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5 授かった祝福


 無言で自宅の屋敷(屋敷というかちょっと小綺麗な小屋レベル)まで歩くこと十五分。 




 居間で見習い侍女のララが用意してくれた温かいお茶を飲んで一息ついたところで、アンナはいまだに俯いたままお茶を飲むことすらしないフローラに声を掛けた。



「フローラ、本当にどうしちゃったの?……望んだ祝福じゃなかったの?」 




「木登りがうまくなる祝福がいいだ!」とはしゃいでいたが、さすがにそんな祝福はなかったのだろう。


 でも望んだ祝福と違ったからと言ってここまで落ち込むような子ではない。どのような祝福であったとしても心から喜ぶような、そんな素直な子だ。



 フローラの為ならなんでも出来る!と普段から豪語しているララなんて、常にないフローラの様子に心配のあまり倒れそうになっているではないか。




 すると、ずっと俯いていたフローラがやっと顔を上げた。



「わたすの目…どうなっとると?」


「「「…えっ!!!」」」



 フローラは、今は短いがサラサラした茶色の髪にくりくりとした丸い茶色の瞳を持つ、親の贔屓目なしにとても可愛いらしい顔立ちをした女の子だ。





 その可愛い我が子の、瞳の色、が………………虹色に、輝いている………!?




 ばたーーーん!!!

  


 仰天したララが気絶してぶっ倒れたが、ダンがサッと手を伸ばしたおかげで頭をぶつけることは免れた。そのままフローラの座るソファまで運ばれ、フローラの膝を枕にして寝かされる。

 フローラの膝枕…、ララは本望だろう。






 ティア神の瞳は虹色であると言い伝えられている。


 教会の壁画やステンドグラスに描かれたティア神や、祈りを捧げるティア神像の色づけされた瞳の色はもれなくすべて虹色で描かれていて、瞳の虹彩が光の加減によって七色に輝く様はとても神秘的だ。




 そのティア神と同じように、娘の両目も………それはそれは神秘的な虹色に輝いている。






「ティア神様から……………………虹色の瞳の祝福を与えられたとでもいうの………!?」



 アンナは呆然としながらも、これは大変なことになったと慄く。



 祝福は、祈りを捧げた人の夢を叶える助けになるような、一歩を後押しするような、心のお守り的な内容であることが多い。 


 そのため、フローラのようにティア神と同様の瞳を与えられた者の話など聞いたこともなかった。






 もし、このことが他の人々に知られればどうなるのか。



 王都にある祝福研究機関に拉致されるか、教会の権威の象徴として望まぬ生活を強いられることになるか………もしくは王族に囲い込まれる可能性だって十分に考えられる。





 フローラに「村一番の肝っ玉母ちゃん」と称されるアンナもさすがにパニックに陥り、夫に縋るような目を向けた。


「あなた…っ」


「っ……」


 ダンは元からその筋の人に間違われる厳つい容姿をしているが、今はその凶悪な犯罪顔をさらに歪め、子どもが見たらチビって泣き叫ぶような表情をして唇をきつく噛み締めている。


 怖すぎる…だが、今はそのことにツッコミを入れる余裕のある者は誰もいない。






 訪れた静寂の中、いつものフローラでは考えられないほど弱々しい声で話し出した言葉がぽつん、と居間に落ちた。



「この瞳は………祝福でねーんだ…」


「……………………ぇ?」


「マーキングとかなんとか、言ってたような……」  


「は、ぇ……? マー、キング…? 言ってた……?」




「祝福は………八個授かっただ」

「ぅえぇえええぇぇぇーーーーーーー!!!!??」


 アンナは絶叫した。



 「祝福は一人に一つだけ与えられる」というのが太古の昔から認識している常識だ。


 それをは、は、は、八個!?



「たぶん…」

「たぶんんんっ!???!?」


「たぶん八個」の意味が分からない。


 またしてもアンナの絶叫が広くもない家中に響き渡った。


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