77 ゴリラどころか化け物だった件
「………で? なんでこいつがここにいる?」
あっという間に迎えた夏期休暇、フローラは約束していたとおりリアムを連れて領地へと帰るため荷物を持って王宮へとやってきていた。
フローラの後ろにはララと、ペット枠として同行を許されたアリア、そして―――
「おはようございます。殿下は本日も目に眩しいほど麗しくいらっしゃいますね」
レオはちゃっかりとフローラの隣をキープしながらリアムに心にも無い挨拶をする。
「………朝っぱらからお前なんぞの顔を見たせいでこちらはまったく麗しくないのだが?」
「そうでしょうか。いつもと変わらぬご尊顔に見えますけども?」
「…っ、お前なぁ…!」
「リアム様おはようございます!レオ様にわたすの領地に遊びに行きたいって言われたんで丁度良かったからお誘いしたんだけんど…駄目だったけ?」
遊びに行くわけではないのだがと言いたいところだが、男二人が飛ばす火花に一切気づくことなくそんなことを宣うフローラの純粋な瞳を見ると何も言えなくなってしまう。これが惚れた弱みというやつなのか…だと言うならば本当に恋心というものは厄介で恐ろしい感情だ。
「………か、構わない。ただしレオにもこちらの決めた予定に従ってもらうからな」
「もちろんです、殿下」
氷点下の眼差しのリアムと口元に笑みを浮かべ余裕の表情を見せるレオ。
対照的な二人の様子にアリアは「面白くなりそう!!」とこっそりテンションを上げる。
今回の旅はお忍びに近いのでリアム側に派手な見送りや仰々しい数の供はいない。
馬車を使わず馬に騎乗し王都から遠く離れたフローラの領地を目指すので、機動力を重視した結果リアムの随行者はトーマスとイーサンの二人だけ。
フローラとアリアは単独で馬に乗れるがララは乗馬の経験がなかったので今回はアリアの馬に乗せてもらうことになっている。
そのため王宮からそれぞれが乗る馬五頭を用意されていたのだが。
「言っておくがお前の馬は用意してないぞ」
「ご心配なく、ここまで自分の馬で参りましたから」
「…ちっ」
リアムは最近自分の気持ちに気付いたばかりなので、自分以上にフローラと親しい仲であるレオの存在に気が気ではない。
レオは同性の目から見ても大層魅力的な男だと感じるのでこちらは余計に追い詰められてしまうのだ。
まず顔が良い。嫌みなほどに良過ぎる。
そして文武両道。頭脳が切れるだけでなく剣を握らせても天才級だなんて、こんな出来過ぎな男は逆に恐いのだが。
そして最も特筆すべきはその素晴らしい人間性。
誰にでも愛想を振りまくようなタイプではないし基本的に無表情を貫いているが他人に冷たいというわけではなく、周囲に困っている人がいればさりげなく手を差し伸べるという細やかな気配りが出来る人格者だ。(レオは他人に近づくことを避けているので裏から手を回して手助けすることが多い)
―――つまりパーフェクト。
身分を取っ払えばただただ腹黒いリアムと聖人レオ、どちらを選ぶ?と聞くまでもなくレオ一択だろう。
だがいくら不利でもフローラを巡るこの戦いには絶対に負ける訳にはいかない…!!とリアムが勝手にレオに対し闘志を燃やしていると、イーサンの大きな声がその場に響く。
「フローラ嬢!久しぶりですな。早速会えるなんて私はとても運が良い!わっはっは!」
「あ…、あの時は助けに?来て頂いて、ありがとうござい、ます」
森の中で一度会ったことのあるイーサンはイルド王国の騎士団総長を務める人物で、今回リアムの護衛として旅に同行すると聞いている。
フローラに誘拐されたという認識はもちろんなかったが、あの時わざわざ探しに来てくれたらしいのでとりあえずお礼を伝えた。
「なんのなんの!フローラ嬢の力を持ってすれば私の助力などいらなかったことでしょう!!
ところで是非一度私と手合わせを…」
「父上!!時間がありませんのでもう出発致しましょう!!」
父親の恥ずかしい脳筋の血が騒ぎ出す前になんとか出発しようと、トーマスは大きめの声でイーサンの言葉を遮る。
イーサンにとって今回の旅の中でリアムの護衛が最重要事項であるのは当然なのだが、他にいくつかある目的のうちの一つはフローラと戦ってみたいということ。
イーサンの「純粋な戦闘力の高さを知ることが出来る」祝福を持ってしても、実はフローラの強さについて正確に把握することが出来ていない。
初めて森の中で出会った時、賊と勘違いしたイーサンはフローラを殺すつもりで攻撃を仕掛けたがあっさりと避けられてしまった。
イーサンの祝福は戦闘力を色で識別しているが、あの時のフローラの色は水色。戦闘力としては最弱の色だった。
だから避けられたのは偶然かと思い、リアムにトコトコと近寄る女にすぐさま次の攻撃の動作に入ったのだが―――その瞬間彼女の色が黒に染まったのだ。
あまりにもドス黒い漆黒の色に、無意識の内に恐れを抱き身体が一瞬硬直してしまうなど初めての経験だった。
すぐにリアムから賊ではなく捜索対象者であると声が掛かり事なきを得たが。
あのまま二度目の攻撃に入れば殺されていたのは間違いなくこちらの方だった。
このことは忠誠を誓った国王にも古くからの旧友であるジョージにも、誰にも伝えていない。
ただの十五歳の女の子が騎士団総長である自分を遥かに越える化け物級の戦闘力を身に着けているなど公にすべきではないと判断したからだ。
戦闘色はざっくりいうと水色、青色、紺色、青紫色、紫色、赤紫色、赤色に分けられていて、青から赤になるにつれ戦闘力は高くなる。
そう―――黒色はグラデーションに存在しない色だ。イーサンですら鮮やかな赤色止まりだし、そもそもフローラに出会うまで黒色持ちが存在することすら知らなかった。
イーサンは馬に寄り添いその顔を優しく撫でるフローラを横目でチラと確認する。
現在のフローラの戦闘力を表す色は薄い水色。
一般的な貴族女性の色と同じくらいの、つまり軽く突付けば倒れるほどの弱さだ。
この水色が一瞬にして黒に昇華するところを己の目で確認したイーサンが推測するに、フローラはおそらく自分の強さを上手く隠し敵の油断を誘っているのではないだろうか。おそらく無意識の内に。
本来、気を抜いているからと言って戦闘力を示す色は変化したりしない。
寝ていても戦っていても何もしていなくたってその人の持つ色は常に同じで、フローラのように水色になったり黒色になったりと変化させることはやろうと思って出来ることではないのだ。
この事象を口で説明するのは難しいのだが、強いて言うならば戦闘力の緩急の付け方がえげつない、だろうか。
イーサン以外の者に正確な戦闘力の強さは分からなくとも、滲み出る覇気や身体の動かし方で強者かそうでないかは分かる者には当然分かる。
だがフローラは戦闘力を最弱から最強の間で自由自在にコントロールすることで、自分の強さを周囲に悟らせないようにしているのだ。
これについてはじっくりとフローラに話を聞いてみたいと思っている。あわよくば自身の戦闘力を変化させるコツなんかを教えてもらえないだろうかと期待した。
各々が馬に跨り出発の準備が整ったところでリアムが全員に聞こえるよう声を掛ける。
「今日はライズ子爵領を目指す。夕暮れまでに辿り着く予定だ。子爵に訪問を伝えると歓迎を受けることになり面倒だから、秘密裏に領内に入り適当な宿に泊まる。そして今回の旅における隊の順列だが…」
道中は祝福的にも物理的にも一番強いフローラを先頭に持ってきて警戒・対処に当たらせるのが妥当だろう。しかし―――
「わたすが先頭を走るだ。その方が全員を守りやすいべ」
「…」
リアムもそれはそうだろうなと思っている。思ってはいるのだがイーサンの心情を考えれば、王国一最強の男をただの小娘が「守る」とほざいてるわけで、とても許容出来る内容ではないだろう。
ここは穏便に行こうと、リアムがフローラに後ろに下がるよう伝えようとしたところ―――
「それが一番いいでしょうな。先頭をフローラ嬢、次に私、リアム様、アリア嬢、アンダーソン子息、殿をトーマスに致しましょう」
「え!? いいの、か?」
「? もちろんです。私の仕事はリアム様を無事に王宮へと帰すこと。そのための万全の布陣に文句をつけることなどあり得ません」
なんとイーサンがフローラを認め先頭を譲ったではないか。
トーマスからイーサンがフローラと手合わせをしたいと言っていることは聞いていたのだが……正直、フローラにそこまでの戦闘力があると思っていなかったリアムはちょっとひいた。
祝福の力だけでも手に負えないというのに、祝福は一切関与していない戦闘力だけを見てもイーサンが認めるほどの実力があるとは……結婚したら絶対尻に敷かれると思考があらぬ方向へ脱線しかけるが、今はこんなことを考えている場合ではないとリアムは慌てて首を振る。
「ではその順番で。出発!」
リアムの号令を受け待ち切れなかったフローラは勢い良く馬を走らせる。
千里耳で悪意を持った人間が近くに潜んでいないか常に探りつつ、もし何かあってもフローラの戦闘力と祝福の力を持ってすればいくらでも対処出来るので、王族が随行する旅でこれほど安心感のある安全な旅路も珍しいのではないか。
風を切って先頭を走るフローラはご機嫌だ。鼻歌交じりで余計なことを暴露する。
「初めて一人で乗ったけんど、馬で走るのってこんなに楽しいんだべな〜〜!!!」
「はぁ!!?なに言ってんだお前!!」
浮かれきったフローラの言葉に後方のリアムからすかさず突っ込みが入った。
お読み頂きありがとうございます!! どのような評価でも構いませんので広告の下↓にある【☆☆☆☆☆】から、 ポイントを入れてくださると嬉しいです!




