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女神の寵愛を受けた男爵令嬢と受難の日々  作者: ひなゆき


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68 枝分かれした未来 sideイアフス

前半イアフス視点です。


 このままではティアの世界は崩壊するだろう。



 ティアは少々性格に難のある女神だが、意外と慈悲深いところもあるし基本的に無駄な殺生は好まないので、自分の世界が消滅しそこに生きとし生けるもの達が死に絶えればきっと心を痛める………はず、おそらく……、たぶん……。



 いや、ティアは初めて自分の世界にフローラという特別な愛し子を見つけたのだ、その愛し子がいる世界を崩壊させたとなれば必ず後悔するだろう。



 しかしティアの説得は失敗してしまった……。



 このままではフローラが十歳を迎えた時、神の力に等しい祝福を与えてしまい、そうなればルルーシュは愛し子の存在に嫌でも気づくだろう―――自分よりも遥かにティアに愛された存在(フローラ)に。



 幸いなのは、ルルーシュはちょうどその頃スリープ期に入っているということ。



 世界を滞りなく存在させるには膨大な神力が必要となるため、ルルーシュは数年単位で活動期とスリープ期を繰り返し体力の回復・温存に努めている。


 他の世界の神獣達は愛し子の力を借りれることもあり、何十年、何百年単位で活動期とスリープ期を繰り返すのだが、ルルーシュは一人で世界を護っているので寝てばかりもいられない。



 一度「たった一人でティアの世界を護り続けて辛くはないのか?」とルルーシュに尋ねたことがある。



『わたしの幸せはティア様にお仕えすること。ティア様に褒めて頂くこと。ティア様のお役に立っているのだと実感出来ること。

 わたしにしか出来ぬ仕事を与えられ、なにをツライと思うことがございましょうか!!

 ティア様は一度も会いに来ては下さりませんが………それはわたしを信頼してのこと。

 ティア様のその御心に報いることが出来るよう、わたしのすべてを用いてこの世界に繁栄をもたらし続けましょうぞ!!』



 ……言えない。


 ティアは神獣のことを都合の良い駒程度にしか思っていない、などとは絶対に言えない。

 もう私に出来ることは―――フローラの存在をルルーシュに隠し通すことだけ。


  


 私は秩序を守る神であり、その能力の本質は『平等』―――私の前では強いも弱いもなくなる。つまり他の神々の力を一定のラインまで抑制することが出来た。



 ティアと出会ったきっかけも私の『平等』の力を求めてのことで、強すぎる己の力を制御出来ずにいた幼いティアを心配した御両親によって、私とティアは引き会わされた。


 ティアは私の側にいると力が抑制されるおかげで神力を暴走させてしまうことが減り、段々と制御の仕方が理解出来るようになってきたと大層喜んでくれて……あの頃のティアは純真無垢で本当に愛らしかった。


 いや、昔の話は今はいいとして―――私の持つ『平等』の力を、フローラと近しくなるであろう人間に守護として与えれば、フローラの祝福の力をかなり抑えてくれるのではないか?


 そしてあわよくばいずれ結婚をして生涯に渡りフローラの力を抑え続けてほしい。

 先に死なれては困るから頑丈な身体と永い寿命も与えなければならない。


 ルルーシュはそろそろスリープ期に入りそこからおそらく五、六年で目覚めるはずだから、その頃にフローラの近くにいて未来を共にする可能性が一番高い人間を見つけなければ。


 


 私は神々の世界を監視するという仕事柄、多少の干渉は許されているので、フローラという少女の未来を少し視るくらいならば問題はない…はず。


 未来視が得意な女神もいるのだが、他の者がこれをやれば処罰の対象になりえるので誰も手伝ってはくれないだろう。 

 かなりの神力を消耗してしまうが、一人の人間の未来を視るくらいならば私にも出来る。全身に神力を張り巡らせるとフローラの未来視を行った。




「―――っ、はぁ、はぁ、はぁっ…!!!」


 一応視れた……が、選択肢をそこまで絞り込むことが出来なかった……。



 神の寿命と比べれば人間の一生はほんの刹那とはいえ、様々な要因で複雑怪奇に絡み合う線は無限に絡まり、とうていフローラの終着に辿り着く正解を掴み取れるわけもない。


 湖面に張った薄氷を踏み付けると細かいひび割れがいくつも出来るように、人間が人生という己の道を一歩歩むごとに地面から無数の線が伸び分岐していく。

 

 そのすべての線の先には未来があり、どの線に進むかはその時のフローラが取った行動や周囲の影響で決定される。だから今未来視をしたところで、この瞬間から未来はどんどんと変わっていくのだ。


 無限に存在する未来からフローラがこれから辿るであろう一本の道を確定するなど、たとえ神であってもほぼ不可能。

 だから私に出来たのは彼女の未来によく出てくる登場人物の把握くらいだ。


 私の守護は同性にしか付与出来ないという縛りがあるため、誰に付与するかは真剣に吟味しなくては…。



 領地の人間は除外しよう…フローラは十五歳で進学のため王都に行くのだから。

 それにすでにティアの祝福を授かっている男も駄目だ。神々の力を抑える能力を持つからか私の守護とティアの祝福はどうしても反発し合う。



 ならば………この少年なんてどうだろうか。



 この少年とフローラが夫婦となる未来をいくつかの線の先に視たので、その未来を選び取る可能性は十分高いといえる。

 守護を与えるのならば、少年がまだ祝福を授かっていない今このタイミングしかない。





 イアフスは罰を受けると承知の上でティアの世界に降り立ち、一人の少年のもとへと転移した。



 夜も深まった時間帯だったので、少年―――レオはベッドでぐっすりと眠っているし、念の為イアフスが時を止めたので起きて騒がれる心配もない。


 枕元に立ち見下ろしたレオの顔は中々に整っている。この顔ならばフローラもきっと気に入るはずだ。



 時を止めた時点で過干渉の判断を受け、いつ罰が下るか分からない…そのためイアフスはすぐにレオの額にそっと手を当て、自身の持つ守護の力を与えた。



「…、ぐっ…、…」

 

 見つかったか…っ!! …身体が、焼かれるように熱いっ……この罰は、……っ、肉体を取られる!!?



 地上で肉体を喪えばいくら神と言えども精神を保てなくなるかもしれない…と、イアフスは最後の力を振り絞り天界へと転移した。



 どうか私の望んだ未来へと進んでほしい、と願いながら―――ここでイアフスの意識は一度途絶えた。




 そしてイアフスはティアが会いに来て神力を注いでくれるまで、精神体の状態でふよふよと天界を彷徨うこととなる。







***


「――――つまりイアフス様のお話をまとめると、私はフローラの側にいてその祝福の力をルルーシュ様から隠すために守護を賜った…ということですか?」 


 レオは手をぎゅっと握りしめつつ、自身の膝に鎮座するくまのぬいぐるみに…イアフスに尋ねた。

 己の手をきつく律しなければ、ついふわふわの頭をなでなでしたくなってしまうのだ。



「そうだよ。君がいちばん可能性がたかそうだったからね」


「そう、ですか…」


 それを聞いたレオはなにやら納得…というか満足そうに頷いているのだが、フローラにはそんな理不尽な仕打ちはとうてい受け入れられない。

 


「なんだべそれ!!レオ様はわたすのせいでティア様から祝福を授かれずにずっと辛い思いをしてきたってことだべ!?

 この世界のためだからと言ってレオ様の人生をめちゃくちゃにする権利はイアフス様にだってねぇはずだ!!」



 レオに魅了の力で得た情報を伝えた時、真実を知ることが出来て良かったと、呪われていなかったのだと泣いて喜んでいたのに……それほどまでに苦しんできた日々が、自分のせいでイアフスに目をつけられてしまったからだなんてと、フローラは憤りを隠せない。



「フローラ…」


「フローラ様…っ」


 ララは珍しく取り乱すフローラを慮り背中をさすりつつその身体を支える。




「……たしかに、この国でティアから祝福を授からないということがどれほどおおきな意味をもつのか、わたしには計り知れない部分があった。

 わたしが守護をあたえてしまったことでレオに負担を強いてしまっていたならば謝罪しよう」


 イアフスはレオの膝の上にスッと立ち上がるとペコリと頭を下げた。



「イアフス様っ、そのようなことをなさらないで下さい!私は貴方様を恨んではおりません。だからフローラも…そんな顔しないで?」


「っ、でも……」


 フローラは顔面に力を込めないと泣きそうで、搾り出すような声しか出ない。




「私はイアフス様に守護を頂けて心より感謝しております。

 それに、イアフス様が視たという未来の可能性は私にとっての福音ですから」


「レオ様…?」


 レオがこちらを見ながら満面の笑みを浮かべそのようなことを言ってくるが、フローラには意味がよく分からない。



「あと…イアフス様と触れ合ったことで初めて気付いたのですが……私には守護だけでなくイアフス様の御力も少し…与えられています、よね?」


「?」


「そうだね。レオには天界基準で頑丈なからだと、人間にしては異常にながい寿命、それに時をとめる力もあたえてしまったようだ」


「えーーー!?!!?レオ様、それ人間やめてるべ!?」


「フローラにだけは言われたくないかなぁ」


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