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女神の寵愛を受けた男爵令嬢と受難の日々  作者: ひなゆき


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55/122

55 創造無双


「なにやら物音が致しましたのできっともう起きられたことでしょう。急ぎ確認せねばならないことがあります、開けて下さい」 



 どうやらジョージはリアムの部屋の扉の前に張り付いて聞き耳を立てていたようだ。

 いくら王の側近でリアムとも幼少期からの付き合いだと言っても完全にアウトな行動だろう。


 どれだけ眼鏡に執心なんだ…とリアムは扉を開けることを躊躇する。

 もはや根掘り葉掘り徹底的に詮索されてすべて丸裸にされる未来しか見えない。




 振り返ったリアムはフローラに釘を刺す。


「今から厄介な男が入ってくる、何か一つでもボロを出せばお前は生涯監禁だと覚悟しろ。よって何も喋るな!」


「?? はぁい」


 何も分かっていなさそうな返事に一抹どころではない不安を感じつつ、リアムはフローラにガウンを渡し眼鏡を掛けさせてからドアを開けに行く。




「―――、おおっ、リアム様。フローラ嬢はやっとお目覚めになりましたかな?

 陛下に“女神の落とし物”が発見されたことをお伝えしたところ大層お喜びになられましてね。眼鏡だけを持ち出すことは叶わないのでとりあえず私が先にフローラ嬢に話を伺うことになりました。では失礼致します」

「ちょっと待て!」


 前のめりでぐいぐい室内に押し入ろうとするジョージをリアムは片手で押し返す。




「……フローラは先ほど目覚めたばかりだ」


「はい、もうとっくに昼をまわっております。本当によく眠ってましたね」


「……昨日は誘拐されるという恐ろしい目に遭っている。 ……眼鏡のことより事件について話を聞くのが先じゃないか?」


「それでも構いませんがフローラ嬢と“女神の落とし物”はいわばセットの状態ですので、“女神の落とし物”である眼鏡の処遇が決まらない限りフローラ嬢は警備が厳重なリアム様の私室にずっと」

「っ、どーぞ………」



 なんとか時間を稼ぎたかったリアムだったが、フローラを私室に匿うことと天秤に掛けた結果、ジョージと対峙することを選んだ。

 いつまでもフローラに私室に居座られるなんてどんな苦行だ。


 


 ジョージはスタスタとフローラが腰を下ろしているベッドまで歩み寄る。


「改めまして。フローラ嬢お初にお目にかかります、私は陛下の側近を務めるジョージ・スミスと申します。以後お見知り置きを。

 ああ、まだお疲れでしょう。そのままで大丈夫ですよ」


 ベッドから立ち上がろうとするフローラを制したジョージは先ほどまでリアムが座っていた椅子に腰掛けた。



「ジョージ様、お会い出来て光栄、です。フローラ・ブラウンと申し、ます」


 フローラはまったく疲れていなかったがお言葉に甘えてベッドに入ったままペコリと頭を下げる。


 ジョージはその間もフローラの顔を、というか顔に掛かっている眼鏡をガン見しつつ早速本題に入った。



「私が参りましたのは他でもありません、その眼鏡についてお聞きしたいからです!まずっ、その眼鏡は“女神の落とし物”ということで間違いないでよね!?

 一体どこで発見したのですか!?実は昨日フローラ嬢から眼鏡をお借りしてその場を離れると、なんと眼鏡はフローラ嬢の元に戻ってしまったのです!!このような力を秘めた“女神の落とし物”は未だかつて見つかっておりません!!その眼鏡はフローラ嬢を持ち主と認定したということなのでしょうか!?なんとかして王宮に寄贈してもらうことは可能で」

「ジョージ!!ちょっと落ち着けって!!」


  リアムが、鼻息荒く前のめりになってフローラの顔面とぶつかりそうになっているジョージの肩をぐいっと引きフローラから引き離す。なんだこのやばいおっさんは。



「ジョージ、フローラは昨日誘拐されたばかりだと言っただろう!?眼鏡について問いただすにしてももう少し配慮してもらわなければこれ以上は…」


「え?誘拐?」

「お前は黙ってろ!!」



 ジョージになんとか穏便に帰ってもらおうと画策するリアムだが、フローラが誘拐と聞いてまったくピンときていない様子を見て、初めて昨日の一幕が誘拐事件ではなかったことを知る。

 


 こいつはアマンダの放った刺客に自らのこのこと着いて行ったとでも言うのか……?だとしたらマヌケ過ぎるだろう!!


 っ、それよりも今はジョージだ。




 フローラに余計なことを喋られては「誘拐されたばかりで傷心のため今は何も話せない」という筋書きが台無しになる…伝わるかどうかは不明だったが、リアムは「余計なことを喋るな!!」という気持ちを込めてフローラを思いっきり睨見つけた。


 一瞬きょとんとしたフローラがうんうんとなにやら一人で頷いているので、リアムは伝わったと思うことにした。深く考えたら負けだ。


 意識を切り替えジョージに目を向けると、なにやら驚いた表情をしてこちらを見ている。


「ジョージ?」


「いえ……、あの時の話は本当だったのですね…。リアム様がそのように感情を剥き出しにされるなど幼少期以来ではないですか?…ははは、素晴らしい!

 フローラ嬢はリアム様にとって本当に特別な女性なのですね」


「いや………だから……。もう、いい」



 否定も肯定も疲れるので訂正を諦めたリアムが心の中で「ジョージ早く帰れ」と祈っていると、まだ何の対策案も浮かんでいない案件について核心に触れてきた。


「分かりました。確かに昨日は大変な目に遭ったのです、まだお疲れでしょう。詳しい話は後ほどお伺いするとして、最後にもう一度眼鏡をよく見せてもらえませんか?この距離であればフローラ嬢の元へ戻ることはないはずです」


「っ、そ、それは…」


「なぜ先ほどからリアム様が答えるのです。鬱陶しい。

 私はフローラ嬢と話しているのですよ、少し引っ込んでて下さい」


 眼鏡を前にして人の変わったジョージに失礼な物言いをされたが圧倒的にこちらの分が悪かった。



 どうする…?

 眼鏡を渡せばフローラの素顔がバレてしまう……顔が変わることもそうだし、なにより虹色の瞳を見られたら本当に―――詰む…!!




 リアムが表面上は冷静を装いつつ、頭の中で必至に打開策を模索していると―――



「いいです、よ」

「あっ!!おいっ!」 


 フローラが勝手に了承し、今まさに眼鏡を外そうとしているではないか。


 リアムが慌てて手を伸ばすも間に合わず眼鏡がゆっくりと外され―――











「はい、どうぞ」


「ありがとうございます!!では失礼して…」


 嬉しそうなジョージが、手にした眼鏡を様々な角度から検分しだした。



「…………」


 リアムがフローラの顔を恐る恐る確認すると、眼鏡を取っても地味な顔がそこにあり、瞳の色だって何の変哲もないただの茶色だ。


「!!?、!?」



 口をパクパクとさせ混乱しているリアムと目が合ったフローラはいたずらが成功した子どものようにニヤリと笑い、人差し指を唇に当てた。





「―――なるほどなるほど、やはり私の祝福は通用しないようですね。フローラ嬢ありがとうございました。眼鏡をお返しします。

 私は陛下にご報告があるので一度退出させてもらいますね。

 詳しい話は…そうですね、また今夜にでも聞かせて頂くことに致しましょう。それまでゆっくり休んでて下さい、では」 


 ジョージは一通り眼鏡を観察して満足したのか来た時と同様、唐突に帰って行った。






 ジョージが部屋から出て行くのを見届けたリアムは、脱力してベッドにボスンと倒れ込む。


「っ、はぁ〜〜〜〜〜…………。なんとか、乗りきった、のか……?というか、お前、それ…どうなってるんだ?」


 仰向けに寝転び額に腕を当てたリアムは、眼鏡を手にしベッドにちょこんと座っている地味顔のフローラを見上げ、渋々尋ねた。 


 とんでもない事を暴露されそうでなんか恐いのだが。




「ふっふっふっ、実はわたくしは、今も眼鏡を掛けているの、です!」


 得意げな顔をした地味顔フローラがなにもない目元に手をやり、なにかを外す仕草をすると―――一瞬にして顔の印象が変わり、瞳が虹色に輝き出した。



「はぁ!?」


 リアムはガバッと起き上がりなにも持っていないはずのフローラの手を掴む。


 すると、見えないけれど………何か、あった。



「こっちが本体で、ジョージ様にお渡ししたのは、言うなればコピー、です!!」


「……………………………つまり?」


「眼鏡に透明機能と分身機能を、付けました!!」

「おいぃーーー!!!!お前ぇ!!!無駄にハラハラさせやがってそういうことは先に言えっ…、というか、………は?機能を付けたって……もしかして今、か!?


 ………俺が把握してるお前の祝福にそんな力はないんだが!!?い、一体なにがいくつあるんだよ!!!

 いや、やっぱりこれ以上は知りたくない、俺はもう本気でお前に関わるのが嫌だ!!」

「この眼鏡、わたくしが創りまし、た!」



「……………。っあーーー……。


 聞きたくなかった………」



 フローラがリアムの心境などお構い無しにぶち撒ける真実があまりにも重く、途方に暮れたリアムは頭を抱えた。

お読み頂きありがとうございます!! どのような評価でも構いませんので広告の下↓にある【☆☆☆☆☆】から、 ポイントを入れてくださると嬉しいです!

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