10 祝福その二
学園の寮の一室、狭いが個室であるこの部屋の中でだけ、フローラは本来の姿で過ごすことが出来た。
「やっぱりもっと改良が必要だべな〜」
フローラはかけていた眼鏡を外し、ゴトッと雑にテーブルに投げる。眼鏡にしては重たすぎる音がした。
眼鏡を外したフローラは、平凡な地味顔とは正反対の可愛らしい顔をしていた。瞳は神秘的な虹色に輝いている。
学園や領地で日常生活を送る上で、まずなんとかしなければならなかったのは、ティアにマーキングされて虹色に変化してしまった唯一無二の瞳だ。
祝福を受けた女の子の瞳が虹色に変わったとなれば、ティア神様の生まれ変わりか!?と大騒ぎになることは間違いない。
そこでフローラはまず虹色の瞳を隠す眼鏡を創ることにした。
フローラが授かった祝福のうちの一つ『創造の力』を使って。
ティア神がこの世界を創造した際に用いたのと同等の力だ。
想像力で創造する無限の力。
体内に流れる創造の力に意識を向けると「フローラたん、物作り好きよね?この力を使って殺戮兵器でもホムンクルスでもイケメンばかりの桃源郷でも、なんでも好きなもの創ってね☆」というティア神の声が聞こえた…気がした。
フローラ達は最初、この力を使うことに心底びびっていた。だだの人間が使っていい力では絶対にない。
だが、田舎育ち特有の大らかさと適当さで「なんか創ってみる…?」から始まり、凝り性だったフローラの性格も相まって、最後は皆ノリノリで「こんな機能もつけようよ!」なんて言いながら様々な機能を盛り込んだ眼鏡を創りあげてしまった。
顔の印象操作、瞳の色の隠蔽、くもり防止機能等ををつけた眼鏡のおかげで、フローラの顔がなんとなくぼやけて見えて記憶に残りずらい地味な印象を与え、分厚い特殊加工がされたレンズを通すことで虹色の瞳がありふれた茶色に見える。
温かい飲み物を飲んでもレンズがくもることはないという優れものだ。
他にさらっと望遠、遮光、盗難防止、鑑定機能もつけてみた。
誰に見せることもないが、この眼鏡は間違いなく国宝級、いや、神の神器と称される唯一無二の貴重な品だろう。
フローラは雑に扱っているが。
「フローラ様は本当はこの世のものとは思えぬほど愛らしいお顔立ちをしているのにその無粋な眼鏡のせいで、クラスの女狐どもに地味だブスだなどど言われてしまうなんて…」
ララに至っては主を貶める一因となっている神器(眼鏡)を、隙を見て壊してしまいかねないほど忌々しく思っている。
テーブルに置かれた眼鏡がなんとなく物悲しく見えた…。
「わたすのことは別に誰になんと言われようと構わねーんだ。三年間無事に学園に通い貴族としての義務を果たすことが出来ればな」
フローラは学園を無事卒業した暁には領地へと舞い戻り、両親とララと村民のみんなとずーっと一緒にのんびり暮らす気満々なのだ。
その為にも瞳のことや多すぎる祝福について誰にも知られるわけには行かない。
地味だ田舎者だと馬鹿にされようが、それで秘密が守られるのならば痛くも痒くもなかった。
ララまで悪く言われるのだけは許せないが。
「フローラ様がそうおっしゃるなら…」
ララは渋々納得したようだったので、ララに破壊されることを免れた眼鏡はほっとしているように見えたとか見えなかったとか。