3 女神ティアによる祝福
イルド王国には、原初の海の女神であるティア神を信仰する教えが深く根付いている。
ティアは世界の存在があいまいな頃から存在し、男神イアフスと交わり多くの神々や生物を生み出した大いなる母神だ。
イルド王国の人々は、遥か昔ティア神がこの世界を、この大陸を創造なさったことに深く感謝し、教会で日々祈りや貢ぎ物を捧げている。
『ティア神の日』と制定された三日に及ぶ祝日には、ティア神を讃えるお祭りが各地で夜通し行われる熱狂ぶりだ。
なぜイルド王国の民はここまでティアに傾倒するのか?
それはティア神が「祝福」という名の唯一無二の力をイルド王国すべての人々に与えるからだ。
イルド王国で生まれイルド王国で育った者は王族・貴族・平民すべて、十歳になると教会へ赴き、そこで儀式を受ける。さすればティア神から祝福を授けられるのだ。
儀式と言っても難しいことは何もなく、教会に置かれているティア神像の前で膝をつき、「女神ティアに永遠の感謝を捧げます。我に祝福をお与え下さい」と祈るだけ。
天から光が降り注ぐとか、キラキラのエフェクトがかかるとか、目に見えた変化が現われるとかそういう派手な演出は一切なく、祈り終わるとまるで生まれた時から身に宿していたかのように、身体の一部であることが当たり前かのように、一人に一つ、なにかしらの『祝福』を手に入れているのだ。
ティア神が与える祝福の内容は多岐にわたる。
「火を操る祝福」や「風を起こす祝福」「水を作り出す祝福」という物理的な事象を起こす祝福の他に、「身体能力が上がる祝福」や「剣の腕前が上がる祝福」などの個人の潜在能力を底上げする祝福もある。
身体能力や剣の腕前が上がる祝福は、騎士を目指す者達にとても人気だ。
「料理が上手になる祝福」「縫い物が上手になる祝福」は平民の女子に、「記憶力が良くなる祝福」や「楽器を奏でる能力が上昇する祝福」などは貴族女性に喜ばれている。
しかし祝福によって人生が左右するほど、与えられた力は強くない。
火を操るといってもロウソク程度の炎を出せたり焚き火の勢いを良くしたり、水を作り出すのだってせいぜいコップ一杯分。
身体能力も剣の腕前も料理も楽器も、まず自分が習得しようと努力した上にプラスで与えられるおまけみたいなものだ。
けれど他国の人間には与えられないティア神の加護に、イルド王国民はどのような祝福であったとしても心から感謝し、誇りに思う。
「ティア神が守護する国」として他国からも一目を置かれ、建国時から一度も戦火に見舞われたことがないことは歴史が証明している。ともなれば、国民のティア神に対する熱狂ぶりも納得のものだろう。
フローラも十歳となり、祝福の儀を行ったあの日あの時まではティア神を信仰し「わたすには一体どんな祝福を与えて下さるんだべ」と祝福図鑑をパラパラと眺めわくわくしていたものだ。
ちなみに祝福図鑑とは、過去現在における申告された多種多様な祝福をまとめ一覧化したもの。
祝福を授かる前の子ども達に大人気の一冊だ。
フローラの人生は、あの日、祝福の儀の日に、どん底へと落とされることなど知らずに、本当に呑気なものだった。
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