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16 信用はあるようでない


 生徒会室を無事脱出したフローラは寮へと戻るため、ララと二人足早に廊下を進んでいた。



「フローラ様………申し訳ございませんでした…。わたくしにあの時、眼鏡野郎を殴りつける度胸があればフローラ様をお一人にすることはなかったのに…」


 ララは一人生徒会室に取り残されたフローラを助けられなかったこと、深く後悔しているようだった。



「ララ、そんな度胸はいらねだ。ほんとにやめてけれ、な??」


 ララならば次は本気で殴りかねない…と慄いたフローラは真顔で諭す。



 ララには勿論、主に害成す者をタコ殴りにする度胸は標準で備わっている。今回は眼鏡野郎を殴ればフローラに迷惑をかける事態になるかも、と考え自重しただけにすぎない。



「それに、心配しなくても今回は無事に乗り切ることが出来ただ!ララを学園に連れてくんなって言われた時はどうすっぺと思ったけんど、最終的にはなんとか許可証も手に入れられたしな!」


 フローラはドヤァっと懐から先ほどリアムに書かせた許可証を取り出す。



「え。どのようにして?」


 「えぇ……っと?」


 急に立ち止まったララに、スンッとした表情で疑いの眼差しを向けられたフローラはちょっと焦る。



「えっとぉ……良い感じにお願いしたら、良い感じに一筆書いてくれただ……よ?」


「つまり『言霊』の力を使われたのですね?」


「っ!!………んだ……」


「………。」



 優秀な侍女によってかけられた「なにやってんだお前」という無言の圧力に、フローラは成すすべなく項垂れる。



「すまねだ…。『言霊』だけは使っちゃならねって分かってたけども、ララを学園に連れて来ちゃならねぇって言われて、わたすどうすればいいか分からなくなって…」


「フローラ様ぁ……っ!!!」


 優秀だがフローラ馬鹿の侍女は、敬愛する主に「ララと一緒にいたいから祝福の力を使った」と可愛いらしく白状されて舞い上がらないはずがない。



「今回のことは仕方ありませんわ。そもそも、フローラ様とわたくしを引き離そうとする不届き者共など『言霊』の犠牲になったところで痛くも痒くもないのですっ。不幸な事故だったと思って忘れましょう♪」







 『言霊』はわりと恐ろしい力である、というのがフローラ達の共通認識だ。



 祝福を授かってからの五年間で、試せる祝福の力は幾度となく検証してきたが、『言霊』の検証回数は少ない。




 なぜなら『言霊』は、フローラが願いを込めて相手の行動を制限・強要する言葉を吐けば、言われた相手は自分の意思に関係なくフローラの望んだ通りに動いてしまう、という恐ろしい力だったからだ。





 身体に流れる言霊の力に意識を向けると「この世界に生きとし生けるものはすべてフローラたんの下僕よ☆ただ一言、命じるだ・け♪煮るなり焼くなり侍らすなり好きにしちゃってね☆」というティア神の声が聞こえた…気がした。




 だから検証するにしても、どうしても無難な内容に留まる。


『クッキーが食べたい、作って』や『その本を取って』、『畑の水やりをしてきて』など、平和で害のないお願いで言霊の力を試すと、母や父、ララは「自分の意思とは関係なく勝手に身体が動いた」と証言した。



 言霊による強制力は、クッキーを作り終えるまで、本をフローラに手渡すまで、畑の水やりを終えるまで続いたという。



 この力、言い方一つ間違えれば大惨事を生む。




 曖昧な言い方や、期限を区切らない内容、非人道的な言葉を誤って吐けば、言われた方の人生はその瞬間終わるだろう。


 もし『死ね』と言えばどうなるかなど……考えただけでも恐ろしいので考えない。




 フローラが学園でむやみに喋らないようにしているのは言霊の力のせいだった。

 


 フローラが軽く「〜してほしいなぁ」と思って言った言葉でもわりと簡単に言霊の力は発動するので、よく知らない人間と会話なんて怖くて出来ない。



 フローラの秘密を知る家族達は、「フローラは誰かにひどいことを強要する人間ではないことを知っている。だから私達にまで『言霊』を恐れて無口になる必要はない」と言ってくれた。



 それが今でもフローラの心の支えとなっているのだ。


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