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女神の寵愛を受けた男爵令嬢と受難の日々  作者: ひなゆき


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57 戦闘ゴリラ


 寝室から場所を移動してトーマスとララも加わり、フローラの祝福について認識のすり合わせを行うことにした。


 昨夜の内に用意されていたドレスはさすがに一人で着ることは出来なかったので、今はララがフローラの身支度を手伝っている。

 リアムとトーマスは寝室の隣にある私室でフローラの準備が終わるのを待つ間に、リアムが知り得た情報をトーマスと共有した。



「え、祝福が八個………?あの眼鏡はブラウン嬢が作った……?しかも虹色の瞳は祝福とは関係ない、ですって……?


 リアム様……意味不明すぎて私の頭はパンクしそうです………」


「気持ちは分かるが気をしっかり持て。おそらくフローラの祝福は一つ一つが国を滅ぼせるレベルで強大だ。内容をしっかりと把握しどのような対策を打つか―――」


「お待たせしました」



 リアムとトーマスが話し合っていると準備を終えたフローラが入室してきた。


「遅かった、な……………!?」


「え!女神!?」


 振り向いたリアムとトーマスは度肝を抜かれる。



 なぜなら―――レースのリボンが所々にあしらわれたクリームイエローのドレスを身に纏い、サラサラの髪の毛をサイドで緩く編み込んだ虹色の瞳の乙女が淡く微笑んでいたから。

 人ならざる神秘的な瞳もさることながら、眼鏡なしの本来の愛らしい顔立ちに戻ったフローラが着飾った姿に二人の男はしばし見惚れる。



「リアム様?どうなさいまし、たか?」 


「っ、いや、なんでもない」


 リアムは赤くなったであろう顔を隠すためフイッとフローラから目を逸らす。トーマスは別人級の変貌を遂げたフローラをガン見している。


 フローラの一歩後ろでそんな男二人の様子を見ていたララはどこか誇らしげだ。


 誰よりも愛らしくそれでいて心身共に強い自慢の主が何も知らぬ有象無象の輩共から地味だ不細工だと馬鹿にされること、ララは本当に我慢ならなかった。


 リアム達だってそちら側の人間だ。


 フローラの価値に気づけなかった愚か者達にその真価を見せつけてやったと、ほんの少しだけ溜飲を下げる。

 


 フローラはララが引いてくれた椅子に腰掛けると話し出した。


「えっと、祝福の内容に、ついてです、よね?話したら帰ってもいい、ですか?」 


「すぐに帰ろうとするな、せめて夜まではいてもらう。さっきのジョージがまた話しを聞きにやってくるからな。

 それと…もう普通に話せ。辿々しく話されるより訛ってる方がまだマシだ」


「ほんとけ?助かるだぁ〜〜!リアム様って案外いい人だっぺなぁ!!」


「………」


 美しい見た目と泥臭い喋り方のギャップが激しい。

 黙っていれば歳若い女神と言って差し支えないのに……黙ってさえいれば。



「………。んんっ。では、ブラウン嬢。八個の祝福内容についてと、昨夜ウィルソン嬢と何があったのか教えて下さい」


 気を取り直したトーマスに促されフローラは口を開いた。










***


 リアムとトーマスが新たに知った真実はこうだ。



 フローラは八個の祝福を授かっていて、その内の六個は『怪力』『創造』『言霊』『魅了』『千里耳』『癒し』であるということ。そしてその内容。



 あと二つある祝福は「人間をやめるつもりはないので今後も使うつもりはない、よって教えない」と言われたこと……。

 リアムとトーマスは賢明にも黙って頷く。(教えられた六個の祝福ですらすでに人が手にして良い力の範疇を優に超えているというのに、それらを超える力がまだあるだなんて思いたくないという現実逃避の心理が働いた)



 祝福の儀でティアに出会ったこと、虹色の瞳はマーキングのために与えられたこと。

(この話を聞かされたトーマスは驚き過ぎて椅子から転げ落ちた) 



 そして昨夜は寮部屋への侵入者に気付いていたが目的が分からなかったため、ララを囮にして敵を泳がせ真意を探ろうとしたこと。

 侵入者達はアマンダの差し金だと分かったが動機がいまいちよく分からなかったことなどを話した。



 誘拐事件について、「痴情による私怨、完全なる逆恨みであって、殿下の身辺整理の詰めが甘さが招いた結果です。こちらはとばっちりもいいところですわ」とはララ談だ。

 





 話を聞いたリアムがまず思ったことは、フローラはやはり有用な人間であるということだ。


 神に等しい力を手に入れたにも関わらずその力を悪用することも自身の力に溺れることもなく、慎ましく暮らそうとする思慮深さがある上に、突発的に起きた事柄への対応力の高さは十五歳の少女にしては異常だと言える。

 場慣れし過ぎているというか…平和ボケしたフローラの領地で培われたとは到底思えずリアムは首を傾げた。



 そしてトーマスは話しを聞く中で浮かび上がった疑問点を尋ねる。


「ララさんは馬車で拐われたとして…ブラウン嬢はどのようにしてあの場所まで向かったのです?かなり遠かったと思いますけど。それに正門を通っていませんでしたよね?ブラウン嬢が学園の敷地から出たという記録は残されていなかったのですが…」


「もちろん走って追い掛けただ。そんな遠かったけ?大した距離でなかったけんど。

 あと正門さ通るとチェックが厳しいかんな、塀を越えて外に出ただ」


「………………。えっと、その能力はどの祝福の力に当てはまるんですかね……?」


「?? こんなの祝福でもなんでもねぇだ」


「「………」」



 リアムとトーマスの「どういうことか説明しろ」という無言の圧を感じたララは一度ため息をついてから話し出した。


「…フローラ様は祝福の儀以前の幼少の頃より卓越した身体能力をお持ちでした。七歳の時、わたくしの祖母のために一人でカラコロ草を取って来て下さったほどに」


「はぁ!?」


「えっ、カラコロ草って…なんです?」


 リアムは驚愕し、トーマスはカラコロ草の存在を知らず困惑する。



「…カラコロ草とは別名であり本来の名は枯蘭草(こらんそう)という。

 枯れた葉の中心部が鈴のように見えることからそう名付けられた薬草で、咳を鎮め呼吸を楽にしたり身体の痛みを軽減する鎮痛効果があったりとその有効性は極めて高い。栽培に適した環境が少なく元から希少ではあったのだが高い効能ゆえ乱獲された過去があり今では絶滅した種に指定されている、はずだが……」


「カラコロ草はお隣のアンプリスの山頂にちょこっと生えてるだ。土さ耕して肥料も蒔いといたから今頃は多少増えてるはずだべ」


「それ完全に不法入国だろ…。

 それに肥料を撒いたところでオーリアの霊山アンプリスに登れるやつなんてお前以外にいないだろうから枯蘭草は幻のまま歴史から消えるだろうな…」



 隣国オーリアにあるアンプリス山は、天気が変わりやすい地形のせいで雷を伴った激しい雨が常に吹き荒れており、入山した人間に幻覚をみせて彷徨わせてしまうなどという噂まで存在する難攻不落の過酷な山だ。

 天候や不思議な力を操りいかなる者の入山を拒むその雄大かつ厳かな佇まいに、いつしかアンプリスは神々の住まう神聖な地、霊山として名を馳せるようになった。

 ……そのアンプリスに不法入国の上勝手に登頂し希少な薬草を引っこ抜きあまつさえ肥料を撒き土を耕すなど…普通の精神の人間なら決してしないことを当時わずか七歳の少女が行った、と……。



 国際問題に発展してもおかしくない案件だったのでリアムは聞かなかったことにし、ざっくりとまとめた。


「とにかく、フローラの身体能力は生まれつき高いということだな」


「はい。フローラ様は自身が特別だと認識されていませんがその能力は人間離れしているかと」


 ララだってフローラの側にいる為に血の滲むような努力をしているし、厳しい鍛錬を欠かした日は一日もないのだが、体力も戦闘力も瞬発力も何もかもフローラの足元にすら及ばない。



「…先ほどまで父上のところにいましたが『戦闘ゴリラ』と手合わせがしたいと頻りに申しておりました……。あれはそういうことだったんですね……」


「え?ゴリラ?」


 トーマスが呆れたように発した言葉に動物大好きなフローラがすかさず反応する。

 


「なるほどな…」


 リアムは口元に手を当て思案する。

 トーマスの父であるイルド王国騎士団総団長イーサンの祝福は『純粋な戦闘力の高さを知る能力』だ。



 戦闘力と言ってもその内容はとても一言では語れないが、イーサンの祝福は戦略を練る知能や闘い続ける持久力、物理的なパワーや相手の動きを先読みする思考や攻撃を避ける瞬発力などすべて総合した相手の強さをはかることが出来るので、脳筋のイーサンにぴったりの祝福だろう。

 そんなイルド王国最強と謳われる男に戦闘ゴリラと言わしめ手合わせを請われるなど、フローラの戦闘力の高さが伺えるというもの。

 普通に脳筋だるまと戦闘ゴリラを戦わせてみたいという欲に駆られたが、今はそれどころではない。




 何事も偽りには少しの真実を混ぜると人を欺きやすいもの。

 リアムは口元に手を当てジョージをやり過ごす為の策を思案し始めた。

 

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