6 ティア神との邂逅①
「いいいいいい一旦おおお落ち着きましょうっ…」と一番落ち着いていない母親に諭されたフローラは、テーブルに置かれたお茶のカップを眺めながら、祝福の儀で起こったことをゆっくりと話始めた。
ちなみに、フローラの膝に頭を乗せて寝かされているララはまだ気絶中だ。心なしか嬉しそうな顔をしている。
「祈りを捧げっと、なんか周りが急に真っ白になって、どうしただ?と思ってキョロキョロしてっと……目の前にティア様が立ってたんだべ」
「「…!!!」」
どこまでもどこまでも白い空間に突如現れた、彫刻のような冷たさを孕んだ美しい女性。
フローラは初めて見るこの世のものとは思えない美しい人を、ぽかんとしながら見上げることしか出来ない。
背はすらりと高く、軽くウェーブした豊かな金色の髪は床に届くほど長い。
装飾品は一切付けておらずAラインの白いシンプルなドレスを纏っているのみだったが、滲み出る高貴なオーラのせいなのか、どこもかしこもキラキラしたゴージャスな装いであるかのように見えた。
なかでも一番キラキラと輝いていたのはその虹色の瞳。
何色もの色が角度によって現われては消え、何色の瞳ですか?と聞かれてもすぐには答えられない。
とにかく綺麗で目が離せなくて、フローラは美しい人の瞳をじっと見つめた。
すると、冷たい印象だった女性の顔は突如笑み崩れ、頬に手を当てたかと思うとくねくねと悶絶し始めた。
「はぅ〜〜〜〜〜〜ん!!!可愛いぃぃ〜!!!!!たまんないわ!フローラたんんっっ!!」
「???」
「ふ、ふふふ…間近で見るとなんて破壊力なの…。ああっ、すごいすごいすごい!!!」
美しい人は凛とした「孤高の存在です」感を出していたのに、急に産まれたての赤ん坊を可愛いがる近所のばば達のようにデレ出した。
「えっと…ここはどこだべ?貴女様は誰け?」
美女の高低差の激しいギャップに驚きつつもフローラは気になっていたことを尋ねた。
この後はルナさんのお店でお祝いしてもらう予定なのだ、ここがどこかは分からないが早く戻らねば。
「あぁ、ごめんなさいね、私としたことが…。私はティアよ。あなたに祝福を授けるため、あなたの精神世界に少し干渉させてもらったの」
「ティ、ティア神…様…!?」
フローラは目玉が飛び出るかと思うほど仰天した。
じーさん作のティア神像と目の前のティア神の姿があまりにも別物すぎて、目の前の人物がティア神だと気づけなかったフローラは、慌てて膝まづき両手を組んで祈りのポーズを取った。
母様も父様も、少し前に祝福の儀を済ませたララだって、祝福の儀の際にティア神様とお話することが出来るだなんて教えてくんなかったど、とフローラは心の中で少しプリプリしてしまう。
「いいえ、フローラたん、違うのよ。私がこのように姿を現したことなど一度だってないわ。フローラたんだからこそ理をねじ曲げたの」
「……?(フローラたん?)」
「私はね、あなたに一目惚れをしてしまったのよ」
「???」
ティアはきゃっ、と頬に手を当て万人が見惚れる可愛いらしい仕草で照れたが、フローラには益々意味が分からなかった。