43 それぞれの思惑
「フローラ、おはよう」
「おはようござい、ます、レオ様」
あの日を境に、レオはフローラに堂々と声を掛けるようになった。
フローラも嬉しそうに駆け寄り、その距離はただの知り合いにしては近い。
そんな二人に周囲の人々は騒然となった。
「えっ、公爵子息って呪われてるんじゃ…?」
「はあぁ!?あの芋女、アンダーソン様にまで馴れ馴れしくしてるの!?」
「あれって…リアム殿下の婚約者(仮)でしょう?」
「嘘……アンダーソン様が笑っていらっしゃる……!?お側に侍ることが叶わない分影から見守ってきましたけれどあんなに楽しそうなお顔は初めて見ましたわ………」
「なんて浅ましい女なの!!不細工のくせにリアム殿下のみならずアンダーソン様にまで色目を使うなんて…っ!!不細工のくせに!!!」
周囲の人々の困惑、驚愕、嫌悪の感情の赴く先はほぼフローラだ。
路傍の石っころのくせにどんな手を使ったのかは分からないが麗しの王太子殿下の婚約者(仮)の座にまんまと収まったかと思えば、呪いの噂に怯んでしまい近づくことは叶わないが隠れファンがめちゃくちゃ多い極上の見た目を持つ公爵子息にも擦り寄る、調子に乗った頭のおかしい地味顔悪女―――それが現在のフローラの評判だ。
クラスメイト達に「傲慢令嬢」と罵られていた頃が微笑ましく思えるほど、今のフローラの評判は悪い。
普通のご令嬢であれば精神を病んで家から出ることすら出来なくなるほどの悪意に晒されているが、そこはフローラ。
「傲慢令嬢」と罵られようが「悪女」と嫌悪されようがまったく気にしていなかった。
「フローラ、ごめんね…。私がこうして話しかけるせいでフローラの評判が悪くなってしまったね…」
「ん?別に気にしてねーだ。それよりもわたすはレオ様の噂の方をなんとかしたいだ!
レオ様の力は呪いじゃなくてイアフス様の守護だって分かってもらう方法はなんかないべ?」
フローラはレオの力が呪いではないと分かれば遠巻きにされる理由もなくなるはず、と考えたのだ。
「ふふ、ありがとうフローラ。私はもう誰に何を言われようと気にしないから大丈夫だよ」
レオはふわりと微笑む。
完璧すぎる美貌のせいで近寄りがたい印象のあるレオだがフローラに優しく微笑む姿は年相応の恋する青年といった風貌をしており、遠巻きに見ていた女子達はそんなピュアな笑顔を見て思わずほぉ…とため息を零す。
遠巻きにものすごく見られているが近くに人はいないのでフローラはいつも通り気を抜いており、思いっきり訛って喋っている。
この事もレオに優越感を与えた。
フローラの可愛らしい本当の姿も、ひどく訛る喋り方も、大事な秘密も、知っているのはこの学園で自分だけ。
レオはフローラに流れるえげつない悪評もきちんと把握しているし、なんなら誰がいつどのようなことを言ったかまで書面にして残している………何の為に残しているのかは言うまでもないだろう。
公爵家の影はとても優秀なのでこれくらいの任務は朝飯前だ。
レオはすべて把握した上で黙認し、むしろ噂が助長するように振る舞っている。
―――すべてはフローラをリアムの婚約者の座から解放するために。
王家としては悪評のある令嬢を王太子の婚約者に据え続けることは出来ないはずだ。
それに婚約者候補でしかない今の曖昧な立場でこのような醜聞を起こせば、他の貴族達はここぞとばかりにフローラを引きずり降ろそうと画策するだろう。
フローラには申し訳ないが、殿下が諦めるまでこのまま「二人の男を手玉に取る悪女」という不名誉な噂が流れる状態を維持させてもらうね。
婚約が無事解消された暁には私がちゃんと責任を取るから大丈夫だよ。
レオは心の中でうっそりと呟いた。
***
「はあ!?なんで俺があの地味女に振られたみたいになってんだよ!」
放課後の生徒会室にリアムの怒声が響き渡る。
今日も今日とてリアムは多忙だった。
フローラとの婚約を議会で認めさせたまでは良かったが王太子妃教育を施す教師の選定に難航したり、王太子の婚約者としてフローラに下りるはずの予算が下りなかったりと王宮に蔓延る狸どもの悪意をひしひしと感じた。
そんな狸達の野望や思惑を木っ端微塵に打ち砕く作業に時間を取られ、やっと学園に来れたと思えば生徒会会長としての仕事が山積みで放置されていたのだ。
リアムの他に生徒会メンバーは四人いるはずなのだがマイペースで自分勝手な人間達ばかりなので、リアムの仕事を分担して片付けておくという心遣いは一切ない。
リアムが輝かしいはずの美貌を般若の如く歪め暴言を吐きちらしながら学園に遅くまで居残り生徒会の仕事を片付けていると、教師に提出する資料を持って行かせていたトーマスが生徒会室に戻ってきた。
そのトーマスが奥歯に物が挟まったような微妙な顔をして何か言いたげにこちらを見てくるのでリアムは顔を顰める。
「…なんだ。何があった」
トーマスもリアムと共に行動していたのでここ最近ずっと多忙で、知らなかったのだ。
学園でここまでリアムの不利になるような噂が流れていることに。
「え〜っと…。そのままをお伝えしますね。先ほど資料を提出した際教師に『殿下が御多忙なのを良いことにブラウン嬢がアンダーソン子息に色目を使っているともっぱらの噂だが殿下は御存知なのか?』と、聞かれました…」
「は?」
「『どうか気を落とさずに。守備範囲の広い殿下ならば尚の事、女は星の数ほどいますからね』とも言ってましたね」
「はあ!?なんで俺があの地味女に振られたみたいになってんだよ!」
リアムは額に青筋を作り、机に書類を叩きつけた。
「私が言ったんじゃないですよぅ」
トーマスはリアムにすごい目で睨まれ首をすくめた。美人は怒り顔でも色気があるんだなぁとどうでもいいことを考えていると、くだらないことを考えているな?とばかりにまた睨まれた。
「ったく、何を考えているんだあいつは…」
リアムは椅子の背もたれにドサッと乱暴に身体を預けた。
フローラは何も考えていないと知っているので、ここで言うあいつとはレオのことだ。
以前裏庭で牽制した時はどちらかというと困惑していただけで、フローラに特別な感情を抱いている感じではなかった。
例えフローラを好いていたとしても王太子であるリアムが望むのならばと譲ってしまえるような、その程度の好意だったはず。
それがちょっと関わらなかった間に、王族に喧嘩を売るほどの苛烈な想いがフローラに対し芽生えたとでもいうのか…?
そんな魅力があいつにあるとでも?とリアムは首を傾げる。
「はぁ…ここで考えてても仕方ねぇ。明日はフローラに会いに行く。あいつの実家絡みの話もあるしな」
「分かりました。明日その時間を作るためにも、残っている仕事をさっさと片付けちゃいましょう」
「あ゛〜〜〜〜本気でイライラする。なんで俺がこんな仕事までこなさなきゃなんねーんだよ!!」
リアムがぶつくさ言いながらも真面目に仕事に取り組んでいると、生徒会室の扉をコンコンと叩く音がした。
「こんな時間に…誰でしょう」
トーマスがわずかに警戒しながらスッと立ち上がり、ドアの前まで行き誰何する。
「っ、リアム様っ!?わたくしです、アマンダですわ!
リアム様に少しだけお時間を頂戴致したく参りました」
お読み頂きありがとうございます!! どのような評価でも構いませんので広告の下↓にある【☆☆☆☆☆】から、 ポイントを入れてくださると嬉しいです!




