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第44話 おじさん、告られる③

 カイザスの西地区にある大きな教会。

 その裏にある小高い丘へとやってきた。

 天気がいい。

 草の匂いが気持ちのいい風に乗って鼻をくすぐる。


 俺。

 セオリア。

 ハンナ。

 ミカ。

 四人のぎこちなかった空気が少し和らぐ。


 さて。


「話そうか」


 俺たちは大樹の作った木陰に腰を落す。


「にしても、まさかあの時の子たちとまたこうして一緒に集まることがあるとはなぁ」


 しみじみそう思う。


「まさかじゃないわよ。私たちはずっとこういう日が来るのを待ちわびてたんだから」


 セオリアがちょっと怒ったように言う。


「そうだぜ! 私はちょっと途中で道を間違えちまったけど」


 続けてハンナ。


「さすがに盗賊は間違いすぎ。ほんとハンナは馬鹿なんだから」


 鋭いツッコミを入れるミカ。


「おいっ! 馬鹿ってなんだよ! このつるぺたクソガキ!」


「はぁ~? これでも中身は十八才なんですけど? しかもケントにかけてた呪い……じゃない、寿(いわ)いを解いたからこれからバッツンバッツンの大人の女になっていくんですけど?」


 ん?

 今、サラッと俺に呪いをかけてたって言ったよね?


「ミカ……?」


「ひゃ、ひゃい……? ケ、ケントしゃま……?」


 びっくりした時にミカは赤ちゃん言葉になる。

 体も子供だし、本当に子供にしか見えないな。

 そんな彼女を見てると追求する気も失せる。

 まぁ、いい。

 もうその呪いも解いたって言うんだ。

 それを信じようじゃないか。

 これからは肉体も成長するらしいし。

 俺と会ったことで再び彼女の時間が動き始めたのならなによりだ。


「まずは俺から話すのが筋だと思う。聞いてくれ。俺が当時どれだけ思い上がってて、どれだけ簡単に折れたか。そして、それから十年間どうやって生きてきたのか」


 栄光と挫折。

 そのまま一人でひっそりと人生を終えるだろうと思ってたこと。

 すべて正直に話した。

 不思議と気分がよかった。

 そういえば俺ってこういう風に自分のことを他人に話したのって初めてかもしれない。


「そんな……ケントが責任を負う必要なんてなかったのに……」

「あぁ、私らのせいで天才剣士ケントの才能を十年間も眠らせちまったんだ、クソっ……!」

「その間に冒険者も衰退。私達が足を引っ張ったせいでね」


 いや、こいつら俺を持ち上げすぎ&自分たちを卑下しすぎでは?


「ちょっと待て、お前らに責任なんかねぇよ。俺が最初からちゃんと面倒見てれば……」


「いえ、私達が悪いの」

「だな」

「です」


 引かねぇな、こいつらも。

 しかも向こうは三人。

 こちらは一人。

 分が悪すぎる。

 とりあえず話を変えよう。


「聞かせてくれよ、お前たちがこの十年間なにを思い、どう生きてきたのか。俺にはそれを知らなきゃいけない責任がある」


「えっと……じゃあ私から話すね」


 孤児院での長女的な立場だったセオリア。

 戦士職を極めるために騎士団の門を叩いた彼女。

 女だから。

 子供だから。

 そんな理由で何度ボコボコにされても諦めなかった。

 そして、その真面目な性格と持ち前の根性で彼女は掴み取った。

 新設された『清らかな白鳩(プラミチア)女騎士団』団長の座を。


 それからは合間を縫って俺の足跡を捜す日々。

 たまたま俺が買い物に訪れた辺境の村を訪れた彼女は、騎士団に新師範の許可を取り、訪れた。

 俺の──。

 一人で暮らしていたあの家に。


「私が騎士団でやりたかったことの半分が済んだって言ったでしょ? その『半分』ってのは、ケントをカイザスに戻すことだったの。あとの半分は……なんだろ。自分でもまだちゃんと整理がついてないんだけど、まだ騎士としてやらなきゃいけないことが残ってる気がするんだ。ケントのために」


「おいおい……お前の人生だろ? あんまりにも俺がウェイトを占めすぎじゃないか?」


「……だもん」


 セオリアが頬をふくらませる。


「は?」


「全部だもん……。ケントが、私の全部」


 ……ん?

 んんんんん?

 ん~~~~~~~?


 ……はい?


 ぜ ん ぶ ?


 はい?


「セオリア? それってどういう意味……」


「私もだぜ! ケント百(%)だ!」

「なら私は千(%)ね。はい、私の勝ち」


 はい?


 ちょっと待って。

 なにこの流れ……。


「う……せっかく恥ずかしい思いして言ったのにぃ……」


 あ、やばっ。

 こっちはこっちで久々にセオリアが大泣きしそう。


「ちょっと待った! ちょ~~~~と待った! 一旦ストップ! セオリアの話はわかった! 次はハンナとミカの話も聞かせてくれ!」


 一旦話題を逸らす。


「おう、いいぜ! 私はな……」


 教会都市エスタミアで聖職に就くための修行をしていたが神力の細かいコントロールが出来なかったこと。

 それゆえ落ちぶれていたこと。

 傷つき帰ってきたら冒険者が衰退してたこと。

 なら盗賊ギルドで冒険者を吸収してやろうじゃないかと思ったこと。

 そして、実際にそれを成したこと。


「そのおかげでエルくんたちみたいな有能な冒険者が街に留まってたってことか。ありがとうな、ハンナ」


「ふわぁ!? そ、そんな褒めらるようなこと……にへへ」


 盗賊ギルドとは褒められるものじゃない。

 いくら義賊だとは言っても法に反した行いをしてきたことは事実だ。

 けど、今じゃなくてもいい。

 いつかは罪を償わなければいけないかもしれない。

 その時は俺も一緒に……。


「次はこの美少女寿術師ミカ・アンバー様の番ね」


 水上魔導都市アノスで師・リンネと出会ったこと。

 彼女の名字『アンバー』を貰ったこと。

 元々呪いに興味のあったミカは呪術の道に進んだこと。

 俺に「女が寄り付かなくなる呪い」をかけたこと。(おいおい? そのせいで俺は今でも童t……)

 その対価に『自分の肉体の成長』を支払っていたこと。


「はぁ……ミカはあれだな。才能はすごい。けど頑張り方をちょっと間違えてたな」


「うん……そうかも。ケント、私のこと嫌いになった?」


「嫌いにはなってないさ」


「じゃあ結婚してくれる?」


「ブーーーーーッ!」


 思わず何も飲んでないのに何かを噴き出す。


「……は? お前なに言って……」


「ケント、私本気だよ? ずっと……十年間ケントのことだけを考えてきたんだから」


「私もだぜ!」


「わ、私も……! ケケケケ、ケントとけけ、結婚……」


 ハンナとセオリアも話に乗っかってくる。


「あのなぁ……!? 結婚ってのは好きな相手とするもんだぞ? いくら十年前のことで自分を責めてるからってもっと自分を大事にだな……」


「責めてるからじゃない!」

「本気に決まってんだろ!」

「十年前のことは関係ないの!」


 えぇ……?



「「「私達!」」」



 三人の声がハモる。



「「「ケントのことが好きなの!」」」


 ………………へ?


 えぇぇぇぇぇぇ~……?


 嘘、だろ……?


 てっきり俺を憎んでると思ってた三人が……。


 俺のことを、好、き……? だって……?


 はぁぁぁ……?


「ちょ……」


 俺は頭を抱えて。



「ちょっと考えさせてくれ」



 とだけどうにか絞り出した。

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