108 恥ずかしい出発
【121話+おまけ】で完結となります。
どうか最後までお付き合いよろしくお願い致します。
「……まず、アンダーソン様は選考メンバーから除外するべきかと。尊き御身であらせられますのに、自ら危険な場所へ足を踏み入れるなど愚の骨頂。聡明であらせられるアンダーソン様ならば言われずとも自ら辞退なさると思いますが」
「言えてますぅ。怪我なんかされてブラウン家のせいにされても困りますしぃ?ここは大人しく引っ込んでてもらうのがよろしいかとっ」
「何を勝手なことを。それを言うなら一番非力なララこそ領地に残るべきだ。君がフローラと共に王都に行って何が出来る?
真にフローラのことを想うのならば自分は重荷にしかならないと自覚し、この地で大人しくフローラの帰りを待つことだ」
「っ、…」
「それもそうですねぇ。その点、私はこの中で一番身軽で経験豊富ですぅ!必ずやフローラ様のお役に立ってみせましょう!!」
「アリア、お前はボスの黒い液体に怯えていたな?肌を溶かされることが怖いんじゃないか?火を噴く魔物はいないと言い切れないのに、本当にフローラと共に王都へ行く覚悟はあるのか?
みっともなく腰を抜かした挙げ句、惨めに焼け死にたくなかったらお前の方こそ引っ込んでろ」
互いに互いを貶め合う醜い戦いがここにはあった。
ララは必要以上に丁寧な言葉使いでレオを貶めては返り討ちに合い、アリアはボス戦で動揺したことをばっちり把握されていて心をへし折られる。
レオは必ずフローラと王都へ向かうと決め、容赦なく二人をやり込めた。
「う、ぅぇーん、フローラ様ぁ〜!アンダーソン様が大人気ないんですぅ〜〜」
形勢が悪いと判断したアリアは必殺の泣き技でフローラに縋りつく。
フローラはビスケットを水で流し込む作業に忙しく、三人のやり取りなどまったく聞いていない。
「ん?誰が一緒に行くかなんてもう決まってるだ」
「え!?誰ですかぁ!?」
「ララですよね、フローラ様!!」
「レオ様だ」
「えーー!!そんなぁ〜〜!!」
フローラの一言にララとアリアは項垂れ、レオは満足そうな笑みを口元に浮かべる。
「ティア様はこの状況を楽しんでるから頼りにはならねーけんど、王都にはイアフス様の依り代がある。ルルーシュ様に対抗する手段を教えてもらえるかもしれないし、それにレオ様にはイアフス様に授かった強力な守護がある。今回はその力が必要になる気がするだ」
フローラはもしゃもしゃと食べつつも冷静な思考でちゃんとこれからについて考えていた。
「それにわたすも本気出して王都に向かうから、頑丈なレオ様しか耐えれないと思うだ」
「? とにかく私で決まりだね。すぐ準備してくるよ」
レオは使っている部屋へと急ぎ足で戻って行った。
「フローラ様ぁ……」
「アリア!!すぐに馬を出して。
フローラ様、ともに行けなくとも必ず王都に参ります。私は何があってもフローラ様のお側にいると決めておりますから!」
フローラにしぶとく泣きつこうとしていたアリアを遮り、ララは決意を口にする。
「ララ達も来てくれるのけ?気をつけて来るんだど」
そう言うとフローラは二人に、リアム達に掛けたのと同じように体力回復の癒しの力を掛ける。
あの五日は寝かせてもらえない鬼畜仕様の力だ。
「ぅぇ……」
「ありがとうございます!!フローラ様!!私達が乗る馬にもお願い致します!!」
寝たいのに眠れない辛さを正しく理解しているアリアは嫌な顔をしているが、ララは感謝の言葉を口にしたあと、アリアの首根っこを掴み準備のため部屋へと連行して行った。
「……フローラ、無理だけは絶対にするな」
「え!?あ、父様か。分かってるだ、自分の力の限界を見誤るな、だべな!」
「そうだ」
いきなり聞き慣れない声が聞こえて一瞬驚くも、自分の父親の声だった。フローラは“鍵”となった五歳から何回も聞かされたダンの言葉を復唱した。
といっても自分の力に限界を感じたことは一度もなかったが。
「―――フローラ。絶対に無事に帰ってきて、またその可愛い顔を私に見せて……」
「母様!当たり前だべ。夏季休暇はまだあるから王都の門を閉じたらすぐ帰ってくるだ!」
涙を浮かべて抱きしめてくるアンナとは対照的に、フローラは近所に出掛けるくらいの気軽さで応じる。
そこへ着替えを終えたレオが戻ってきた。
「おまたせ。すぐ出れるよ」
「わたすもたくさん食べたからこれで思いっ切り動けるだ!」
ララとアリアも戻ってきて、全員で家の外に出る。
当然だが辺りはまだ真っ暗で、シーンと静まり返っていた。そろそろ早起きな三婆達が起きてきそうだ。
ララ達が乗る馬にも癒しの力を掛け、それにより「早く走りたい!」と興奮してしまった馬の首筋をポンポンして宥めたあと、「よしっ、行くかー」と呑気な声を出し、フローラは地面にうずくまる。
「? フローラ?」
「さ、レオ様、わたすに乗るだ」
「!?」
まさかフローラのおんぶで移動するのか!?と驚愕したレオは、一応確認を取る。
「………フローラ?私達も癒しの力を掛けた馬で行った方が速いんじゃないかな?
さすがに王都まで何日もフローラが走るなんてことは出来な―――」
「わたすが本気出して走ればたぶん明日の朝には王都に着くだ。ただ、今まで一度も本気出したことがないからレオ様の身の安全が保証出来ないけんど……天界基準の頑丈な身体があれば平気だ!きっと!」
「そんな速さで移動する乗り物に乗ったことはないからさすがに自信ないかな!!?」
単騎で駆け五日掛かった距離をわずか一日ちょっとで移動する乗り物……。まず、呼吸がきちんと出来るのか、振り落とされずに捕まっていられるのかが謎だ。
「大丈夫だ、レオ様がしんどそうならスピードは調整するだ!時間がねぇから、さ、どうぞ?」
「……、くっ……」
なんやかんやで「好きな女の子におんぶしてもらう自分」という絵面が嫌だったレオは、王都壊滅と自身のプライドを天秤に掛けた結果、僅差で人命を選び、しぶしぶフローラの背中に覆いかぶさる。
「よいしょっと」
フローラは難なくレオを背負って立ち上がるが、いくらフローラが長身と言えど百九十以上あるレオをおんぶすれば、それはもうはたから見ればシュールで滑稽な姿になるわけで。
「ぷぅぅ!!!プフッ!!なにあれ、ウケるんですけどぉ〜〜〜!!」
「ざまぁみろ……フローラ様のお供に選ばれるという栄誉を手にしたのだからそれくらいの恥、甘んじて受け入れなさい」
「まぁまぁ!フローラ、レオ様の足をどこかにぶつけたりしないようにね、長いんだから!」
「……」
アリアは「フローラにおんぶされるレオの図」を思いっ切り笑い、ララは独り言を装うもバッチリ聞こえる声量で毒づく。
アンナはプラプラしているレオの足が気になるようだったし、ダンは相変わらずのだんまりだったがその目には憐れみがしっかりと浮かんでおり、それが地味に一番レオの心を抉った。
「じゃあ、行ってきまぁす!!」
「フローラ様!私達もすぐ追い掛けますか、ら……」
ララが言い終わる前にフローラの姿が目の前から一瞬で消えたかと思えば、少し遅れてものすごい風がビュンッと吹いてきてララ達はよろける。
「え、なに、今の……。フローラ様、消えませんでした……?」
「嘘でしょ……。あの子ってあんなに早く走れたの!?」
「いえ、あれはもう走るとかの次元ではないのでは?音速レベルでしたよ!?」
フローラが言っていたように、今までの身体能力ですらすでに異常だったが、あれはまったく本気ではなかったのだ。
本気を出したフローラは人々の視界に入ることなく、音の速さで移動することが出来た。
***
「えー、フローラたん嘘でしょ〜!!」
天界から世界の終焉を見届けるべくフローラウォッチングを楽しんでいたティアの誤算は、フローラの本気の力を知らなかったこと。
フローラの前世である戦闘民族のポテンシャルを舐めていた。これほどの能力があると分かっていたのなら王都の魔物襲撃をまだ教えなかったのにぃ、とティアは悔やむ。
「ま、まぁいいわ。これもフローラたんの新しい一面を知れたということで良しとしましょう☆」
気を取り直したティアは美しい顔に妖艶な笑みを浮かべる。
「次はあなたの番よ、ルルーシュ」
「私にあなたの本気を見せてちょうだい?」
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