から王都までどれほどの距離があるとお思いですか?

 当時の領主様が王都まで行くには命懸けの過酷な旅路となったはずです。そしてなんとか王都まで無事辿り着いた後も、突拍子もない話は中々信じてもらえず、役人がやっと重い腰を上げたのは厄災が起きてから三ヶ月後のことだったと記録に残されています!」


「……っ、しかし何も残らなかっただと?魔物に殺されたという民達はどうした?」 



 ララは拳を握りしめ、搾り出すような震える声で答える。



「灰に……。すべて灰になりました」


「……!」



 あまりにも現実離れした話しだったがリアムにはララが嘘をついていないことが分かってしまう。これほど嘘であってくれと思ったことはない。



「……二百年前、領主の話を信じず救いの手を差し伸べなかったことこそが王家の罪だと言いたいんだな…」


「殿下…厄災は今も続いているのです。王家の罪は過去から現在まで脈々と受け継がれているのですよ!」


「!?」



 リアムを責めるかのようなララの物言いに対し、不敬だと咎める者は誰もいない。話を聞いていた者達はみな自然とフローラへと目を向ける。



「魔物は門から出てくるから、わたすが鍵となってその扉を開け、さくっと退治してるだ。

 今回はわたすが春から王都に出て行って門を開けるのが久しぶりだかんな、ちょっと量が多いかもしれないと思って、先に行って片付けようかと思っただ!」 



 これまでの深刻な話をまったく聞いていなかったかのように、ステーキ肉を頬張りながらなんでもないことのように語るフローラの様子に、これは日常なのだ、と……リアム達はあらためて実感させられてしまい戦慄した。


 

「フローラ様!そのように簡単におっしゃりますが、定期的に見廻っていた時だって魔物はゴロゴロ沸いてきていましたよ!

 今回これほどの期間、門を開けなかったのはフローラ様が鍵となってから初めてのことです!ララは心配で心配で…」


「ララは度胸はあるのに変なところで心配症だべな〜。たとえあいつらが何百体現れようとわたすの敵ではねーだ。村に被害は一切出さねぇから心配いらね」


「私はそんなことの心配をしているのではありません!!ララはフローラ様の…フローラ様のことだけが心配なのです!なぜフローラ様が何も知らずのうのうと生きている王都の人間のために命を掛けねばならないのですか!

 あいつらはフローラ様を田舎者だなんだと馬鹿にするばかりで……もう魔物に喰われて全員死ねばいいのよ!!!」


「ララはたまにすごく過激だべな〜。そんなこと言っちゃだめだど?」 



 ララは感情が爆発し王都に住む高貴な人々がいる場で絶対言ってはいけないことを口走るも、それを咎めるフローラの口調はどこまでも軽い。

 そしてリアムはララが零した本音に潜む真実に思い当たる。



『なぜフローラ様が何も知らずのうのうと生きている王都の人間のために命を掛けねばならないのですか!』



 フローラの領地は広大な森の向こう側にあり、必ずその森を抜けなければ辿り着くことは出来ない。

 つまりフローラが()となって魔物を処理しなければ、溢れた魔物は王都を目指し進軍していた可能性があるということ。

 たった一人の少女が担い続けた偉業にリアム、イーサン、レオ、トーマスは呆然となる。

 




 これは……王家の罪だと何百回罵られても甘んじて受け入れなければならない大きな失態だ。

 


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