18 え?結局行くの?
リアム達が立ち去った後の教室の空気は過去一で最悪なものとなっていたが、そのことに気づくことも気にすることもないフローラは黙々と午前の授業を受けた。
そして、お昼休憩の時間になったので「ボスを待たせる訳にはいかない」と、昼ご飯も食べずにとりあえず生徒会室へと向かうことにした。もちろんララも一緒に。
昨日は生徒会室から締め出されフローラと離された結果、フローラがうっかり(?)祝福の力を晒す事態に陥ったことをララは深く後悔している。
その表れなのか、シュッ、シュッと、左右の拳を交互に繰り出し架空の敵を殴る動作をひたすら繰り返しながら歩くララ。
拳を顔の前に置き、脇をしっかりと締める。パンチを打たない方の手だってガードの構えを疎かにはしない。
シュシュッとパンチを繰り出した後は素早く最初の構えに戻し、次の攻撃やディフェンスに備える。バックステップやサイドステップを組み込んだ動きは本格的だし手慣れていた。
「ララ……。素晴らしいフォームだけんど人は殴らないでけれ?」
「勿論っ…(シュシュッ)…ですわっ!(シュッ!)」
「ララ、一回それやめれ!」
フローラは真顔でいい聞かせた。
伝統あるイルドラン学園で暴力沙汰はさすがにまずい。
そういえばララの祝福は少し物騒なものだったな、とどうでもいいことが頭をよぎった。
フローラとララは同じ歳だが生まれはララの方が三ヶ月程早い。
そのためフローラより一足早く祝福を授かっていた。
「フローラ様のためになるような、フローラ様を守れるような、そんな祝福がいいだ」と口癖のように言っていたが、見事望み通りの祝福の力を授かった。
それからだった。
ララがなんか好戦的になってしまったのは。
もうすぐ生徒会室に着く、というところで、前方からリアムとトーマスが歩いてくるのが見えた。
「やあ、早いね。すれ違いにならなくて良かったよ。食堂でランチでもしながらゆっくり話そうと思って今から君のクラスに迎えに行くところだったんだ」
キラキラ男がうさんくさい笑顔全開でフローラに話し掛けてくる。
昨日とまた雰囲気が何か違うような…?と一瞬訝しく思うフローラだったが、どこが違うのかよく分からない。つまり、興味がない。
「生徒会長様、お気遣い頂きありがとうございます。ですがランチはご遠離させて頂きますわ。ご要件は、この場で、手短に、お願い致します」
ズイッとララがフローラの前に出る。
「え……。なんで君が話すの?」
リアムは目を丸くする。
「我が主は極度の人見知りゆえ。フローラ様にはわたくしが代わりに返答する許可を頂いておりますのでご安心を」
「え……。そう…」
ララがお決まりのセリフを言うとリアムは顔を引き攣らせた。
「ですが、よろしいのですか?この場で話す内容でもありませんので、生徒会室で話すことになりますが、ただの侍女である君は昨日のように入室することは出来ませんよ?」
このままでは埒が明かない、と、トーマスが援護射撃に入る。
「…っ、それ、は…」
ララは一瞬怯む。
「そうだね、ここでする話ではないよね。仕方ない、ブラウン嬢は生徒会室へ…」
リアムもトーマスの援護射撃に華麗に乗っかる。
「…っ!お待ち下さい…。食堂へ、参ります。勿論、わたくしも参りますから!!」
丸め込まれたララはギリギリという歯ぎしりの音が聞こえそうなほど悔しげに口元を歪め、男二人を睨みつける。
フローラは一言も喋ることなく、なんか知らない間に食堂行きが決定した。