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女神の寵愛を受けた男爵令嬢と受難の日々  作者: ひなゆき


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41 祝福その四


 三人が平常の状態まで落ち着いたところで空教室に鍵を掛け、あらためてお互いの事情を話し合った。

 ちなみに午後の授業は普通にサボることにした。




 レオはティアから祝福を授からなかったこと、授からなかった理由に思い当たる節がないこと、そしてどうやら呪われていること、その呪いの内容、周囲には記憶力が良くなる祝福を授かったと偽っていることなどを、初めて誰かに包み隠さず話した。



 虹色の瞳を持つフローラが自分の話を黙って聞きつつ時折うんうんと相槌を打ってくれるので、レオは半分ティア神に懺悔するかのような気持ちですべてを吐き出す。



 フローラも話せることは話したし、話せないことはだいぶぼやかして話した。










「じゃあ……フローラは祝福の儀でその瞳を授かったの?」


「んだ」



 レオは今も目の前のこの美少女がフローラであることに多少混乱しているが、話し出すと訛るので「あ、フローラだ」と分かる。




「その眼鏡は……何なの?瞳の色も完全に分からなくなってるし、それにフローラの顔が眼鏡を掛ける前と後で別人みたいに見えるよ」


「この不思議眼鏡は……ティア様にもらっただ!」


 フローラは、ララが高速ハンドサインで送ってきた言い訳をそのまま口にする。



 瞳のことはバラしたが他の祝福のことまでレオに教えるつもりはない。




「ティア神に………。そっか…フローラはすごいね……。瞳だけでなくそのような特別な眼鏡まで与えられるなんて…ティア神にとても愛された存在なんだね……」


 レオにしてみれば、自分には何も与えられなかったのにフローラがティア神からの寵愛を賜っていることに対して悔しい気持ちになってもおかしくはないが、ここまでくると次元が違いすぎて妬むどころの話ではなかった。




「う〜ん、レオ様もめちゃくちゃ愛されてると思うっぺ?」


「は……? 誰に?」


 自嘲気味に呟いた言葉は思ったよりも低く、冷たく聞こえてしまったかもしれない。


 レオはハッとして謝ろうとするも、フローラが真剣な眼差しでこちらをじっと見つめていて困惑する。




「よく分からねからちょっと調べてみるだ。レオ様はわたすの瞳をよーく見ててけろ」 


「…わ、分かった」 


 レオは言われた通りフローラの神秘的な虹色の瞳をじっと見つめた。







 フローラが眼鏡を外したのには理由がある。



 創造の力で創ったこの眼鏡、虹色の瞳を完璧に隠してくれるのは良いが、それ故に瞳を使った祝福の力を全力で使うことが出来なくなってしまうのだ。




 そう、『魅了』の力を。




「魅了の力」と言われれば、他者を思い通りに操り自身の虜にさせる恐ろしい力だと思われがちだが―――全く持ってそのとおりだった。

 これは本気で恐ろしい力だと思う。

 


 この力を与えられたのがフローラじゃなく自分の私利私欲に全力な人間に与えられていたならば、おそらくイルド王国はとっくに崩壊していたことだろう。



 魅了の力を使えば大富豪になることだって王になることだって、この世界の神になることだって可能なのだから。





 フローラの持つ祝福の力、言霊でも世界は取れそうだが『言霊』と『魅了』は似ているようでその力の本質はまったく異なる。



 『言霊』は力を使った相手の意識を残しつつ、例えばフローラがなにか願い事をしたとして、その願いを相手が叶えるまで言霊の力は持続し、叶え終わると言霊の力の強制力はなくなりその間の記憶も残る。



 一方の『魅了』は、力を使った相手の意識を完全に乗っ取り意のままに操る。フローラの思いのままに動く操り人形となり、魅了の力を解いた後は操られていた間の記憶は消える。完全犯罪の文字がチラつく仕様だ。




 以前リアムを説得する時に(脅したともいう)提示した選択肢は『言霊』か『魅了』どちらのやり方で言うことを聞きますか?という提案だったのだ。



 リアムは賢明にも自ら口を閉ざすと決めたが、もしフローラの祝福を暴くという結論に至っていれば魅了の力で一生操られ本来のリアムは廃人になっていた可能性もあった。



 フローラは優しい性格だが、時に非情な決断をサラッと下せる。

 この世は弱肉強食、この考えが根底にあるので。





 自身に流れる魅了の力に意識を向けると「フローラたん、お人形遊びはお好きかしら??魅了の力で好きなようにおままごとして遊んでちょうだい☆舞台はこの世界よ!!お人形に飽きたら捨ててねっ。お人形の元になる駒は星の数ほどいるのだから…♪」というティア神の声が聞こえた…ような気がした。



 フローラは最近思う。ティア様って、結構やばい神様なのでは…?






 とにかく今はレオ様だべ、とフローラはレオに魅了の力を使う。


 するとフローラの虹色の瞳が一際幻想的に輝く。




 フローラはなにもレオを魅了の力で操ろうとしているわけではない。



 魅了の力を使いレオのすべてを視ようとしているのだ。



 魅了にかかる、という状態はフローラに自身をすべて捧げることと同位だ。そのためフローラは魅了をかけた相手のすべてを得ることが出来る。




 この状態にまで持ち込めば、魅了した人物のありとあらゆることが視れるようになるのだ。



 わざわざ魅了をかけなくとも眼鏡の鑑定機能で暴けそうなものだが、実は眼鏡だけではレオの力についてすべてを知ることが出来なかった。


 なにかある、というのは分かったがそれだけ。


 創造の力を用いて創った眼鏡でも暴けないということは、人智を超えた力が働いているということ。


 もっと詳しく知る為にはティア神から授かった力を最大限解放する必要があった。






 フローラの瞳を見つめていたレオの様子が変わる。


 トロンとした目になりフローラを見ているようで見ていない。



 かかった。



 フローラはレオの身体を覆う()を目を細めて詳しく視た。

 


 魅了の力で視ると、なにか……強大な力がレオに複雑に絡まっているのが分かる。




 この力は…………………












 レオはハッと意識を取り戻す。



 取り戻す……?私は今なにを………。




 確か……フローラに瞳を見るように言われて……?そこからの記憶がない。




「レオ様、大丈夫け?」 


 フローラが心配そうにこちらをうかがってきたのでとりあえず大丈夫だと頷く。


 フローラはすでにいつもの分厚い眼鏡を掛けていて、先ほどまでの可愛らしい容姿の面影は欠片もない。



 レオは眼鏡のないフローラの素顔をもっと見たかったと少し残念に思ったが、虹色の瞳のことが周囲にバレると大変なことになることは理解出来るので当然隠さなければならないだろう。



 それに…フローラの素顔を知っている者は家族などのごく少数に限られるはず。


 自分がその中に選ばれたことになんとも言えない優越感を感じた。




「さっきレオ様のことをよく視たけんど、レオ様の力の正体が分かっただ」


「視た…? 力……? え、呪いじゃなく?」


「呪い?そんなのかかってねぇだ。レオ様にはティア様の祝福じゃなくてイアフス様の守護がかかっているだ。わりと強力なのが」


「イアフス、様……」


「ティア様の旦那様だべ」


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