7 ティア神との邂逅②
だがすぐにフローラは、一目惚れと聞いて申し訳ない気持ちになった。
「ティア様…こんな格好してるけ分からんかったかもしれねけど、わたすは女だ。紛らわしい格好さしてすまねかっただ…」
短い髪の毛にシャツとズボン。どこからどう見ても、紛うことなき男の子だ。
ティア様はわたすを男の子だと思ってお声を掛けてくださったのに勘違いさせてしまっただ……とフローラはひどく落ち込んだ。
「フローラたん、貴女が女の子であることなんて最初から分かっているわ。私が一目惚れしたのは容姿ではなく、あなたの魂によ」
「魂……?」
フローラは目をパチパチとさせた。
魂に一目惚れするなど聞いたこともないが、神々のレベルになると守備範囲が広いというか…、愛の規模がとてつもなく大きくなるのだろうか。
「素敵……。間近で見るフローラたんの魂はなんて美しいのかしら…。この世に存在するどんな宝石よりも輝いている」
麗しい女神に恍惚とした眼差しで見つめられ、フローラは嬉しいやら恥ずかしいやらで顔が真っ赤になった。
「そんな…恐れ多いっぺ。それにどんな宝石よりも輝いてんのはティア様の瞳の方だべ」
「まぁっ!!嬉しい!お揃いですもの、ね?」
「?」
フローラはお揃いってなんのことだべ?と聞こうとしたが、ティアが「ごめんなさい、今はあまり時間がないの。とりあえず祝福を授けるわ」と言ったので慌てて口を噤む。
ティアが身をかがめ、フローラのおでこに優しく口づける。その際、ティア神の絹のような髪がフローラの頬をサラサラとかすめ、そのくすぐったさにフローラは口をもごもごとさせた。
「愛しい子よ。これであなたも祝福を授かりました。使い方は分かるわね?」
ティア神が厳かに、でもどこか興奮を隠しきれていない様子でフローラに告げる。
「え…………………」
与えられた祝福がどのようなものなのか誰に教えられずとも授かった瞬間から、ずっと自分の力であったかのように理解し使いこなせる。
祝福とはそういうもの。
だからフローラは自分の身に宿った祝福の恐ろしさを瞬時に理解した。
「ぇ、え、え………なんだっぺ、これ………??!??」
遅ればせながらこれはもしや大変な事態なのでは!?と気付いたフローラは青褪めるが、対象的にティアは満面の笑み浮かべて大興奮している。
「やったわぁぁぁ!!!私の力のほとんどをコピーしてフローラたんに与えたしマーキングもしたから他の神々は絶対に手を出せないっ!!フローラたんの生涯を見守り支えるのは私だけの特権よ!!!ほーほっほっほっ!!!」
「!?」
急に白い空間とティア神の存在が薄れ始め、フローラは本能的にこの不思議な時間が終わることを悟る。
「待ってけろぉ!!ま、マーキングって、なんのことだっぺ!??」
とりあえず不吉な単語、マーキングについて教えてもらわねば安心して夜も眠れない。
フローラはもうあと少しで消える…というくらい存在が薄くなっているティアに向かい、大声で尋ねた。
「マーキングはね、あなたの瞳を私と同じ虹色にしたことよ。これで誰が見てもフローラたんが私の愛し子であることは一目瞭然っ♪イルド王国のみならず、この世界の頂点となり新たな女神として君臨するのもフローラたんの自由よ! 私は………で、 たまに………ラたんの………… … ……… 」
「えーーー!!??なんだっぺ〜〜〜!!!??」
最後めちゃくちゃ大事そうなところが聞こえてねぇだぁ!!とパニックになったところで、自分が村の教会で膝をついていることにハッと気付いた。
後ろで「ちゃんと訛らずに祈りを捧げられてよかったわ」と安堵している母の声が聞こえたので、時間軸は祈りを終えた後だと分かる。
先ほどのティアとの時間は一瞬にも満たない間の出来事だったとでもいうのか。
フローラは顔を上げないようにしながら横目であちこち確認してみたが、ティア神もあの不思議な白い空間も、どこにもなかった。