56 とことん利用しよう☆
「つまり……………その眼鏡はお前が作ったもので、“女神の落とし物”ではない…………と?」
「はい」
「無から有を生み出す力………とでもいうつもりか………?
俄に信じられる話ではないな……。
いや、実際に眼鏡が透明になったり分身を出すところを目にはしたのだが………それにしたって荒唐無稽過ぎるだろ……」
ジョージが退出した後リアムはフローラとベッドの上で膝を突き合わせ、諸々について事情聴取をしていた。
昨夜の誘拐……事件についても話を聞かなければならないが、まずは「眼鏡について把握する」一択だ。
なにせ夜にはまたジョージが戻ってきて今度こそ眼鏡のすべてを暴くつもりでいるのだから。
そのためフローラが眼鏡を手にした経緯や付与した能力の詳細、表向きにどのように説明するかの設定について事細く打ち合わせる必要があった。
そして話を聞いた想像を遥かに超える凄まじく強大な祝福の力の内容に気が遠くなったリアムの目はどんどんと据わり、男女が同じベッドの上にいるというのに色っぽさの欠片もありはしない。
「その…………虹色の瞳はどうした?生まれつき…というわけではないんだろう?」
リアムは色々と気になることが多いフローラの生態の中で、とりあえず今一番気になっていることを尋ねた。
「瞳は祝福の儀で授かり、ました」
「祝福の儀で…………?つまり、お前はの祝福はその虹色の瞳そのものということか…?」
「いえ、祝福に瞳は関係、ありません」
「ないのかよ!!ティア神と同様の瞳を授けられておいて祝福と関係ないっておかしいだろ!!」
ちっとも進まない話にリアムがイライラし出すが、虹色の瞳はティアがつけたマーキングにすぎないのだからフローラも嘘はついていない。
「そもそも、お前の祝福は人を操る能力のはずだろ…?物を生み出す能力とは別物のはず………。
それに、まだ一つ何か隠してた、よな……………?
……っ、フローラ…お前は祝福をいくつ授かった?」
祝福は一人に一つ授けられるというのが普遍の真理である以上、リアムがフローラに投げ掛けた質問は本来であれば意味のなさないものであるはず、だった。
「八個です」
「は、 ち 個……………………………」
フローラという少女に関わると自分の中にある常識がガラガラと音を立てて崩れていくようだ。リアムはあまりの事態に一瞬思考停止した。
一方、なぜフローラがこんなにも自身の秘密についてリアムにあっさり話すのかというと、ある心境の変化があったからだ。
それは―――もう、色々と面倒くさくなってしまったのだ。
ララがいなければ今みたいにうまく立ち回ることも出来ないし、知らない内に眼鏡を取られて素顔を見られたり、運悪く眼鏡の価値に気付く人に出会ってしまったりもする。
何かあるたびに祝福を必死に誤魔化し、身分の高い人達とやり合わなければならないのか?
そんなのは絶対に嫌だ。毎日をもっと気楽に過ごしたい。
そう思った時に、リアムが面倒事はすべて引き受けるし誰にも祝福がバレないように上手くやる、だから俺を信じて全部話せと言ってくれた。(そこまでは言っていない)
ララには王家の人間に祝福の事を教えるなと言われていたが、それなりに(?)権力のあるリアムがフローラの味方になって一緒に秘密を守ってくれると言うのならば話は別だろう、きっと!
そう判断したフローラはリアムに色々とぶち撒けていくことにしたのだった。あとは話を聞いたリアムが対策を立てるなりなんなり、好きに全部やってくれればいい。
つまり、フローラはリアムに面倒なあれこれをすべて丸投げすることに決めた。
「リアム様、後は、お任せして、わたくしは帰らせて頂いても?」
「阿呆か。いいわけないだろ…」
リアムのツッコみからどんどんキレが失われていくのも致し方ないことだろう。
明らかに一人で抱え込んでいい問題の範囲を越えている。
「なぁ………。お前はそれでいいのか?
ティア神に虹色の瞳と八個の祝福を与えられるなど…お前は選ばれた特別な存在であることは間違いない。
神にただ愛されるだけでいいのか?与えられた力には役割が、なにか使命があるんじゃないか?
その使命から目を逸らし、力を隠して生きて行くことはティア神の意思に背くことにならないか?
お前が望むのならば王家で庇護し、多少窮屈にはなるかもしれないが本来の姿で過ごせるようにしてやれるぞ…?」
勝算は低いかもしれないが…とリアムは一応フローラに説得を試みる。
八個の祝福の詳細は後で聞くとして、一つ一つの祝福の力がこれほど強大であるならば王命を出して言う事を聞かせようとするのは悪手であり、フローラ自ら王家の助けを求めるよう穏便に話を進めるのが最善であると判断した。
「使命?そんなの、聞いてない、ですし、眼鏡掛ければいい、だけなので、別に窮屈でもない、です。
強いて言うなら、もう帰りたい、です」
「はぁ……………。そうだよな、そう言うと思った。
聞いた俺が馬鹿だった。
お前のこれからは俺がなんとかする、だからまだ帰るな!」
リアムから再度言質を取ったフローラは「やはりなんとかしてもらえるらしい」とご満悦だ。
するとまたしてもコンコンとリアムの私室の扉を叩く音がした。
「あ゛〜〜〜!今度は誰だよ」
苛々したリアムが自ら扉を開けに行くと、騎士団に行かせていたトーマスと鬼気迫る様子のララが立っていた。
「ブラウン嬢の侍女をお連れしました」
「っ、フローラ様ぁぁぁあ!!!!!!」
「ララ!」
フローラはトーマスを押し退ける勢いで入室してきたララを見て、そういえばなんか捕まっていたなと思いだす。
ララはフローラの元まで駆け寄ると高速ハンドサインでフローラの状況を確認した。
『フローラ様ご無事ですか!!?森で腐れ外道王子と合流してから今の今まで、フローラ様のお側を離れていた為状況がまったく分かりません!
フローラ様はここで就寝を…?眼鏡は外れませんでしたか!?
寝相がやんちゃで一度眠ると中々起きないフローラ様に不埒な真似をする輩がいたらどうしようかとララは気が気ではなく、昨日は一睡も出来ませんでしたぁ〜〜〜!!!』
『ララが元気そうで良かっただ!わたすもついさっきまで寝てて元気いっぱいだで。
あ、でもリアム様に虹色の瞳と祝福について色々バレただ』
「えぇぇーーー!!!?!?」
フローラのハンドサインの返事を受け、ララは普通に絶叫した。
見ているだけで目がパシパシするハンドサインでやり取りを交わす二人をじっと見ていたリアムが、そのやり取りの内容に当たりを付け話し出す。
「そういうことだ、侍女。俺はフローラの祝福と秘密を知った。もう隠し立ては不要だ」
「!!」
ララの顔が悔しげに歪むが、すぐに意識を切り替え決意を固める。
「っ、フローラ様!魅了をかけて逃げましょう!!このままでは王家に囚われてしまいますっ!今なら二人、廃人にするだけで済みますから!!」
「はぁ?魅了!?絶対やめろ!!
侍女!お前本当に不敬で捕らえるぞ!?」
王太子を廃人にする算段をさらりとつけたララにリアムとトーマスは身構える。
「ララ、大丈夫だ。わたすはリアム様を利用して快適な生活送ることにしただ。
あらゆる面倒事をすべて引き受けてくれるらしいし、例えわたすが取り返しのつかないことをしたとしても王太子権限できれいに揉み消してくれるそうだべ!」
「だから俺はそこまで言ってない。というかお前訛り過ぎだろそれ…」
リアムはフローラが満面の笑顔で言い切った内容にすかさず訂正を入れる。そしてフローラが多少訛っていたところで祝福の真実を超える衝撃はなく「ふーん」程度で流されたが、トーマスはフローラの祝福のあれこれを知らないため「魅了!?廃人!?!?えっ、訛ってる!??」と大混乱だった。
一方のララは、フローラが他に人がいるにも関わらず盛大に訛ってしまったことに、いつの間にこれほど王子に気を許してしまったのか…と危機感を覚え、昨夜筋肉だるまに捕獲されてしまった自分の迂闊さに心底苛立ったが、まずはフローラの言葉に同意する。
「、そうですか…。王太子殿下御自ら犠牲となりフローラ様の永遠の安寧のための礎となられるのですね。
そういうことであればよろしいかと」
「おい。なんで俺がこいつの礎にならなきゃなんねーんだよ!そこまで言ってねぇんだよ!!」
ララは婚約者騒動の一件でリアムを敵認定している。
たとえフローラ様が王子に気を許そうとも私は警戒を怠ったりはしない…いけ好かない王子など利用するだけ利用して学園を卒業したら二人で領地へ戻ってやる…!、と決意を固めたララは一人拳を握りしめた。




