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117 本願成就


 【フローラはついにドラゴンのペットを手に入れた!!】


 欲しい欲しいと思いながら苦節十年。人間をペットにしようと試みたりもしたが、アリアはまったく手がかからず物足りなさを感じていたところだった。


 それが―――ついに!!


 フローラは腕の中でゴロゴロと喉を鳴らしそうな勢いのルルーシュをうっとりと眺める。



「よし!!早速領地へ連れて帰って存分に愛でるだ!!」 


「ちょっと待ってフローラ!」


 いそいそとこの場を後にしようとするフローラを、レオは慌てて呼び止める。


「言いたいことは山ほどあるんだけど、まず、虹色の瞳はどうするつもりなの?」


「あ、忘れてただ。創造の力がなくなったから眼鏡も消えちゃったみたいだべ。わたすの力を譲渡したルルーシュ様なら創造の力が使えるでねーの?」


 フローラは期待のこもった眼差しを送るが、気まずそうな顔をしたルルーシュに目を逸らされてしまう。


『えっと…。確かにフローラからほとんどの力を貰ったけど、ボクじゃフローラの瞳を隠す眼鏡は創れないよ…』


「なんで?」


 フローラの尤もな疑問にはイアフスが答えてくれた。


「フローラは自らがもつ祝福の力のほとんどをまきこんで『癒し』の力をつかったことで神格化がすすみ、ほぼ女神になってる。

 女神の使徒であるルルーシュには女神の力をおさえるほどの力はないから『創造』をもちいても虹色の瞳をかくせるめがねは創れない」


「…!?」


「え?なんて??」


 レオは事の重大さに気付いたようだが、フローラにはあまり伝わらなかったようだ。


「……つまりフローラは人間ではなくなったと?」


「えぇ!!?」


「いや、まだかろうじて人間だよ」


「かろうじて!!?」


 レオとイアフスの会話の合間に、フローラの驚きに満ちた叫びが挟み込まれる。


「え、え!?わたす、一体どうなったんだべ!?」


「わかりやすくいうと、ルルーシュをたすけるために強力な神の力をつかったから、フローラは女神として成長してしまったんだよ。

 逆にいうと、ただの人間ではティアの使徒であるルルーシュは救えなかったということ。

 割合でいうと、いまは半分人間、半分女神ってところかな」


「え、わたす半分だけしか人間じゃないの…??」


「フローラはいま『癒し』の力しかもっていないけれど、その力は天界でも一、二をあらそう強さに進化している。天界に住めば治癒の女神とよばれるとおもうよ」


「天界!?絶対行かないべ!?」


 フローラはもう涙目だ。「ついに人間を辞めるなんて、あんたって子は〜!」と怒る母親の姿が目に浮かぶ。


『フローラ……本当にごめんね?ボク、フローラに助けてもらったのになにもしてあげられない…』


 ルルーシュはフローラが自分のせいで困った事態に陥っていると敏感に察知し、止まりかけていた涙がみるみると溢れてきている。


「よしよし、泣かなくても大丈夫だ。ルルーシュ様を助けることが出来たんだから、虹色の瞳のことでちょっと騒がれようが半分人間やめようが全然大したことじゃないべ!」


 ルルーシュを慰めるためか、はたまた本気で大したことはないと思っているのか、どこまでも楽観的なフローラの言葉にレオはため息をつく。


「フローラ……。虹色の瞳は君が思っている以上に―――」


「め、女神様!!?」


 後ろから聞こえてきた声にレオが振り返ると、そこには散り散りになって逃げていた騎士達の姿が。

 上空の門と漆黒のドラゴンが消えたことで広場に戻って来たようだ。


「ちっ…」


 最悪なタイミングに思わず舌打ちが漏れる。しかし眼鏡のないフローラは眼鏡ありの顔とは別人だ。女神が降り立ったとか何とか言えば誤魔化せるかもしれない…とレオは口を開きかけたが、空気の読めない人間が一人いたせいでそれも叶わなくなった。


「フローラ様ぁぁぁ!!よくぞご無事で……!!」


 イーサンの馬鹿でかい声が瓦礫の山と化した街中に響き渡る。


「え、あの御方は女神様じゃなくて、フローラ様なのか!?」


「そういえば…お召し物が一緒だ!!」


「フローラ様が虹色の瞳を持つ女神様だったなんて…!」


 騎士達は口々に好きなことをわぁわぁと囀って、収拾がつかなくなっていた。


「隠せないなら仕方ない」と諦めも早かったフローラは、そんな騎士達の騒ぐ声など意にも介さずルルーシュを愛でており、両者の温度差がひどいことになっている。

 レオがこの場をどう収めようかと頭を悩ませていると、一人の騎士の呟きが耳に届く。


「イアフス神の眷属であるレオ様と虹色の瞳を持つフローラ様、なんてお似合いのお二人なんだ…」


「確かに……!お二人が共にいて下さればイルド王国は安泰だ!」


 その声をきっかけにフローラとレオを讃える流れが広がっていく。


「お二人のおかげで王都に平和が戻ったぞ!」


「フローラ様、レオ様!!ありがとうございます!」



 厄災を退けたのはフローラだが、自分まで讃える声をレオは否定はしない。なぜなら虹色の瞳を持つ女神に相応しくあるためにはそれなりの功績と理由が必要だからだ。


 イアフスに眷属だと宣言されたり騎士達に小神様だと勘違いされた時はどうしたものかと頭を抱えたが、フローラの虹色の瞳が晒された今、よくぞ言ってくれた!と感謝して回りたいほどだ。


「フローラ。領地へ帰る前に一度王宮へ行こう。陛下にご報告しなければ。イーサン様も一緒に来て下さい」


「はっ」


 レオの提案に、当たり前のようにフローラの側に侍っていたイーサンが頭を下げて返事をする。どうやらレオのことを小神様と信じ切っているようだ。



 こうして虹色の瞳の乙女は純白の神聖な生き物を腕に抱き、イアフスの眷属である黒髪の偉丈夫にエスコートされながら、王国最強の男を筆頭に精鋭の騎士達を従え王宮へと向かう運びとなった。


 騒がれないはずがなかった。







***


「陛下!!た、大変です!!虹色の瞳の女神様が陛下に面会を求めておられます!!」



 リアム達は空想上の生き物であるドラゴンが門から現れた時点で死をも覚悟したが、空中にキラキラと輝く巨大な檻が現れてドラゴンを閉じ込めたかと思えば、それが落下したことによる砂埃でなにも見えなくなりヤキモキしていたところだった。

 その後虹色の雨が降り注いだことでフローラの仕業を確信してはいたのだが―――

 

「虹色の瞳の女神って……」


「フローラ、ですね……」


 国王と顔を見合わせたリアムの目は死んでいる。

 なぜ公の場で眼鏡を外すはめになっているのか。

 だがフローラがやって来たということは無事であるということに他ならない。虹色の瞳のことはとりあえず置いといてリアムは心からホッとする。


 国王が入室を許可すると白い生き物を抱いたフローラと、腕にくまのぬいぐるみを巻き付けたレオが入ってきた。


「レオ…。やはりお前も来ていたんだな」


「勿論です。私がフローラを一人で死地にやるわけがないでしょう?殿下はご無事でなによりですね」


「…っ」


 レオの強烈な皮肉に返す言葉もなかった。リアムが安全な場所にいてぬくぬくと守られていたのは事実だからだ。


 静まり返った室内に気付いたリアムが振り返ると、国王やジョージ、レオの父親である宰相は微動だにせず固まっていた。彼らの視線の先にはフローラがいる。

 リアムとて見慣れたわけではないが、初見で虹色の瞳とフローラの愛らしい容姿をみればそうなるだろうなという順当な反応だ。



「………本当に、フローラ、ちゃんなの?」


「?はい」


「確かに声はそっくりだ……」


 眼鏡ありと眼鏡なしの顔面の差が激しすぎて、例え声が同じだったとしても脳が混乱してしまう。


 魔物との戦闘で髪や服はボサボサのボロボロという出で立ちだったが、強い意志を宿した虹色の瞳は強烈なまでの輝きを放っており、フローラの魅力を何一つ損ねていない。

 可愛いと評される顔立ちだが、桜色のぷるんとした唇はきゅっと引き締められており、愛らしさの中に凛々しさ神々しさもプラスされた今のフローラは完全無敵状態といっても過言ではなかった。


 国王とて己の立場がなければイーサンのように肢体を投げ出しフローラに跪きたかったことだろう。



「えっと……フローラちゃんは人間、ということで大丈夫?あとから女神に対し無礼な態度を取った罪で裁きが下る、とかない??」


 さすがの国王も虹色の瞳の乙女を前にしては正常な精神ではいられなかったようだ。何やらおかしなことを確認している。


「わたくしは人間、です。本当に、人間ですから」 


 大事なことなので二回言った。フローラは半分女神という事実を見事に葬り去る。



「フローラ、ごめん。どうしても誤魔化し切れずに陛下とジョージにはフローラの祝福について話してしまった」


 リアムが悔しさを滲ませた顔で謝罪してくるも、虹色の瞳が晒され、ほとんどの祝福を失った今となっては些細なことだ。フローラは気にしないでの意味を込めて軽く頷く。



「そっか…人間なんだね。じゃあ普通に話させてもらっていいかな?」


「もちろんでござい、ます」


 国王から敬語を使われたり下にも置かぬ扱いを受けたらやりにくくて仕方がない。

 

 フローラは美しいカーテシーを披露して国王へと従順の意を示した。



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