14 そのままの意味ですよね
「聞きたいことというのはね、君のクラスメイト達が提出してきた意見書についてなんだけど」
「?」
リアムから差し出された書類を受け取りザッと眺めると、なにやらフローラに対する不平不満悪口がお上品な言葉でまとめられていた。
ご丁寧なことにクラスメイト全員の署名付きで。
「ここに書かれている事柄は事実なのかな?こちらとしても一方の言い分だけを聞いて処罰を決めるわけにはいかないからね。ブラウン嬢の話も聞かせてほしい」
キラキラ男がうさんくさい笑顔でそう聞いてきたので、フローラはもう一度じっくりと意見書に目を通す。
なになに…。
曰く、ブラウン男爵令嬢は常に侍女を引き連れ鞄を持たせ扉を開けさせるなどし、えらそうに振る舞っている。学園において彼女だけ特別扱いすることは不平等である。
曰く、話し掛けても本人は返事をせずに侍女が返答し非常に感じが悪い。クラス内の雰囲気の悪化に繋がる。
曰く、教師に頼まれた仕事を自分で行わず侍女にやらせる。一人だけ学生としての義務を果たしておらず、他の生徒のモチベーションが低下する。
曰く、伝統ある学園の制服をああもダサく着こなされてはブランド価値が下がる。
最後のは完全に悪口だが、概ね―――
「事実です」
「事実なんだ」
キラキラ男が目を丸くした。
「うーん、そっか。困ったな…。ブラウン嬢はそもそもなぜ侍女を学園にまで連れて来ているの?そりゃ、寮の自室に侍女を待機させることは許可されているけど、さすがに学園の中までっていうのはやり過ぎじゃないかな?」
キラキラ男の言っている意味が分からない。
フローラは胸元のポケットに仕舞っていた学生手帳を取り出し、学園規則が細かくびっしり書かれているページを開いて差し出す。
「ここに、書いてあり、ます」
学園規則―――
高貴な事情があり学園生活を円滑に行えない可能性がある場合に限り学園内に侍女を伴うことを許可する。(抜粋)
「いやいや、これは女性王族が入学した時に侍女を伴うことが多いから一応規則に載せただけであって、一貴族に適応されるものではないよ。イルドラン学園では一応学生はみな平等、を謳っているから表立って王族だけを特別扱いすることは出来ないという事情から作られた規則なんだ」
「?」
「だから、この規則は建前だよ。君は本来侍女を学園に連れてくることは出来ない」
「??」
「分かれよ馬鹿かお前。建前をそのまま額面通り受け取ってんじゃねーよ」
「殿下ぁ!お口!!お口がぁ!!!」
完璧な王太子の仮面が早々に剥がれてしまったことにトーマスは目を剥いて驚く。
「???」
フローラはいまだによく分かっていなかった。
だってこの規則はフローラにそのまんま当てはまるではないか。
高貴な事情(ティア神絡み)があり学園生活を円滑に行えない(火力強めな祝福のせいで)可能性がある場合に限り学園内に侍女を伴うことを許可する。
ほら!!
フローラは貴族特有の会話の裏の裏を読むやり取りや、遠慮のない腹の探り合い、喋る言葉に副音声の本音を忍ばせる芸当など勿論出来ない。
自分の目で見たものだけを信じるし、周囲に促されて意見を覆すこともしない。
だからこの生徒手帳に記されている規則に、「良い」と書かれていれば誰がなんと言おうと良いのだ。