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女神の寵愛を受けた男爵令嬢と受難の日々  作者: ひなゆき


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51 王宮へ


 日付がもうすぐ変わろうかという頃、辺りはもう一面真っ暗になってしまっている。



 リアムは愛馬に跨りここまで長い距離を駆けてきたが、先頭を走るイルド王国騎士団総団長であるイーサンの止まれの合図を受け、手綱を持つ手を軽く引きゆっくりと制止する。



 リアム達は十人を一小隊とし、三小隊でフローラの捜索にあたっていた。


 ちなみにリアムは護衛対象のため小隊の人数に組み込まれていない。護衛対象ではないがトーマスもリアムの側にいる。



 三小隊をまとめる総隊長をイルド王国騎士団総団長が務めているのだから、いまだ婚約者候補でしかない男爵令嬢の捜索としては破格の対応だろう。



「リアム様、これより先は町の灯りが一切届きません。馬で進むのは無理ですね」


 イーサンが馬を操り隊の中ほどにいるリアムに報告にやってきた。



「そうだな」


 リアムは顎に手を当て考える。


 これより先は村や町がない森林地帯が広がる。

 ランプの灯りだけでは心もとないし、松明を掲げ進むのも危険が伴うので妥当な判断だ。



 だが、フローラがいるであろうと当たりを付けた場所にはまだ少し距離があった。


 徒歩で進むとなるとそれだけ到着が遅れ、フローラの身の安全の確保が難しくなってしまう。



 リアムがここであれこれ考えてる時間すら無駄だと思考を切り替えた時、森の中から馬車が走り去る音が微かに聞こえてきた。



「…ちっ!!地図に載せていない隠しルートがあった!!馬車を追え!!」


 リアムの号令で最後尾にいた一小隊の半分がすぐさま動き出す。



 








 フローラが失踪したと気付いた時点でリアムはすぐにアマンダの関与を疑った。


 急ぎ確認を取ればアマンダは授業に出たあと外出届けを提出し、すでに学園を出たらしい。


 リアム自身についている影はリアムの護衛の為に張り付いているため、アマンダの馬車を追えと命令することは出来ない。




 リアムの婚約者候補であるフローラにも王家の影をつけるよう議会で要請したが、一候補者である限り民の血税を使うべきではないという議員達の反発に合い、ここは一度引くべきか…と判断したばかりだったのだ。




「くそっ…」


 フローラに関してのことだけ対応が後手に後手に回ってしまう…苛立つ気持ちをぐっと堪えていると遣いに出していたトーマスが戻ってきた。



「殿下!第一騎士団に連絡し父上に繋いでもらいました!小隊を整え次第こちらに向かってくれるそうです!」


「!っ、そうか」


 トーマスがもたらした朗報にリアムはホッと胸を撫でおろす。



 イルド王国騎士団の総団長が出張るような事件や討伐案件は発生していないと把握していたが、あの男は街で起きた市民同士の小さないざこざにも喜んで首を突っ込むほどじっとしていられない質なので、騎士団本部に在中しているかは一種の賭けだったが今日は大人しく本部に詰めてくれていたようだ。



 イーサン・クラーク伯爵総団長―――イルド王国騎士団を総括する王国最強の男。


 ちなみにまったく似ていないがトーマスの父親だ。




 クラーク伯爵家は代々優秀な騎士を輩出してきた家系だったので三男のトーマスがリアムの側近候補に選ばれた時は「脳筋がインテリを生んだ、だと…!?」とめちゃくちゃ騒がれた。


 クラークの血が強過ぎて産まれてくる子どもは大抵クラークの脳筋遺伝子を色濃く受け継ぐのだが、トーマスは母親の性質を受け継いだ非常に珍しいパターンだった。



 とにかく、イーサンはリアムとフローラの婚約賛成派で、ひどい脳筋だが戦闘に関しては誰よりも頼りになる男だ。


 この男がフローラの捜索に加わるのならばこれ以上の戦力はない。



 リアムとトーマスはウィルソン公爵家が持つすべての不動産を、別荘や愛人の別宅や隠れ家に至るまですべて洗いざらい調べながらイーサン達が学園に到着するのを待った。








 そうしてイーサン達と合流したリアムは、アマンダが学園を出発した時間を考慮し、今日中に辿り着けて後ろ暗いことをしても問題なさそうな場所を導き出し、該当するウィルソン公爵家所有の別荘地の一つに当たりを付けすぐにそこに向かったというわけだった。




 そしてこのリアムの予想は正しかった。




 リアムの目の前でアマンダの乗った馬車をこうして確保することが出来たのだから。





 ただ―――



「わたくしはおとうさまにごほうこくします」


「あー…。ですから、ウィルソン公爵令嬢?フローラ嬢はどこですか?なにがあったのです?」


「わたくしはおとうさまにごほうこくします」


「……だめだ。なんか彼女気が触れてないか?」


 アマンダを尋問するイーサンが首を傾げている。




 アマンダは何を聞かれても焦点の合わない目で同じ言葉しか話さなかった。


 同乗している護衛に至っては馬車から降りることなく一点を見つめたまま微動だにしない。




 そんなアマンダ達の様子を見たリアムとトーマスの顔色は非常に悪かった。




 絶対にフローラの仕業だろ………。


 というか、あいつは俺に()()をしようとしてなかったか!?



 さらっと王太子の人生を終わらせようとしたフローラの異常性に「あいつはサイコパスだ…」とリアムは慄く。



 とにかくこの先にフローラがいることは分かったし、アマンダがこのような悲惨な状態になっている以上フローラは無事なのだろう。


 一気に疲労感に襲われたリアムは無性に帰りたくなった。




 リアムはイーサンに詳しいことは伝えず、アマンダ達に監視の騎士を何人かつけてウィルソン公爵の元へ送り届けるよう命じた。


 おそらく、「おとうさま」に何かを「ごほうこく」しなければアマンダのあの状態は解けないのだろう。




 アマンダを乗せた馬車を見送ったあと、では我々は急いでフローラ嬢の救出に参りましょう!と熱くなるイーサンにリアムはなんとも言えない目を向ける。


 もう行かなくていいから帰ろう、とはとても言えない。



 騎士達は救うべきか弱い女性がこの先にいると分かり「「「うおぉぉおお!!!」」」とおかしいくらいに士気が上がっている。

 


 うるせぇこの脳筋どもめ…!!とリアムは騎士達に対し理不尽に苛つきながらも仕方なく愛馬に跨ると―――





 ザンッ!!!




 騎士達がリアムを囲うように敷かれた円形の陣、その中心部であるリアムの目の前に………




 ララを背負ったフローラがどこからともなく現れ降り立った。



「「「「「!!!」」」」」



 賊(?)に難なく中央突破されたイーサン達は瞬時に殺気立つ。



 頭で考えるよりも先に身体が動くイーサンの剣がすぐさまフローラの背後から真っ直ぐ振り下ろされたが、フローラはララを背負っているにも関わらず、どうやったのか分からぬほどの速さで刃を避けるとリアムの側までトコトコやってきた。



「っ!リアム様ぁぁぁ!!!」



 悲壮な声を上げたイーサンが次の攻撃の動作に入ったのでリアムは慌てて制止の声を上げる。


「っ、待て!!問題ない!こいつが捜索対象のフローラだ!!」


「はぁ!??その戦闘ゴリラが!!??」


「え?ゴリラ?」


 イーサンのゴリラ発言に、どこか嬉しそうな顔をしたフローラがキョロキョロしだした。




「………。ゴリラはお前のことだ。はぁ…まさかこんな結末になるとは……。

 もう絶対に!二度と!!お前の心配なんかしないからな!!!」


「?? はい」


 フローラはアマンダの屋敷からの帰宅途中にリアムの気配を察知したので姿を現してあげたというのに、なんか怒られているような気がして首を傾げる。



 ララはネグリジェだしフローラは制服だしで夜は少し冷えるので、二人は倒した影が纏っていたフード付きのマントを羽織っていた。

 アレクは透明になってそこらへんに忍んでいるはず。


 ララの走るスピードに合わせていては学園にいつ着くか分からないので、フローラがララを背負って急いで帰ろうとしていた所だったのだ。なんせフローラの就寝時間はとっくに過ぎている。



 リアムがなぜこんな所にいるのか分からないが、話が長くなりそうだったのでフローラはララを背中から一度降ろした。



「っ!!お前……」


「??」


 リアムはランプに照らされたフローラの姿を見て目を見開く。



 マントの中に見え隠れするフローラの学園の制服は真っ赤だった。



 元気そうな本人の様子を見る限りすべて返り血なのだろうが(それはそれでこわい話だが)、それだけ危険な目に合ったということ。



 リアムの油断がフローラをここまでの危険に晒したのだ。



「………………………ごめん」


 リアムは人生で初めて他人に謝った。



「?」


「今回のことで、初めてお前が俺の婚約者で良かった、と思った。 

 他の女だったら間違いなく死んでるだろ……これ」


「?? そうです、ね。制服は、死にました、ね?」


「はぁーー…………。もういい」  

 


 なにやら意味の分からないことを言われ、確かに制服が死んだ…とフローラがしょんぼりしていると、馬から降りたリアムに脇に手を入れられヒョイ、とそのまま馬の背に乗せられた。



「ちょっと!!フローラ様!!」


 ララは騎士達に囲まれた完全アウェイの環境であってもお構い無しにフローラを取り返すべくリアムに詰め寄る。



「おっと、お嬢ちゃんはこっちだ」


 今度はララがイーサンにヒョイと抱えられ別の馬に乗せられる。



「ぎゃああ!?なに、この筋肉だるま!こんなの反則よ!!」


 ララがいくら馬上で暴れようとイーサンにとっては子猫が甘えてじゃれついているようなもの。


 ララを自身の馬の前に乗せたイーサンは、はっはっはっと笑いながら陣の先頭へと移動していった。




 フローラがポカンとしながら連れ去られたララを見送っていると、背後にヒラリと飛び乗ったリアムに声を掛けられる。


「これから王宮へと戻る。怪我はなさそうだが一応検査を受けた方がいい。……疲れてるなら俺にもたれてていいから寝ろ」


 そう言って後ろからフローラの腕を引いたリアムは、背後から抱き締めるような形で自らの腕の中にフローラを閉じ込めた。



 全然疲れてないべ?と思ったのも束の間、ポスンとリアムの胸元にもたれ込んだフローラは一瞬にして眠りに落ちる。


 八時には就寝する健康優良児に日付を回っての夜更かしは厳しかったようだ。


お読み頂きありがとうございます!! どのような評価でも構いませんので広告の下↓にある【☆☆☆☆☆】から、 ポイントを入れてくださると嬉しいです!

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