11 イルドラン学園生徒会
翌朝、いつものようにララに鞄を持ってもらいつつ登校し、ララに開けてもらった教室の扉をくぐり、ララが恭しく引いてくれた椅子に座る。
教室後方、お決まりの窓側の定位置だ。
フローラは物を細胞レベルで粉砕してしまうことを恐れ、このように、何も知らぬ人からすれば傲慢にも見える振る舞いをしていた。
忘れもしない、あれは入学式の朝。
荷解きを終えたばかりの寮の自室を出て、入学式が行われる講堂へ向かおうとした時のことだった。
ララに「行ってらっしゃいませ」とにこやかに見送られ、フローラは田舎育ちゆえ人の多い環境になれておらず「ちょっと緊張するな〜」と思いながらドアノブを軽く握ると、ジュンッ…とあり得ない音と、握ったはずのドアノブが消失している感触がした。
「「?!??、?!!」」
人混みに対する不安と、訛れないプレッシャーを感じており多少精神が不安定であることは自覚していたフローラだが、でもこの程度の揺らぎで『怪力』を制御出来なくなるとは思ってもみなかった。
「どどどどどうすっぺこれぇぇ!!!」
「お、落ち着いて下さいフローラ様!!とりあえずドアノブを『創造』しましょう!式にはわたくしも共に参ります、ご安心下さい!」
その後ドアノブを『創造』してから慌てて講堂へ向かい、ララのお世話になりつつなんとか入学式を終えた。
フローラの他に侍女を伴い入学式に参加している者はいなかったので、周囲の人達に白い目で見られていたが、触れたものを粉々に粉砕してドン引きした目で見られるより遥かにマシだろうと思うことにした。
わたす、ララなしに学園生活を送れる気が一ミリもしねーだ…。
ララが助けてくれると思えるからこそ、精神が安定している側面が十二分にあるのだ。
フローラは、感謝の気持ちを込めて廊下に佇むララを見つめる。
生徒ではないララは授業を受けることは出来ない為、ああやって廊下にずっと立って授業が終わるのを待ってくれているのだ。
感謝と申し訳ない気持ちで教室の窓からぼんやりララを見つめていると、どこからか男が二人やってきてララに何やら話しかけているのが見えた。
「?」
「「「「っきゃぁぁぁぁあああ〜〜〜!!!」」」」
「っ!!?」
誰だべ?と思う間もなくクラスのお上品なはずの女子から悲鳴のような歓声が聞こえ、フローラは思わず机を粉砕しかねないほど驚いた。
男達はララと二言三言話したかと思えば、颯爽と立ち去って行く。ララは頭を深く下げ男達を見送った。
「昨日の今日で会長様自ら動いて下さるなんて…さすがイルドラン学園生徒会ですわね」
「今年の会長はリアム殿下ですもの、益々のご活躍が楽しみですわ」
「見ましたこと?リアム殿下の麗しいご尊顔を!」
「側近候補であらせられるトーマス様も素敵だったわ!」
「それに……あの芋女も終わりね」
「クスクス!楽しみですわ!」
クラスの女帝である公爵令嬢アマンダとその仲間達が何やら興奮気味に話しているが、ララから窓越しに送られてくる高速ハンドサインを読み取ることに気を取られフローラは聞いていなかった。
『生徒会長を名乗る人物から放課後生徒会室に来るよう命じられました。』
『了解。』
シュバババッと素早くハンドサインを送り合い、先ほどの男達の用件を知る。
ちなみに手の動きが早すぎて、常人には二人がハンドサインを送り合っていることすら気づけないだろう。
フローラの領地では狩りをする時に大変便利なので、文字を覚える前にハンドサインを覚えるのが一般的だ。
生徒会っぺ?一体なんだべな…。
フローラは一人首を傾げた。