13 うさんくさい男
放課後、プーックスクスとお上品に笑うクラスメイト達に指を差され見送られながら、フローラはララを伴い生徒会室へと向かった。
生徒会という組織は学園に通う生徒達の頂点に立ち導く存在、つまり群れのトップ。
フローラもこの群れに所属している以上、トップに逆らってはいけないと理解しているため、否が応でもでも緊張感が高まる。
フローラの認識している常識は野生寄りだった。
「ララ…わたす、喋らねーほうがいいかも…。緊張してうっかり祝福が発動しそうだべっ…」
「フローラ様、万事このララにお任せください」
ララは胸にドンッと手を当て見得を切る。
「ララぁ…!!」
「うふ、うふふ……」
敬愛する主に頼られたララはニヤニヤが止まらない。
そんなこんなで生徒会室の扉の前にたどり着く。
ララがコンコン、と扉を叩き、「フローラ・ブラウン男爵令嬢が参りました」と告げた。
フローラならこのコンコン、のコンの時点で緊張の余り扉に穴を空けていたことだろう。
しばらくして扉が開くと、朝廊下で見掛けた男の内の一人が顔を出す。
「ああ、来て下さりありがとうございます。ブラウン嬢ですね。どうぞお入り下さい」
「失礼致します…」
フローラは思った。なんかうさんくさい男だべな、と。
水色の長めの髪の毛をサイドで紐で結び、縁無しの眼鏡をかけた優しそうな風貌の男。
うさんくさそうな要素は一切ないのだがフローラの野生の勘が「この男は要注意」と告げてくる。
だが、群れのトップの組織に逆らうわけにはいかないのでしずしずと入室する。
ララもフローラに続こうとしたが、眼鏡男に止められた。
「おっと、ここには機密事項の書類が多くあります。貴族以外の入室は禁止されていますので、あなたは外でお待ち下さい」
「なっ!」
ララが抗議する間もなく無情にも扉はバタンと閉められた。
フローラを室内に残して。
「………………っ!!!」
(ま、まずいだ…)思いがけない事態にフローラの心臓はドッドッドッと早鐘を打つ。
見ない喋らない触らない、という祝福を発動させない三原則を慌てて頭の中で復唱する。
「ブラウン嬢?どうぞこちらへ」
「…はぃ」
扉付近で固まるフローラを訝しく思った眼鏡男に促され、仕方なく勧められたソファにそっと座る。
フローラが座ったソファの向かい側、テーブルを挟んだ先にやたら目に眩しい男が座っていた。
金色の髪も緑の瞳も、制服についているボタンですらキラキラキラキラと輝いている。
フローラは思った。
このキラキラ男、眼鏡男よりも遥かにうさんくさそうな男だべ……と。
だが群れのトップ、(以下略)。
「急に呼び出してすまなかったね。私は生徒会会長のリアム・イルドだ、よろしく。そしてこっちの彼はトーマス・クラーク。私の右腕として働いてもらっている」
キラキラ男が爽やかに自己紹介してきた。
生徒会長ということは群れのトップの中のトップ、つまりボス。フローラは序列を理解した。
それにしてもリアム・イルド…?聞いたことがあるようなないような名前だが、どこで聞いたのか思い出せない。
「フローラ・ブラウンと、申し…ます」
余計なことは喋れないフローラはもはや名乗ることしか出来ない。そして訛ってもいけないのでどうしても辿々しくなる。
「緊張しているのかな?可愛いね。でも心配しなくても大丈夫だよ。少し聞きたいことがあるだけだからね」
「はぁ…?」
フローラはついつい、何言ってるだこいつ?という目で見てしまったが、キラキラ男の後ろに立つ眼鏡男も同じような目でキラキラ男を見ていたので、ちょっとだけ眼鏡男に親近感がわいた。