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女神の寵愛を受けた男爵令嬢と受難の日々  作者: ひなゆき


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28 ララの祝福と過去③ sideララ


 それから、事の顛末を知ったフローラ様は静かに怒り狂った。



 無邪気な笑顔で私の頭に優しくキスしてくれた時とは別人のような変わり様で、私の為に怒ってくれていると分かっているのに怖くてブルブルと震えが止まらない…。




 その後村の広場に移動したフローラ様は村人全員を集め(たぶん百人くらい…?)、その集めた村人達を見渡せる台の上に立った。…私の手を握りながら。





 そう、私は祖母の家から連れ出されていた。









 祖母はフローラ様が持ってきてくれた薬草?を飲んでからは咳が落ち着きそのまま眠ってしまったので、フローラ様が私に「一緒に遊ぼう!」と言ってくれた。



 そこで私がハサミを握っていることや窓が割れていること、外に気まずそうな顔をしたガキ共がいることに気づき、フローラ様はその場にいた全員から話を聞いて回った。



 ガキ共は「そいつが、尻軽の娘で…」とか「早く追い出さねーとまた村がぐちゃぐちゃになるって母ちゃんが言ったから…」とかなんとかぼそぼそ話し、私は母がこの村の出身で一週間前から祖母の家に住んでいることだけ話した。



 全員から話しを聞き終えたフローラ様は一言、低い声で「…全員着いて来い」とだけ言うと私の手を引き広場までやって来たのだった。




 慌てて集まってきた大人達に、フローラ様は村人全員を広場に集めるよう伝える。

 その際、足の悪いお年寄りには椅子を用意すること、赤ん坊の世話をしている女は呼ばなくていいことなどを伝えていた。

 



 フローラ様が集合の号令をかけてから五分と経たずに村人達は広場に整列する。

 年寄りも大勢いるが皆背筋を伸ばして立ち椅子に座っている人なんて一人もいないかった…。



 私は田舎の人間にのんびり動くイメージを持っていたので、この村の人達のあまりに統率された動きに困惑することしか出来ない。




 集まった村人達を前にフローラ様が足をダンッ!!と一度踏み鳴らすと、村人達はピッ!!とより一層背筋を伸ばす。



 え…?この村の人達全員、傭兵か何かなの?


 あまりにも統率された動きになんか怖くなってきた……。

 



「おめーらぁ!!わたすはしばらく森に籠もるから村のことは頼むべと伝えたはずだぁ!!!」



 ザッ!と揃った音がしたので顔を上げると村人達は全員敬礼をしていた。



「それなのに!!一週間もなにやってただ!!!こーんな小さいめんこい子どもさ寄って集って虐めて!!おめぇーらがする事は、虐めることでも陰口を言うことでもなかったはずだ!! そこのおめぇ!何をすべきだったか言ってみろ!!」



 フローラ様に指名された一人が即答する。



「歓迎会だすぅ!!!!!」


「そうだ!!!タラタラすんなし!!日没までに準備を済ませろぉ!!!」


「「「「「「「うおおぉぉおおー!!!」」」」」」」



 村人達の気合いのこもった掛け声で地面が揺れる。



 びっくりしてちょっとふらついてしまった私をフローラ様が優しく支えてくれた。


「ララっていったっぺな?歓迎会が遅くなってすまねかっただ…。いつやってもらえるんだと気が気がじゃくて辛い思いをさせたな、今から急いで準備させっから許してけろ?」


 そういう話ではないです…、と思ったが私は極限まで混乱していたので黙って頷くことしか出来ない。



「許してくれるか!ありがとな、ララ」


 ニコッ!と太陽のような眩しい笑顔を浮かべたフローラ様に優しく頭を撫でられ思わず俯く。顔がめちゃくちゃ熱い。






 その後、本当に日没までに整った歓迎の宴は村の規模にしては盛大なものとなった。


 なんかの獣の丸焼きが広場の真ん中に設置された大きな焚き火でグルグルと焼かれ、各々が家から持ち寄った食事や飲み物がこれまた各々持ち寄ったテーブルにところ狭しと並ぶ。



 私の歓迎会だというこの宴に、柄にもなく心が湧き立つ。


 こんなの初めてだ。




 私は下町でも浮いた存在で友達など一人もいなかった。


 母親が子ども達の母親に嫌悪されていればそれだけで私に友達など出来ない。



 だから……初めてだったのだ、自分の歓迎会なんて。


 村人達は嫌々やっているのかもしれないが、フローラ様だけは心から私を歓迎してくれていることが分かる。


 フローラ様は歓迎会の間私の側にずっといてくれて、料理を取り分けてくれたり口元を拭いてくれたりと甲斐甲斐しくお世話をしてくれた。



 すると、村人達の雰囲気が変わったことを肌で感じる。


 石を投げてきた子ども達が本当にすまねぇ…と謝ってきたし、私のことを遠巻きに見ていた村の大人達は気まずそうにあれ食べろこれ食べろと声を掛けてくる。



 すごい…。いくら謝っても村のガキ共や大人達を許すつもりはないが、フローラ様が村の空気を一瞬で変えてしまったということはひしひしと感じる。


 よくも悪くも統率の取れたこの村で、おそらく村長の娘であるフローラ様の発言力は絶大だった。




 この村の村長はよほど権力があるのだなと思いながらフローラ様にご飯を食べさせてもらっていると、村長だというじいさんがフローラ様にペコペコ頭を下げながら話し掛けてきたことでフローラ様の本当の身分を知る。




 なんとフローラ様はこの村を含む、周辺の領地を治めるご領主様の娘様だったのだ。つまりお貴族様。



 真っ青になり今までの失礼な態度を詫びながら平伏すると、不思議そうな顔をしたフローラ様に脇に手を入れられ立たされた。



「ララ、なした?もうおねむけ?家まで送ってやるだ」


 さっきのは平伏であって、眠くなってうずくまっていたわけではなかったのだが、夕方から始まった宴はそろそろお開きの雰囲気だったのでフローラ様の言う通り大人しく家に帰ることにした。





 村のはずれの家まで送って下さったフローラ様は家の外まで出てきた祖母の体調を気遣ってから、一言告げる。


「ばば、ララはもうこの村の子どもだ。大切にしてやってけろ」


 真剣な瞳のフローラ様に告げられた言葉に祖母はぐっと喉を詰まらせ、一度深く頭を下げた。




 その夜、私は静かに涙を流す祖母に謝られた。




 愛した娘に裏切られて人を信じることが怖くなってしまったのだ、と。


 ひどい態度を取って申し訳なかった、本当は………孫に、私に会えて嬉しかったのだ、と―――。




 祖母は私と同じだったのだ。




 どうせ裏切られるのならば最初から心を許すことなどしたくない。

 弱い人間の心理だと思う。私も同じだからよく分かる。



 二人で夜遅くまで泣いて、話して、許して、そして初めて祖母に抱きしめてもらいながら眠った。



 母親に抱きしめてもらった記憶のない私にとって祖母の抱擁は初めて知る家族の温もりだった。










 それから…祖母が風邪をこじらせて亡くなってしまうまでの一年間、穏やかなで幸せな時間を共に過ごせたと思う。



 だって祖母は笑って逝ったから。



 あと五年でいいから長生きしてほしいなんて思った自分を殴り飛ばしてボコボコにして埋めてやりたいほど後悔して立ち直れなかったが、祖母の葬儀の時にフローラ様が手を繋いで一緒にたくさん泣いてくれたからなんとか気持ちの整理をつけて祖母を送り出すことが出来た。



 葬儀の後、「ララを一人にはしない」とそのままフローラ様の御屋敷に侍女見習いとして連れて行って頂き現在(いま)に至る。






 私に生きる目的と居場所を与えて下さったフローラ様には感謝してもしきれない。


  フローラ様が村の外れに住む祖母をなにかと気にかけ体調を崩すたびに貴重な薬草を届けたりしてくれなければ、祖母はとっくに亡くなっていただろう。


 だから私が祖母の愛を知ることが出来たのもフローラ様のおかげだ。


 


 そして今はフローラ様と奥様と旦那様が私の家族になって下さった。


「侍女見習いではなくうちの娘になりなさい」と奥様に言って頂いたが、家族になってしまっては一生フローラ様のお側にいることは叶わないので丁重にお断りさせて頂いた。


 最近の私の将来の夢はフローラ様のお孫様に「ララちゃん長生きしてね」と可愛いらしく言ってもらうことなのだから。




 だから私はフローラ様に女の子としてどうなの?と心配されようともティア神様に頂いた祝福の力を磨き続ける。





 ずっとずっと、フローラ様のお側にいるために。

 


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