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107 異常な女神

誤字報告ありがとうございます!!いつも助かっておりますm(__)m


 うずうずしながら待ち侘びた三日後、ティアは満を持してフローラの夢の中に登場した。


「フローラたぁぁぁん!!健やかにしてた??お腹一杯ご飯食べてる??あら、少し背が伸びたんじゃない??」


 ぎゅうぅと抱きしめながら高速でほっぺとほっぺを擦り合わせてくるティアに、フローラは笑いながら答える。


「ティア様、昨日の夢の中でも会ったのにほんと大袈裟だべなぁ〜」


「ふふ、私はもう夢の中で会うくらいでは満足出来ない身体になってしまったの♪今までは天界から眺めるだけで良かったのに…フローラたんを渇望する欲って際限なく膨らむのね、知らなかったわ」


 粘着質なストーカーのようなことを呟かれているが、「また何か分からないことを言ってるだ〜」とフローラはあまり気にしていない。



「そうそう!なんと今日はフローラたんにサプライズ報告がありまーす、パチパチパチ☆」


「? サプライズ??」


「そう!なんと王都の上空に〜〜〜、“門”が開きましたぁ〜〜!!」


「え………え!?」


 王都に発生した“門”が、フローラのよく知る“門”のことを指すならば、サプライズだなどと言って嬉しそうに報告して良い事案ではない。

 ティアがあまりにも無邪気に笑うものだから、フローラは一瞬「“門”ってなんだっけ?」と考えてしまった。


「“門”って…魔の森に開く“門”のことけ!?え、魔物が出てくる、あれけ!??」


「そうよ!ルルーシュが暴走して魔を受け入れたの。拠点をはじまりの地から王都へと移したことで“門”が開く場所も移動した」


「ルルーシュ様が暴走……!?一体なんで…」


「あはっ。あの子ったら神獣の分際でフローラたんの存在に嫉妬したみたいね。私にデロデロに愛されたフローラたんが許せなくて世界を滅ぼす〜っなんて言ってたわ☆

 ちなみにこれは三日前の話し。開けようとしてる“門”が大きすぎて中々開かないみたいだけど…それでもあと二日もすれば徐々に開くはずよ」


「っ、ティア様!!!」


「ふふ、なぁに?フローラたん」



 さすがのフローラも自分に憤るのではとティアは期待する。

 フローラの新しい感情を引き出すためだけに人間の命を弄んでいるという自覚は一応あるらしく、ティアは「失望から来る怒りをぶつけられてみたい!!」とわくわくしながらフローラの続きの言葉を待った。



「教えてくれてありがとうございます!!だいぶイ…ちょっとズレてるティア様なら、すべて終わった後でわたすに教えることも考えたはずだで!」


「ま、まぁ…!!」


 フローラに自分のイカれた思考をしっかりと把握されていることに感動したティアは目を輝かせる。



「だから、教えてくれてありがとうございます!!今ならきっと―――全部守れる!!」


「!!」



 全部守ると言い切ったフローラに迷いや恐れ、不安の感情は一切なく、強い意志を宿した虹色の瞳がオリジナルのティアを超えてキラキラと輝く。



「ふ…、ふふ、あはっ!」


「ティア様!!今日はこれで失礼するだ、わたすもう行かないと!」


「ふふ、ふふふっ!!いいわよ。いってらっしゃい、私の愛しい子♪」


 ティアがそう言うと夢の中の白い空間が崩れ始め、やがてフローラの姿も霞となり消えていった。


 崩壊の進む空間に一人となったティアは堪え切れずに笑い出す。


「ふふふ、………あはははは!!!!なんって綺麗な存在なの!!濁るということを知らないのかしら!?

 希望に染まったフローラたんの瞳の輝きといったらもうっ、世界中の宝石をすべて集めたとしても敵わないほどの光を放つ!!」


 興奮しながらフローラを称えたかと思えば、今度は恍惚とした表情でクスクスと仄暗く笑う。


「ふふっ。ふー……。ああ、本当に楽しみだわ……!

 あの輝きはどのような過程を経て鈍く暗く消えて行くのかしら?

 すべて失った後も私に笑顔でお礼が言えて?」



「貴女を見つけて、選んで、愛して正解だったわ」



「私をもっともっと楽しませて……世界が終わる、その時まで―――」



 




***


 フローラは目を覚ますなり毎朝の寝起きの悪さが嘘のように、ガバッとベッドに起き上がった。

 窓のカーテンをサッと開けて夜空を確認したところ、おそらく時刻は夜中の二時頃。フローラほどの野生児になれば星の位置でだいたいの時刻が分かる。


 フローラはまず麻のパジャマを脱ぎ捨て、麻のシャツとズボンに着替えた。どちらがパジャマでどちらが普段着か分からないほどこの二着に差はなく、はっきり言って着替えは時間の無駄だったが、アンナに「パジャマでうろうろするな」と厳命されているので仕方がない。

 手早く準備を終えたフローラはバタバタと居間へと入り、キッチンの食料庫を漁りながら固いパンやハムなどをパクパクとつまみ出した。これから王都へ向かわなくてはならないのでエネルギー摂取は欠かせない。



「―――フローラ?貴女一体何を……、え!?本当に何してるの!!」


「フローラ様っ、お腹が空いちゃったんですか?ララに申して頂ければこっそり夜食をお持ちしましたのに…!」


「あーあ、こんなに派手に荒らしちゃったら奥様にバレバレじゃないですか〜。怒られるって分かってるでしょーに」


「フローラ、さすがに夜中にその量は食べすぎだよ。もう寝よう?ね?」



 狭い家の中をドタバタガサゴソとフローラに動き回られては、皆自然と目が覚めてしまう。ランプを手にしたアンナに合流した面々は、暗闇に浮かび上がった食料を漁るフローラの姿にドン引きだ。

 その中でもララは安定のフローラ至上主義だったし、レオは可愛いものを見る目で優しくフローラを説得していたが。ちなみにアンナの背後にはダンが佇んでいる。


 そんな周囲の声などお構いなしに食料庫を空にする勢いで食べ続けたフローラは、最後に汲んであった水をゴクゴクと飲み干しふーっと息を吐く。


「わたす、今から王都に行くだ」


「えっ、今からって……今すぐですか!?」


「フローラ、何があったの?」


 ララが驚きの声を上げ、常にない様子に気付いたレオが真剣な顔でフローラに問い掛ける。


「さっきティア様に教えてもらったけんど、王都の上空に“門”が出現したらしい」


「「!?」」


「王都に!?」


「そんな……!」


 驚く周囲をよそに、食料庫の底に隠してあったビスケットを発見したフローラはいそいそと包みを開け始めるも、アンナにそれを咎める余裕はない。


「どういうことなの!?これまではブラウン領でしか“門”は開かなかったでしょう!?なぜ、なぜ今になって王都で門が開くのよ!!」



 アンナはブラウンに嫁いだ身であり、厄災について本当の苦しみを理解しているなどとうてい言えない。


 だが、命を掛けて魔物と戦うダンやフローラの姿を見てきたので、なにも知らない王都の連中にも同じ目に遭わせてやりたいと思ったことは一度や二度ではなかった。


 それでも―――いざ現実にそうなってみると、心に去来する感情は身も凍るほどの恐怖。


 ブラウンは代々魔物と向き合い、そして研究してきた、いうなれば魔物討伐に特化したプロだ。

 フローラが“鍵”となってからは、正直ダンが“鍵”を担っていた時よりも安心して送り出せているほどに手慣れている。


 だが、王都の人間はそうは行かない。

 初めて対峙する未知の生き物である魔物に、なす術なく蹂躙され尽くして終わるだろう。その悲劇の規模は二百年前に起きたブラウンの厄災を遥かに凌ぐはずだ。


 あまりの事態にアンナは青ざめて呟く。


「なんで……いきなり、こんな……」


「ルルーシュ様が暴走したらしいだ。わたすの存在にとっくに気付いておられて、わたすのことを憎んでる。この世界ごと終わらせようと考えるほどに」


「!!」


 深刻な話しのはずがフローラの口元についたビスケットの粉が気になってしょうがない。ララがハンカチでサッと口の周りについた粉を落とす。



「………フローラは自分のせいだと思っているから王都に行くの?それなら私は違うと思うよ。

 ティア神様に愛されたのはフローラのせいではない。ルルーシュ様の暴走はただの逆恨みだ」


 王都に赴いたフローラが、万が一魔物に虐殺された人々を目にしてしまった時、何を思うのか。これ以上フローラに重荷を背負わせたくないレオは、無駄だと知りつつも説得を試みる。


「レオ様、わたすはそんなことまったく思ってないだ。ルルーシュ様が仕出かしたことはルルーシュ様だけの責任だで。

 ただ、わたすが行って助けられる命があるのなら助けたい、それだけだ」


「………そっか。分かった。私も行くよ」


「私もどこまでも着いて参ります!!」


「はぁい、私も行きまぁ〜す」


 レオは諦めたように苦笑しながら、ララは決意を漲らせ、アリアはどこまでも軽い調子でフローラに「王都へ供に行く」と告げる。


 ダンは迫力ある苦悶の表情でフローラをじっと見つめており、その胸中は自分も着いて行きたいが領地の守りがあるためそれは叶わず葛藤が止まらない、といったところか。



「王都までかなりスピードを出すつもりだから連れて行けても一人だで」 


「「「…!」」」


 フローラの言葉を受け、突如としてレオ、ララ、アリアによるお供争奪戦が始まった。

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